ハーレムパーティとフェンリル
※流血的描写あり、苦手な人はご注意を
山の斜面を転がっていったタイチを追って奴の連れ三人がリリから離れた隙に素早くリリに駆け寄る。特に外傷はないので大丈夫だと思うが一応確認しておく。
『大丈夫か? どこか怪我してないか?』
『うん、私は平気だけどレオは傷の具合は?』
連中が離れたといえどもそこまで遠くに行ったわけでもなく、またこちらに戻ってこようとしているので必然としてリリも俺との会話は念話を使って行うらしい。
もしかしたら独り言みたいに思われるのが嫌なのかな。
『リリの治癒のおかげでなんとかな……あいつに狙われるのはこれで何度目になるか――――次は負けん』
『勝ち負けの問題なの? ……というか何度もってゲーム時代から?』
『そうだ、ゲーム時代からな……ただゲーム時代はまだコミュニケーション機能でいくらでも誤解を解く事も出来たんだが面倒というか目立ちたくなくてな、あいつに関わってたやつは大概有名プレイヤーになるからな』
現に奴がギルドマスターをしているギルドのメンバーは皆かなり有名であちらこちらのパーティに引く手数多だとか……全員女らしい、リアルは知らんが。
その分悪目立ちもしてるから古参には嫌われて新規とかには好かれている。
「おーい――――さっきはごめん! 何も知らずに君の契約獣を攻撃しちゃって」
そうこうしているうちにタイチ達が戻ってきた、俺には目もくれずリリににこやかスマイルだと……誠意一杯の殺意を込めて睨みつけてやる。
「あはは、君もごめんよ、ほらこれで機嫌直してくれよ」
睨んだら一歩後ずさりながらも俺に生肉を差し出してくる、ラベルが違うのでどうか知らないが一見して高級品だろうということは分かった。
とりあえず、前足でその肉を地面に叩き落として再度殺気立ってみせる、……この野郎リリに色目を使いやがって。
食べ物を粗末にするのは悪いかもしれないがここで落としたとしてもシルバーウルフの餌になるだけだろう。
「あ、ははは……生肉嫌いだったかな?」
いや、お前が嫌いだ。
『レオ、ここは私に任せてくれないかな? 悪いようにはしないから、とりあえず穏便にね? あまり有名な人に喧嘩売っちゃ騒ぎになっちゃうよ?』
ここは山の上、始末したってバレやしないだろう、と思ったがリリが任せてくれというのなら任せよう。
ここでやっても復活されて付け回されたら面倒だ。
『好きにするといい、だがな、俺はこいつが嫌いだ……組むような流れになっても一時的にだからな』
俺たち二人の目的はあくまでフェンリル、もしこいつらも狙いがそれであれば、今回は組まざる負えないだろう……俺にだってそのぐらい分かる。
『ありがとう』
リリはそういうと俺とタイチの間に俺をかばうように割り込んできた、それに応じて俺も一歩下がる。
「ごめんね、気を悪くしたかもしれないけどこの子はそういうのは食べないから」
「あはは、そうなんだね……ともかく君が無事で良かった」
「うん、さっきは助けてくれてありがとう、私の名前はリリっていうの……貴方は確かタイチ君だよね」
リリがタイチの名を口にしたときの奴のどや顔というかにやけ顔というか、一挙一動がムカつく。
「俺のこと知ってるの? 俺ってそんなに有名かな~」
白々しい、炎剣と氷銃だけ見てもすぐにパッと名前が出る、ある程度ゲームをやってたやつなら一度ぐらい名前を聞いたことがあるだろう。
ギルド【円卓聖騎士団】:【団長】タイチ、職業は【二種使い】でイベントランキング一位報酬である【炎龍剣】と同じく一位報酬の【氷狼銃】を使い、純白の騎士甲冑に聖騎士御用達マント(このマントはギルドメンバーの証)に背中を気にせず戦うために闇属性無効化の能力を持つ日輪の盾を背負う、まさにチート主人公……みたいなやつだ。
「まあ、そのタイチだよ、よろしく! そしてこっちの三人は今の俺のパーティメンバーで猫獣人の子がミミル、こっちのちっこいエルフがレナ、そんでダークエルフがシャラサ」
紹介されて、三人がリリに一礼をする……エルフが小声で「ちっこくない」とつぶやく以外は静かなものだった。
女三人よれば姦しいだったか? 全くそんな気配はない。
