初戦闘とハーレム野郎
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チュンチュン――――という雀っぽい鳴き声で俺は目を覚ました……見張りのつもりでいたのにいつのまにか寝ていたらしい。
焚き火もすっかり消えて灰になっていたがちゃんと水を掛けて消したような後もあるので恐らくリリがやったんだろう、湿り具合からすればそう時間は立っていないはずだ。
『リリ、おはよう……っていうかどこにいる?』
近くにリリの姿がなかったので、念話を飛ばして見るとすぐに返事があった。
『あ、おはようレオ。今は水浴びしてるよ、レオも来る?』
『リリは水浴びが好きなんだな……俺は遠慮しておく、何度も毛皮を濡らすのは面倒だ、顔ぐらい洗いに行くが』
そう言って俺は立ち上がり、のっしのっしと小川へ歩いて行く――――例のごとくリリは全裸だったが気にせず小川に顔を突っ込むと首を回転させて器用に顔を洗う。
ドラム式洗濯機! などとふざけ半分でやったが中々楽しくなってきた、梟の部位は少ないし翼の大きさゆえに飛ぶことも叶わないがこういった遊びができるなら悪くないと思っていた矢先――――。
首の可動範囲が梟のそれなのでうっかり回しすぎて百八十度回転したことによって鼻の中に水が入ったために盛大にむせて水面から慌てて顔を上げる。
「れ、レオ! 大丈夫!?」
心配したリリが慌てて駆け寄ってくる。
『ああ、平気だ少し鼻に水が入っただけだ』
そう言って鼻から入ってきた水を吐き出すと少し鼻水が垂れたのでリリが倉庫を操作してティッシュペーパーを取り出してくれたので鼻をかむ。
少し浮かれていたかな、もう二度とこの方法で顔を洗わないと心に決めた……また一つ賢くなった気がする。この体に慣れたとは言え、何をしたら危ないかだとかは全く未知の部分も大きい今後の課題だな。
「もう、気をつけてよね、レオの身体は普通じゃないんだから、なんかあったら凄く驚くというか心配になるから」
リリの言うとおり俺は普通ではない獅子の頭に前足と梟の首に翼、残りは狼という一風変わった合成獣、自作とは言え語呂をよくしようとばかり気にして作った為その機能面は全然気にしていなかった。
今に思えばその昔、俺以外の合成獣プレイヤーがまだいた時代では機能面と見た目に拘ったキャラメイクが多かったように思う。
所謂メジャーな合成獣であるグリフォンからキマイラ、マンティコアはもちろん、カモシカベースに東洋系の龍を組みわせた麒麟だとか、個性の目立つ幾多の自称鵺とか。
俺のようにオリジナル合成獣にしてたやつは少なかったように思える。
というか俺ぐらいだったか……サブアカウントじゃ【魔王】と題した熊ベースに手首から肩の付け根までゴリラの腕に、頭にはヤギの角、口元には豚の牙、首元には獅子のたてがみ、背には針鼠の毛針、尾は蛇と言った悪魔っぽいイメージの合成獣も作ったりしてたもんだし……ちなみにそいつは俺の中じゃもはや黒歴史、悪事の末に大勢のプレイヤーに討伐対象にされ、最期は運営からアカウント停止で削除されたやつだ、計五万八千をドブに捨てた事件である。
「どうしたの?」
リリの心配そうな声で我に返る、昔のことを思い出していたらいつのまにか自己嫌悪から自分の世界に閉じこもっていたらしい。
あれはショックだったな……運営側も別にそこまでする気はないとかで別の形でメインアカウントに使った分全額とはいかないがある程度は返してくれたし。それが救いではあったが後に実装されたアレを見たときにはもう……。
『いや、少しな……嫌なことを思い出してな』
言葉を濁す、リリがプレイ歴どのぐらいか分からないが、あの悪名高い【魔王】を知らないとは限らないし無理に言う必要もない。
【ゴリ憤怒事件】とも呼ばれ未だに語り継がれている、俺の汚点の一つだ。
「そう……私もそういうのあるから聞かないことにする」
なんだ、リリも魔王をやったこと……あるわけないか、俺の他に聞いたことないしきっと別の嫌な過去だろう。もしかしたら魔王の配下の誰かだったというのなら可能性はありそうだが、女幹部は二人しかおらず、どちらもリリとはあまり似ていない気がする……アバター云々ではなく性格的にだが。
