契約獣登録とはじめてのおつかい!
なんとなく長くしようと思っていたのですがどうにも更新遅くなりそうなので今後一話の文字数が減る恐れ有り。
読めればいいって人はどうぞ。
街の中に入ってからというもの様々な視線を感じる。
その殆どは驚愕に恐怖といった物が主だが中には嫉妬や憎悪なども感じられる……ボス級エネミーをテイムしていることに対する視線かとも思っていたがどうにも何か違うような気もする。
『ところで、これからどこへ行くんだ?』
「そういえば言ってなかったね、冒険者組合所だよ、そこでレオが私の契約獣ですっていう申請をして登録証明書を発行してもらうの、じゃないと街の外とかで横取りされても文句は言えないから」
それがこの世界での【獣使い】のルールらしい、世界の秩序に組み込まれたこの法則に逆らえるものはおらずそれを逆手に取った犯罪なんかも多いらしく契約獣をテイムしたばかりの【獣使い】は余程のことがない限り最寄りの街で登録を済ませるそうだ。
『俺はまずありえないと思うが横取りというか奪うことは可能なんだな?』
「そーだね、私はこれでも前はドラゴンと契約してたんだけど……私より格上、っていうのもカンストしてる私が言うのも変なんだけど、とりあえずそんな人に取られちゃってね、わざわざ私がテイムするのを待ってたみたいで……それで私、抗議したら逆にドラゴンをけしかけられちゃって……それで思ったんだ、誰も欲しがらない普通の子をテイムしようってね」
『で、その決意も俺にあって揺らいだと……』
「そういうわけじゃないんだけどね、そもそもあそこじゃそういう張り込みしてる奴も少ないだろうと思ったし……結果で言えばそのへんのモンスターみたいに訳も無く他人に取られたりしないんならいいかなー、なんて」
そうだな、とだけ返して俺はしばらく沈黙した、それに釣られたのかリリも黙り込んだ――――打算的な関係、最初はそんなもんだろう、俺達はプレイヤーとモンスターという訳ではない、プレイヤーとプレイヤーなんだ、どちらも手放したくないと思いどちらも見放されたら困るというのなら利害は一致しているんだ何の不都合があるだろうか、まあ野暮な輩が何人かつけてきてるからそれの掃除ぐらいはしてもいいだろう。
しばらく進むと街の中心に『冒険者組合所』と漢字、それも楷書体でデカデカと書かれていた、雰囲気はどっかの山奥の道場みたいな感じだ……外観は普通にどこにでもあるような市役所っぽい近代的な作りをしているが。ここら辺はゲームっぽいんだが、漢字については腹筋女神が伝えた女神文字と呼ばれ日本語すらも女神言語とか言うらしい、女神が俺たちを招くにあたって尽力した結果だそうだが妙なところは親切だな。
「それじゃレオはここで待っててね、くれぐれも知らない人について行っちゃダメだよ? それじゃ、後でね――――たのもー!」
俺を大型契約獣専用スペースというところに待機させ、道場破りみたいな掛け声で中に入っていった。そろそろか……。
それを見計らったかのように三人の男達が物陰から姿を現した。
「ぐへへ、リリのやつ行っちまったな……無用心にも程があるぜぇ……街の中なら安心だと思ってやがんのかねぇ」
「そうですね、きっと浮かれてやがるんでしょうね、で、これからどうしますかアニキ!」
「そんなもん決まってんだろ、さっさととっ捕まえてお嬢に献上すんだよ、この間リリからドラゴンを取ったばかりだが今回のやつのほうが格上のようだしな、きっとお嬢も喜んでくださる」
だそうだ……どうやらリリからドラゴンを掻っ攫った連中のようだな、それにこの感じは――――確証なんてないがこいつらネイティブっぽいな。
ネイティブとは言葉の通りこの世界に元々住んでいる連中のことでありゲーム中に登場したNPCなんかとは違う存在である。
元々この始まりの街に住んでいたのもこいつらであるのでプレイヤーは基本的に余所者扱いだったが一度に大量の余所者が突然どこからともなく湧いて出た為ネイティブたちも歓迎する他なかった。
しかしながらまだこの世界にやってきて一ヶ月だ、プレイヤーは市民権を得られた訳ではない。それに加えネイティブはネイティブで選民意識とも呼べる意識でプレイヤーを見下している者も多くいると聞く。
元はゲームしてたただの一般人がそのへんの威圧的なゴロツキ相手に強く出れないというところもあるのか、リリは恐らくこいつらとその上に居るやつにいいようにされているんだろう。
「ほら、高級肉だぞ! 美味そうだろ? 欲しいか、欲しいよな?」
ゴロツキの中でアニキと呼ばれている隻眼のムサイおっさんが高そうな生肉を俺の目の前にチラつかせる……こんな方法でいつも盗ってんのなら盗られる契約獣の程度もたかが知れるってもんだ。
目障り極まりないのでたたきつぶしてやってもいいのだが、それだと下手すれば主であるリリに迷惑をかける恐れもある、最悪妙な因縁を付けられかねない。