一見すれば恋する乙女のようでもあるが、俺の野生の勘が訴えている……これは狂信者の目だと。
「よろしく、それでタイチ君はどうしてこんなところに?」
「ああ、それか……それはここにいるハズのフェンリルを倒しに来たんだ、俺の【氷狼銃】を強化するためにね」
『ああ、イベント武器はモンスター武装だったか、俺と似たような理由で進化できる武器だからな、目的が丸被りでどっちかの目的しか果たせないだろうから、早い者勝ちになるな』
モンスター武装とは素材となったモンスターを倒すことによって進化できる武器の事で、奴の持つ剣と銃どちらもそれに当たる。
俺の補足を聞き険しい表情をするリリ……分からんでもないが今ここでその顔は流石に怪しまれるだろう。
「もしかして君もフェンリル狙いだったかな? ……それだったら一緒に来る? 流石にフェンリル相手じゃいくらレベルが高くても一対一じゃ厳しいでしょう?」
『どうする?』
どうするって……結局これはトドメをどっちがさせるかによるのでこのまま便乗するのがいいだろう。
もしもの時はフェンリルごとやってしまおう。
『恐らくフェンリルは一匹しかいない、あいつらは倒してももう一度出てくるとかゲーム時代のような感覚でいるはずだから今のところは便乗しておこう』
俺がそう言うと了解と頷いてをみせるリリ。
「え、いいの? それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
という訳でリリはタイチのパーティに参加することになった……それにしても「え、いいの?」というなんだか悪いねみたいな感じの言い方、あざといな。
「飛炎龍! 氷狼陣!」
タイチが剣をひと振りすれば火炎で出来た龍が飛び、銃を地面に向けて打てば氷狼の牙が地面から生え次々にモンスターを串刺しにしていく。
山の頂上に居るはずのフェンリルを目指す俺たち一行は山を下ってくるシルバーウルフの群れを飛びかかってきたやつから順に倒していく。
「こいつを進化させるにはフェンリルだけじゃなくてシルバーウルフも五百体は狩らなきゃならないんだ」
そう言ってシルバーウルフをただひたすらに一人で処理するタイチ、こっちは楽できていいがたまに流れ弾がこっちに来るのは気のせいだろうか。
『大丈夫?』
リリも流れ弾には気がついているようでしきりに聞いてくる……心配そうなリリかわいい。
『問題ない、狙ってやってる訳でないのだから、威力はないしな……武器の素材となってる奴が俺から滲み出る殺気にでも反応しているんだろう』
モンスター武装とはそういうものだ、持ち主の為を最優先に考える、こいつらも狂信者というわけだ……リリに悪い影響が出なければいいのだが。
そんなこんなで頂上までやってきたんだが……フェンリルが居ない。
「あれ? おかしいな……ここに居るはずなのに」
タイチが周囲を探っているがその様子は、はっきり言って隙だらけである、野生の獣ならばいい獲物だと考えるだろう、俺もそうだ。
故に奴の気配を感じた、これは地中か。
『リリ、フェンリルは地中だ、気をつけろ……あ、タイチには言うなよどうせ気づいているだろうし』
『えっ、そうなの……分かった気をつける』
嘘だ、タイチが気づいてなどいない……強いて言えば剣と銃は既に反応しているが、持ち主がこれじゃあなぁ。
「んーもしかして別のパーティが来て既に倒しちゃったのかな? 復活するまで少し時間潰――――う、うわぁ!?」
フェンリルが見つからない事を見当違いな理由をつけ、既にフェンリルが倒されてしまったと油断しきっていたタイチの足元の大地から突如牙が生えトラバサミのように彼を挟み込んだ。
「フェンリルだと!?」
タイチはフェンリルの巨大な顎に挟まれながらも剣をつっかえ棒のように挟んでなんとか無事らしいが左肩から血を流している、左腕が使えないなら銃は無理だな。
『そういえばまともに攻撃を食らったことないから怪我とか傷ができるとは思ってなかった、結構えぐいな』
『そうだね、死んでも復活はできるらしいけど死ぬのはとても痛いっていうのは聞いたことあるけど……というか初めて会った時のキャラットの攻撃は痛くなかったの?』