『さて、とりあえず服を着てから、どこか狩りにでも行こう』
急かす事でもないが俺は脱ソロ初めての狩りが楽しみで仕方なかった。
レベル上げは俺達に必要ないが、俺にはまだ強くなるための方法があるからな。
「それで何を狩るの? レベルに合ったやつ? それとも何か狙いがあるの?」
『ああ、どうだなまずは肩慣らししてからそれから神獣種を狩りに行きたいな』
「神獣種? ってレオの親戚か何か?」
親戚か似て非なる感じだが大体その認識で正しい、要するにプレイヤーの神獣ではなくモンスターの神獣だ。所謂ボスに該当し合成獣型から神話に出てくる伝説の生き物まで様々居る。
『俺のアビリティの中には少し特殊な奴があって【形態変化】と言ってな、倒したボスモンスターの姿を借りる事ができるアビリティで、ゲーム時代には色々あったんだがこっちに来た時にどうもリセットされてしまったらしくて、また集めようかと思っているんだ』
あれがあれば契約などせずともソロでも充分やって行けていたんだけどな、二人となってもやはり確実な強さとは言えない現状再び集めて損はないと思う。
リリが何を望みこの世界で何を成すのかは分からないが俺が強くなることに関して言えば問題はないだろう。
「そうなんだ、なんにしてもレオが強化されるって言うんなら私もそれでいいかな、特に目的もなかったし」
『邪神討伐には興味がないのか、もしかして元の世界に帰りたくないというやつか?』
プレイヤーの中にはこちらの世界の方が住みやすいと言って邪神討伐に反対……とまではいかなくとも非協力的な奴らが少なからずいる。俺もどちらかといえばそっちの派閥だ。
「帰りたくないって訳でもないんだけどね、ただまだこの世界を知れてないし、レオの事もよく知らないからもっと知ってから決めても遅くないんじゃないかって思うの」
『それはリリの好きなようにするといい、だが俺は先に宣言しておくがどちらかといえば帰りたくない派だから……その、リリも帰らないのなら嬉しい』
昨夜付き合うとか云々言ったばかりで既に帰るかどうか的な話をしているのも大分ぶっとんだ話だと思っているが、俺はどうしても彼女をこの世界に留めて置きたかった……予感でしかないが帰るという選択は選ぶべきではないと思うのだ。末永く共にある、年をとると身を固めようとばかり考えてダメだな。
「あ、うん……もちろん私もレオとずっと居るよ、絶対に帰りたいってわけじゃないし」
……………………。
自分たちで言っときながら、なんだこの恥ずかしい会話は……しばらくお互い黙っていたが堪えきれなくなった俺が話を戻した。
『と、とりあえず近場から行くとしよう、ここから近いのは銀狼山に居るハズのフェンリルだな』
フェンリルとは、要するに神話に出てくるでっかい狼である、様々なイヌ科の特性を併せ持つスーパードッグである。神の番犬とも言われているが狼なのに犬扱いとか可哀想だとかよくネタにされてる噛ませでもある。
メインシナリオにおいては最初に出てくるボスとして使われているのでレベルも低い。
「フェンリルかー、それはまたもっふもふだねぇ……そのもーどちぇんじ、っていうのしたらレオがフェンリルになれるってことなのかな?」
『ああ、そう思ってもらって構わない、ただ制限時間があってな五分間しかその姿を保てない上に一日に一度きりで日付が変わるまで再び使えないんだ、故に複数種類の神獣種を狩る必要がある』
キャラメイクからは消え去った種族:【合成獣】ではあったがそこらへんのシステムは何故か残されていて、新実装神獣種とかでもなれていたのでもしこの世界にゲームでも未知の神獣種が存在すれば、そんなのも狙っていきたいところだ。
「そっか、それじゃあグズグズしてられないね!」
そういうとリリは俺の背中へ飛び乗り「しゅっぱつしんこう!」と元気よく叫んだ。
子供っぽい仕草がまた可愛い、わざとならかなりあざといがそれはそれでいいかな。
銀狼山、正式名称は他に何かあったが忘れた……ここが何故そう呼ばれているかといえば、実に単純な話でシルバーウルフしかモンスターが出てこないのだ。
