夢?
「や、やめてください……」
何処からかそんな声が聞こえてきた。
声の方へ行くと、一人の女性が怯えて後ずさっていた。目の前には、今にも剣を振り下ろそうとしている鎧を着た男。
オレは助けなければ、という思いでその男に突進して押し倒す。
予想外の出来事に男は反応できずそのままオレに押し倒される。
「逃げろ!」
女性にそう叫んでいた。
女性は驚いた表情で頷き走って行った。
すると、男はオレの首を絞め馬乗りになる。
「うがっ……」
逃れようともがくが男は予想以上に力がありビクともしない。
――あれ? オレ……ここで死ぬのか?
「よしっ! やっとボスを倒せた。これでランキング五十位内」
オレは中学を卒業し高校に通っている……はずだった。いや、入学はした、でも馴染めなかったんだ……
そして一年の歳月が過ぎ見事にニート、ゲームに捧げる毎日。
「えっ!? マジ!? ローズちゃんのフィギュアが!?」
何となく見たページには、大好きな女戦士のローズのフィギュアがあるコンビニとのコラボで各店舗2点限定で発売するとの事。
急いで着替え家を飛び出す。そして、家のすぐそばのコンビニへ猛ダッシュ。
かつて、こんなにも田舎中の田舎に住んでいて良かったと思った事はあったか……おかげで簡単に手に入った、それも二体。
帰りはゆっくり歩く。コンビニで買ったジュースを手に。
「ん? あれ? こんなにも暗かったか?」
気がつくと周りが夜以上に暗くなっていた。
そして唯一見えた明かりに向かって行くと見たこともない街に出た。
オレの来た方を見ると、薄暗い森だ。そこで遠くから女性の声が聞こえてきて今に至る。
首を絞める力はどんどんまして行く。オレは手に触れた物を取りそれで男を攻撃した。
「ケホッケホッ……はぁ……助かったのか?」
自分でも何をしたのか分からなかったが男に近づきそれに気がつく。
「!? ……お、おい……嘘だろ?」
男は血を流し動かない。自分の手元を見て気がつく。オレは男を剣で刺し殺したのだと。手から剣を落とし、尻餅をつく。
「ま、マジかよ……オレ、人を……」
だが、よく考えるとこの展開、現実じゃないんじゃ? こんな鎧、現実じゃあ考えられない……
試しに、頬をつねってみる。
「いでででっ……」
痛くないだろうと思い思いっきりつねったせいで、手を離しても痛みが残る。
「げ、現実? ……」
いや、もしかしたら寝ながらつねっているのかも……きっとそうだ。
そうこうしていると逃げ切ったと思っていた女性が戻ってきた。
「あ、あの……わざわざ助けてくれてありがとうございます!」
「えっああ……」
「えっと、取らないんですか?」
「えっ? 何を取るんだ?」
「あなた、参加者でしょ? 知らないんですか?」
参加者? この女何を言っているんだ?
始めは何を言っているのか分からなかった。
するとその女性は男の所に行き、男の首元を短剣で切りつける。
うわっ……この女……何してんだよ
何かを取り出し、オレの元へ駆け寄ってくる。その手には、血にまみれたキラキラと光る丸い水晶が握られていた。まるで命が光っているようだった。
「でも、貴方は確かに参加者ですよ? えっと、これは、説明を聞いてやる気になったらお返しします」
そう言って水晶の血を綺麗に拭き取り革の鞄にしまう。
「では、私についてきてください。助けてくれたお礼です。それに、何も分からない人を攻撃する程私は最低な奴ではありませんので」
「は、はぁ……?」
よく分からないままその女性について行く。青白く光る植物が生い茂る道を歩いて行く。
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね」
「え?あ、あぁそう……ですね」
「初めまして、私、アージュです」
「えっと……オレは、佐藤 華乱です」
「苗字は普通なのに、名前は女の子ですか?」
悲しすぎるっ! そういえば、病院でも名前を呼ばれて行ったら看護師さんに驚かれたかな……オレの親なにしてくれんの!?
「あはは、きついなぁ〜」
無理に笑ってみたが、彼女はほぼ無反応。
「あれ? アージュさんですよね? 片仮名ですよね?」
「えっ? ぁあ、すみません。それ、本名じゃないです。」
「えっ……」
「先生からの教えで、"信用できない人には本名を教えるな"と。いえ、結構それで危険な目にあったので」
これって、オレもユーザー名とかでよかった? よかったよな!? 恥かくよりよっぽどいいよな!?