救出からの脱出
「行方不明の部員は全員保護いたしました。残るは貴方がたと、酒井君だけですね」
「冬木――だっけか? アンタ、なんでこんなとこに」
「ははっ、決まってるじゃないですか。お嬢様と仲間達が危険と在らば、この冬木、どこまでも助けに参りますよ」
爽やかな笑顔とともにとんでもねぇこと言いやがる。
「ですが、事態は深刻です」
と思ったらシリアスモードである。
「今回の一件、実はご主人様が絡んでいらっしゃるという説が濃厚なのです」
「ご主人様――って、雇い主か。じゃあ吉良――里美の親と?」
「えぇ。里美様の父親こそ黒幕であると、私は踏んでおります」
「まって」
割って入ってきたのは、言うまでもなく吉良である。
「私のお父さんが黒幕? そんなわけないでしょ。第一、使用人は主人を疑うなっていうのがルールじゃないの?」
「――それは名目上に過ぎません。私にとっての主は、吉良里美様――貴方しかいないのですよ」
「うっ……」
台詞が臭いことに気持ち悪さを覚えたからの「うっ」ではなく、どうやら今のは赤面と共に動揺したための「うっ」であるようだ。
全く、コイツも単純なやつである。ミステリアスかと思ったら、よく知られた人間に対しては弱いようだ。
「――そ、それで、何なのよ結局? お父さんが黒幕だって言い張る理由は?」
吉良の問いに、冬木は口の代わりに手足を動かす。
歩いて、手に取ったものは――さっきまで俺が読んでいた報告書だった。
「里美様の父親――譲二様宛てに、これと同じ内容について書かれた報告書が届いたのです」
――おい、と心の中で突っ込む。
「失礼だな冬木お前、中身見たのか?」
「言い訳になりますが、不可抗力です。何せ封筒に入っているわけでもなく、これと同じ状態のまま届いたのですから。更に譲二様の書斎にあったものや、他にも様々な事情が重なった結果――こう疑わざるを得なくなったのです」
「中間端折りすぎじゃね? そこが重要なんだろうよ」
「いえ、これはある種の経緯に過ぎません。本当に重要なのはここからですよ」
手に取った報告書を置いて、再び話し始める冬木。
「私は立場上、譲二様のみならず様々な重役の秘書を勤めることがあります。その折――私は余程信頼されていたのか、私の前で重役の方2名が、"今回の件に関する"話を堂々と始めたのです。これは幾度となくあったことでして、今回私がこの別荘に"管理という名目"で来ているのもそのためです」
「――そこで聞いた話で確信したってか」
「えぇ」
つまり現状、冬木は誰よりも"この一件"に精通しているのだ。
「しっかし趣味悪いなぁ、使用人が重役の盗み聞きとか」
「あの方達が勝手に始めたことですよ。それに私達は、主の命令無しでは勝手な行動が取れません。たとえ聞いてはならない話が始まっても、勝手に下がっては怒られてしまいますので」
「今度こそ言い訳になってねぇよ!」
「ははっ、失礼しました」
だがまあ、これで強力な味方がついたことになる。
「具体的に話を進めよう。どうする? っていうか冬木、今どういう現状だ?」
「部員の方が一度捕まったように、現在この別荘は何者かに狙われ、つい先日の夜に彼らの手中に落ちてしまったようです。恐らく"実験"について公になってしまった所為でしょう。故に皆様は、一刻も早くこの場から立ち去らなければなりません」
「でも酒井があそこに捕らわれてるぞ?」
「それについてはご安心を。私は先ほど言ったように、幾度となく重役の話を聞いています。この機械の操作方法について聞くこともありましたので、今から酒井君のカプセルのみ停止させます」
「俺はどうすればいい?」
「貴方はここに残ってください。出来れば里美様も。神楽さんは2階の最西端にある小部屋へ向かい、部員と合流してください。尚、合流してもその場から動かないよう、お願いします。荷物はこちらで先に纏めて回収しましたので、その点については気になさらず」
「分かりました」
言って、神楽は猛スピードでこの部屋を後にする。
「――さて、月宮君。力仕事の時間ですよ」
「何をしろと」
「追って指示します。ただし、くれぐれも操作を誤らないようご注意下さい。最悪、酒井君が死んでしまいますので」
「脅すのは止めてくれないかな」
言いつつ俺は、酒井が収まっているカプセルの前にスタンバイ。
吉良も隣に着いたのを確認して、冬木がカプセルの横にある操作盤に触れる。
「――言い忘れていましたが」
「んだ?」
「恐らく、このカプセルの稼働を停止すると警報が鳴ります。ですが焦らず、確実に行動して下さい。いいですね?」
「わかった」
「いつの間に、私の屋敷がこんなことに……」
ぼやく吉良を他所に――いよいよ警報が鳴った。
そこからの行動は、恐ろしく早かった。
ゴチャゴチャした手順の所為で大半を忘れたが、まずは何とか酒井の救出に成功する。服が液体で濡れてやがるとか吉良も下着透けてるとか適当なことをぼやいている辺りいつも通りだなと確信してから、地下施設を脱出する。神楽たちとも合流し、やがて全員が忘れ物もなく揃ったなと思った頃には――冬木が運転するリムジンに、俺達全員が乗り込んでいた。
「――リムジン持ちとか流石だわ」
普段底抜けに明るい酒井も今に限ってはテンションが低いらしい。
「――着替えたい」
「分かるよそれ」
吉良と神楽は相変わらずな様子。俺を含めて残りはずっと黙っている。
やがて各々を家に送り届けると、冬木は爽やかな笑顔とともに去っていった。あいつどこまで余裕あるんだか。
さて、さっさと寝るか。まだ昼だし、昼寝するに限る。
全く、折角の夏休みに変な思い出を作ってしまった。