フェンリルも居るには居るがあれすらも少し馬鹿でかい亜種みたいな感覚らしいので結局銀狼山と呼称されている。
「レオ、ブレイズクロー! ゲイルウィング! グランドインパクト!」
獣使いの固有アビリティには【コンボ】というものがある、これは契約獣に施した付加を組み合わせと順序によって別のスキルへと変化させるアビリティだ。
俺の前足の爪に炎を纏わせ攻撃力を上げ、翼に風の加護与え姿勢を安定させて後ろ足に大地を揺らすほどの衝撃を生む事によって直線上に居るモンスターを一気に葬るスキル【炎爪一閃】になる。
山の上から俺たち目掛けてたくさんのシルバーウルフが飛びついてくるこの状況でこのコンボは効果絶大であり一気に二十匹近いシルバーウルフを消し炭に変えてやった。
しかしこの時俺達は慢心していたんだと思う、後から考えれば分かったような致命的なミスを犯していた。
俺やリリはこちらに来てからほぼソロでやってきた、リリはたまにパーティに参加してた事もあるらしいが、それでも圧倒的に団体戦に不慣れ、自分の戦いにばかり集中してしまい周りを見れていない。
それが悪いとは思わないが、やはり相手は無尽蔵に現れるモンスターで普段は一対一で戦うことを基本としていた俺たちと、群れで行動し常に一対多の戦闘をしてきたモンスター達では経験に差があったらしい。
【炎爪一閃】により直線距離でリリからかなり離れたところに着地した俺が振り返った時には、既に二対多ではなく一対多のニ組みという状況になっていた……これはマズイと思い急いで引き返す俺。
正面を遮りリリの元へ向かうのを邪魔するシルバーウルフ達を未だ爪に残っていた炎で焼き切り、翼に纏った風でなぎ払い、地を揺らすほどの脚力で蹴り上げながら突き進む。
リリは必死に自己防御と自己回復をしているが俺が戻るまでに間に合うかどうかわからない――――そんな時だった。
一匹のシルバーウルフの牙がリリの防御魔法を突破してリリの腕に食らいつこうとしたまさにその時。
「コキュートスバレット!」
どこからともなく、一発の弾丸が飛んできてリリに今にでも食らいつこうとしていたシルバーウルフに命中し、瞬間冷凍――――氷付けになるシルバーウルフに追い打ちを掛けるかのように。
「炎龍剣!」
炎を纏った剣が一閃しその氷を粉々に粉砕した。
優勢に立っていたハズのシルバーウルフ達の動きが止まる。
「下がって」
リリに優しく声をかけるその男は、次の瞬間には近くに居たシルバーウルフ達を真っ二つに切り裂きこちらへと走ってくる。
走りながら冷気を纏う銃を乱射し俺の周りのシルバーウルフ達に命中し次々に氷付けにするが流れ弾か俺にも銃弾が迫ってきたので炎爪で弾き飛ばすと弾丸の冷気で俺の爪に纏っていた炎が打ち消された。
「チッ」
不意に聞こえた舌打ちに、その意味を理解した俺は――――後ろへと飛び下がった。
そして俺が先ほどまで居た場所には炎の剣が突き刺さり地面が爆ぜた。
理解した、こいつはまた性懲りもなく俺をモンスターだと思い狙ってきたらしい。
その男の名は【タイチ】絶望していた全てのプレイヤーに希望を与え、またゲーム時代にはトッププレイヤーとして名を馳せ、執拗に俺をレアモンスターだと勘違いして行く先々で追い回してきた忌まわしき男だ。
新モンスター情報を書き込む掲示板に俺の情報を書いたのもこいつだったな……あの時は誰も信用しなかったようだが、倒してスクリーンショットを取ってこいと書かれた後一週間に渡り俺の後をつけ回してきたストーカー野郎だ。
まさかこっちの世界でも追われるとは思わなかったが、今はリリが居るのでなんとか誤解は解けるんじゃなかろうか、モンスター扱いが治らなくてもリリがテイムしていると知れば手は出してこないだろう。
「タイチー!」
「タイチさん!」
「ター君」
山の麓から走ってくる人影が三つ、猫獣人、エルフ、ダークエルフか……全て女性でどうやらタイチのパーティメンバーらしい。
「みんな、その人を安全な場所へ! こいつはゲーム時代に俺が見つけた新種のレアモンスターですごい強敵なんだ! みんな手を出さないでくれ」
意味がわからん……俺、シルバーウルフに襲われてたのに敵モンスター扱いなの?