『ああ、レベル差がある程度あったら多少軽減されるらしい、たぶんフェンリル程度のレベルならまだ擦り傷ぐらいで済みそうだ』
この会話の間にもタイチは追い詰められているのいだが随分と呑気なもんだった、まあ連れの女達すらどうしたらいいのか分からず立ち竦んでいるしな、もう少し様子をみよう。
「レナっ! 治癒を頼む!」
「はい! エレメンタルヒール:アクア!」
タイチの声でようやく動き出したレナがエルフ固有スキルエレメンタルヒールの水属性のやつを発動させ、空中にポーションを撒き散らす。
すると、空中に散ったポーションの雫が風に乗ったかのようにタイチの左肩に集まって傷を癒していく。
治癒魔法スキルには持続系と瞬間系がありゲーム中ではあまり気にされていなかったのだが持続系は痛みを和らげながら癒し、瞬間系は痛みを残して傷だけ癒す。
リリが使えるのは瞬間系、傷は治すが痛みは残すやつだ、しかし俺はレベル補正と種族補正それからサイズ補正で痛みが軽減されているらしい。
「ミミル、シャラサ!」
タイチに呼ばれて動き出す二人、武器からしてミミルは斧使いでシャラサは近接弓使いか……レナは精霊治癒師、斧使い以外は種族固有職業だな。
少しだけ詳しく言えば近接弓使いはダークエルフ固有で素早く相手に接近して急所に的確に矢を突き立てるという超物理型職業だ。
精霊治癒師は……エレメンタルヒールしか主なスキルがない残念職業だが、スキルが一つあるだけ俺よりマシだろう、主にエルフの幼女しかなれない職業でパーティのマスコットとして良く用いられるらしい。
マスコットと言っても別に役に立つ立たないということではなく、居るだけでそのパーティに箔がつくという存在らしい、俺の種族:獣もマスコットになる候補らしいが俺しかいない現状他所で見たことはない。
「リリっ、君も頼む!」
棒立ちしていたリリにも叫んでいるが……呼び捨てか。
『リリ、「韋駄天」を頼む』
「はい! クイックスピード! デュアル、クイックスピード!」
獣使いのコンボ、基本的に三つの効果を重ねる事だが「デュアル」は同じ効果の物を二重掛けする時に使う補助魔法でクイックスピードは素早さを二倍にする付加魔法、それを二重で四倍速ということになる。
今回は恐らく乱戦になる、基本的にみんなでフェンリル一体を相手にする構図だが俺は接近戦しかできないので、タイチの遠距離攻撃を避ける必要がある、奴自体が狙わなくとも武器が勝手に襲ってくるという事はさっきは背後にいたから避けやすかったが今度が攻撃目標の近くに居るので常時襲って来ると考えられる。
俺は斧を振り回しているミミルと、矢を構えて突撃しているシャラサの間を掻い潜り、地面からまだ半身しか出していないフェンリルに体当たりをぶち当て、地面から引きずり出すように吹き飛ばす。
俺とフェンリルとの間に体格差はないものの四倍速で行った体当たりに奴の体力の三分の一が消し飛んだらしい、怒りの形相でこちらを睨んでくる。ちなみにタイチは今の衝撃で難を逃れ今はレナに介抱されている。
タイチが介抱されている今がチャンスだ、今のうちに倒しきる!
大地のプロテクトが剥がれ白銀の毛並みが露わになってモフモフ感が増した為かフェンリルを見るリリの視線がときめいている気がする。
『そのモフモフ、我が主の為に貰い受ける!』
四倍速で地を踏みしめ、四倍速で翼を羽ばたかせ、接近し四倍速でフェンリルの喉元に牙を突き立てる、口一杯に広がる鉄分にむせそうになるのを堪え、食いちぎる勢いで顎の力を強める。
まさに歯を食いしばるというやつだ、使い方が間違っているのはわかっている、が喉に絡みつく奴の血液のせいで吐き気が酷く、実際はとっとと離れたい。
しかし噛み付きの持続ダメージは食らいついている時のみだから俺は踏ん張る、勿論この間にフェンリルもただ噛まれているだけではない。
犬科故に引っ掻くというよりはむしろ「お手」をしている程度の前足の悪あがき、ダメージこそないが顎の力を弱めるのには充分効果的で――――残り一割というところで俺はフェンリルから牙を外すと同時にその場を飛び退き……吐いた、盛大に吐血した。
錆びた鉄と腐った泥を混ぜ発酵させたような、帰ったらうがいしよう。
『まずっ、フェンリルの血まずい……もう一杯!』