俺は無視を決め込むと地面に伏せて狸寝入りをする、しばらくは様子を伺いつつ最悪リリを呼ぶことにしよう念話だってあるんだしな。
「こいつ肉には目もくれねぇだと!?」
「リリのやつ、ここに来る前にたらふく食わせたんですかね」
「チッいらん知恵を付けやがって、あのアマ……しかしこうなると奪うのは難しいな、このまま契約完了されてお嬢がそれを見てみろ、俺たちの首が飛ぶぜ」
勝手に首を飛ばしてればいいのに……次は何を仕掛けてくるのやら。
「俺たちの首が飛ぶ前にこいつの首を飛ばしちまおうぜ、そうすりゃお嬢にだってバレやしない」
頭いいなとか褒め合うゴロツキ達には悪いが俺の首は獅子のタテガミに守られ、梟並みの回転をする――――のは今は関係ないが正直こいつら程度が俺の首を刈れるとは思えない。
まあアビリティぐらい使っておいて損はないだろう、種族:獣はスキルは使えない、だがアビリティと呼ばれる固有能力ならば使うことが可能だ、と言っても種族:人にだってアビリティはあるので種族:獣が特別というわけではないのだった。
『アビリティ:硬質化発動』
念話と同じ要領で宣言する、この世界のスキルやアビリティは一々口に出さなければ発動しないので念話が使えなかった頃はほとんどアビリティは使えていなかった。つまりこれがこの世界に来て初めてのアビリティ発動だったりする。
『え、レオ……? どうかしたの?』
念話と同じ要領というか念話になったらしくアビリティの発動がリリに伝わってしまったらしくリリが念話で訊ねてくる、それでも発動自体成功しているので問題はないか。
『何、質の悪いゴロツキに絡まれてな、餌を無視して狸寝入りしてたら俺の首を刈るとか言うもんでな硬質化を使ったところだ』
心配はかけたくなかったので秘密裏に済ませたかったのだがここでなんでもない等と言ってしまうと今後の信頼関係に亀裂が生じかねないので正直に話した。
『大丈夫なの? すぐに戻るね!』
『待て、まだ登録は終わってないんだろう? 適当にあしらっておくから先に登録を終わらせるんだ、今来られても難癖を付けられる可能性が高い』
『う、うん分かった……もう少しだけ待ってて、すぐに終わらせてもらうから!』
さて、リリはこれでいいとして……。
「おらぁぁぁ! 死にやがれ、こん畜生ぉぉぉぉ!」
リリと念話している間、三人で絶叫しながら一心不乱に俺に剣を叩きつけていたゴロツキ達、毛一本すら切断できず体力ばかり無駄に使っているせいか声から疲労度を察することができる。
俺はいい加減うざったくなったので狸寝入りを止めて起き上がった、硬質化した毛皮に剣を弾かれていたゴロツキどもは俺が立ち上がるのと同時に剣を叩き込んできたので思いっきり突き飛ばすような形になってしまい少し離れたところで尻餅をうっていた。
さて、どう料理してやろうかと思っていたところで冒険者組合所の扉が勢いよく開き、リリが飛び出してきて――――そのままゴロツキと俺の間に立ちはだかるように着地した。
「また貴方達なの!? いつもいつも私にちょっかい掛けてきて今度はレオを殺すなんてさせないわ!」
『心配ない俺は無傷だ――――それと威勢がいいのはいいがパンツ見えたぞ』
課金アバター、部位:【パンツ】……それもアバターおみくじ限定超激レア、【ホワイトベアパンツ】――――黒いパンツのお尻の部分に白熊の刺繍が入っているというものだが俺も初めて見た……余程の重課金者だったらしいなリリは……まあ、俺も人のことは言えないが。
「えっ! ちょっヤダ!」
リリは慌ててスカートの裾を抑えるがそれは今更というものだ、着地時にチラッと見えただけなので今は捲れている訳ではない、ただ神獣の動体視力が並外れており一瞬でも見えればじっくりと鑑賞することも出来るのだが。
『ホワイトベアパンツだったか、中々のレア物だった記憶があるが、他言はしないので安心して欲しい』
安心できるとは思っていないが、とりあえず誠意は見せよう……謝罪にはなっていないがな。
『もう、今回は許すけど……そういうのはもっと仲良くなってから!』
恥ずかしそうに頬を赤らめ念話してくるリリだったが、訳がわからないよ……何か、仲良くなったらパンツを自分から見せてくれるとでも言うのか? それはそれでいいかもしれないと思う。
――――なんて下らない事を考えていたら、ゴロツキトリオが再起動した、リリを見て先程までの疲れが吹っ飛んだ? のか下卑た笑いを口元に見せる。
さらに背後から一人、冒険者組合所から誰か出てきた、眼鏡にスーツとかいう如何にも職員ですという感じの仕事ができる男みたいなやつだった。
「組合の前で諍いは止めていただきたいのですが……おや、あなた方は領主様の御息女の護衛の方ではなかったですかね? こんなところで油を売っていていいんですか?」
領主の娘の護衛? ――――このゴロツキがか?