『あーリリ? 悪いがこいつになんとか言ってくれ……リリ? おい、大丈夫か!?』
リリに念話を送ってみたがどうも返事がない、気を失っている訳ではないようだが、少し気が動転しているのだろうか、ダークエルフのお姉さんが優しく介抱している。
「大丈夫? 立てる? というか意識ある?」
ゆさゆさをリリを揺する度に大きな胸を揺らすダークエルフ、に気を取られすぎた――――タイチの炎剣が既に眼前まで迫ってきていてそれを咄嗟に翼で防ぐが間に合わずジュッという音とともに焦げた匂いがする。
続け様に俺の四本足の関節に氷の弾丸を打ち込まれ、体制を崩す……痛みこそないが万事休すか――――諦めかけたその時。
「ヒーリングキュア!」
俺の身体を癒しの波動が包み込む――――どうやらリリが正気を取り戻したらしい。
「お、おい! 君、何をしてるんだ!」
タイチが怒鳴るが――――リリが吠えた。
「貴方こそ私の契約獣に何をするの!」
「け、契約獣だって!?」
タイチ達四人が一斉に驚きの声を上げる――――誤解は解けたようだし、今の回復で怪我も瞬時に治ったし、とりあえずこのハーレム野郎を蹴っておくか。
俺は後ろを向き、未だグランドインパクトの効果が生きている後ろ足でタイチの背中を蹴り飛ばした、やつの背中には日輪の盾があるのでダメージこそ与えられなかったがここが山道であった故にタイチは下まで一気に転がり落ちた。
無様に山の斜面を転げ落ちるタイチの姿を見れば少しは溜飲も下がったが、ここは一つ言っておかねばなるまい。――――ざまあみろ。
【名前】タイチ
【種族】勇者人
【職業】二種使い(剣・銃)
【性別】男
【所属】円卓聖騎士団・団長
【スキル】
飛炎龍(遠距離)
龍を象った炎を飛ばし敵を襲わせる。
フォースオブガイア(力上昇)
剣を大地に突き立てて大地の力を吸い出す。
氷狼陣(中距離)
弾丸を地面に放ち、その場から氷狼の牙が生えて敵を突き刺す。
フェンリルハウル(威圧)
神狼の咆哮で敵の足を止める。
コキュートスバレット(遠距離)
着弾した箇所を氷漬けにする弾丸を放つ。相手のレベルが低いと全身を氷漬けにする。
オメガブラスター(高火力)
剣の力を銃に注ぎ込み、銃口から一気に解き放つ。
サークルオブサン(防御)
日輪の盾から日光を放ち防御する。
【アビリティ】
魅了(常時)
異性を魅了する色香。フリーの相手にしか効果はない。
指揮(常時)
カリスマ性で他者に命令できる、命令された相手は従順になる。