まだまだ元気である――――が遅かった、タイチの野郎が復活した。
「よくやったリリ、偉いぞ! さあフェンリル、覚悟してもらうぞ! オメガッブラスタァァァァァ!」
氷狼銃が吠えた、銃火器であるはずだがその銃口からは青白い光線が発射され、フェンリルの脳天を貫いた。
いきなり横から掻っ攫ったタイチの使ったスキルは魔銃スキルの【オメガブラスター】属性は武器依存の特殊スキルだ。
太く短くか細く長くの二通りを任意で発動できその威力はフェンリル程度なら一気に体力を半分は削れるという高威力でオーバーキルだ。
ドサリと地に崩れ落ち血の噴水を化すフェンリル。
しばらくするとタイチの持つ氷狼銃が発光、それに呼応するようにフェンリルも光りだす、モンスター武装の進化の兆しだ。B連打せねば、俺の形態変化ができなくなる。
『オーバーキルにはオーバーキルだ!』
俺は発光しているフェンリルに向かって跳躍した、進化の邪魔をされると感じ取ったのか氷狼銃から三発の弾丸が発射される、その光景には持ち主も驚き目を丸くしている。
四倍速が既に切れていた俺にその弾丸を避ける余裕はなく背中に弾丸を浴びつつ痛みを無視してフェンリルの遺骸に食らいつき爪でその胸を切り裂き、その中にある未だに微かに鼓動していた心臓を一気に口に咥えこみ。
噛みちぎった、ブチブチと臓器や血管を引き裂く音が響き、俺はそのまま心臓を飲み込んだ。
すると氷狼銃の発光は収まり進化はキャンセルされた、血で赤く染まった俺を呆然と見つめるタイチは何が起きたのか理解していない様子だったので無視してリリの元へ向かう。
途中、レナ達が「あ」とか「え」とか何か言おうとしてたのも無視してリリに近寄る、本当は頬ずりの一つでもしたいが血でリリを汚す気はないので我慢する。
『えーと……どうする?』
『そんなもん決まっている……逃げるんだよ!』
俺とリリは来た道を戻ることにした、放心状態のタイチ達をほっといてだ。
今ならフェンリルが死んだばかりなので配下のシルバーウルフもしばらくは巣穴から出てこないので楽に帰れるだろう……今日もまたあの小川のところで野宿だな、さっさとこの地を洗い流したいもんだ。
タイチハーレム
【名前】レナ
【種族】エルフ
【職業】精霊治癒師
【性別】女
【所属】タイチハーレム
【スキル】
エレメンタルヒール:アクア(持続治癒)
精霊の力で対象を治癒する。液体型ポーションを用いることで効果を上昇させる。痛みを和らげる。
エレメンタルヒール:フレア(瞬間治癒)
精霊の力で対象を治癒する。傷口を火傷で塞ぐので痛みが残る。
エレメンタルヒール:ゲイル(瞬間治癒)
精霊の力で対象を治癒する。癒しの風が傷口にしみる。
エレメンタルヒール:ガイア(持続治癒)
精霊の力で対象を治癒する。傷口に土がつくのでそこからばい菌が入る恐れがある。
【アビリティ】
従順(常時)
指揮アビリティを持つ者の命令がないと何もできない。ダメ人間。
精霊の加護(常時)
精霊が見守っている。
【名前】シャラサ
【種族】ダークエルフ
【職業】近接弓使い
【性別】女
【所属】タイチハーレム
【スキル】
零距離弓矢(近接)
近距離で放つ矢なので絶対当たる。深々と突き刺さる。
刃弓斬(近接)
弓に仕込んだ刃で相手を斬りつける。
ローキック(近接格闘)
普通の蹴り。
股潰し(近接格闘/男性専用)
男のアレを粉砕する。
【アビリティ】
従順(常時)
指揮アビリティを持つ者の命令がないと何もできない。ダメ人間。
遠視力(常時)
遠くがよく見える。
【名前】ミミル
【種族】猫獣人(雑種)
【職業】斧使い
【性別】女
【所属】タイチハーレム
【スキル】
斧投げ(遠距離)
斧を投げる。投げた斧は拾いに行かなければならない。
薪割り(近接)
薪割りに最適。ゴブリンも真っ二つ。
斧盾(防御)
斧を盾のように使う、持ち手を攻撃されると痛い。
【アビリティ】
従順(常時)
指揮アビリティを持つ者の命令がないと何もできない。ダメ人間。
危険察知(常時)
危険を野生の勘で察知し回避できる。
暗視(常時)
暗いところもよく見える。
発情(任意)
発動すると異性に率先して選んでもらえる。