「ケッお嬢は今習い事の時間だから別にいいんだよ……そんなことよりよ、騒いでたのは俺たちじゃねぇぜ? そこの大型の契約獣がいきなり襲いかかってきたから俺達は対応するために剣を抜いてたんだよ。そんなガキがこんなデカイモンスターをテイムしきれるわけがねぇんだ、こんな化物さっさと処分したほうがこの街のためだぜ?」
取ってつけたような言い訳をしてくるが、証拠がないだろう……こちらが襲っていないっていう証拠もないけどさ。
「本当ですか?」
何がだよ。
「レオはそんな事する子じゃありません! さっきも説明したでしょう、高い知能を持ち人間の言葉もわかるんです! 信じてください」
リリが俺を擁護してくれる、まあ中身は人間だからな分別ぐらいつく。
「それを証明するものは?」
職員らしき男はゴロツキどもには問わずリリにのみ聞いてくる、所詮はこいつもネイティブか。
『言われたとおりの事をして見せてもいいんだぞ、「お手」とか「お座り」ぐらいならお安い御用だ』
職員の追求に対してオロオロし始めたリリに念話で助け船を出す、要するに賢さとかを証明すればいいんなら容易いことだ。
「えーと、それじゃあ、芸を見せます、訓練とかそういうの無しで、今ここですぐにできればレオが人の言葉がわかる賢い子だって証明できますよね?」
仕込みもなく即興で芸をする、これは普通にテイムされたモンスターでは不可能なことだ。
「ならば、仕込んでいない芸を教えてください、それを私がやって、このモンスターができれば認めましょう」
勿論芸など仕込まれていないが、小難しいものでも言葉で説明してくれるならばやれるだろう。
「えっと、芸なんて仕込んでないのでなんでも言ってください」
これでお手やお座りであれば設けもんだが……職員はそんなに甘くなかったらしい。
「では……ここから大通りを真っ直ぐ進み肉屋の過ぎたところで右に曲がり突き当たりにある獣使い専門店に行き契約獣用高級生肉を五つ買ってきてください……ああ、勿論代金と買うものを書いたメモはこちらで用意いたします」
……お遣いじゃねぇか! どこが芸だ、そんなの普通の契約獣でも無理だろ!
「ひゃひゃひゃ! オイオイそりゃ無理だって獣畜生がそんな低級冒険者のクエストみたいなもんできるわけがねぇだろ!」
ゴロツキさんも無理難題だと言ってくれている……出来なくないけどな、メモさえくれるんなら楽勝だろ。
『リリ、俺は大丈夫だぞ……さっさと代金とメモを書いてもらってくれ』
『うん……気をつけてね?』
何を……とは思ったが、そうかリリはついてこれないよな、なら道中狙われる恐れもあるか。
「受けます、レオも大丈夫だって言ってますので」
思考が通じてますアピールをしながらリリが俺の首に抱きつきながら上目遣いで男性職員を見つめる……実にあざとい、計算された角度、自然にできるとはこいつ案外腹黒いのかもしれない。
「分かりました、とりあえずメモはこちら、代金の入った袋に入れて……これを首から下げてください、組合所のマークが入っているので店の者に見せればどういう意図であるか分かってもらえると思いますので」
つまりこの首から下げた袋を店員に見せてブツを預かって戻ってくるだけか、簡単じゃないか。
「グォン」
理解したと言うように一鳴きしておく。
「――――よろしいですね、それでは行ってきてください」
言われると同時に俺は地を蹴りそれと同時に。
『アビリティ:【神化】、アビリティ:【透過】、発動』
アビリティ二重発動、別に特別なことじゃないプレイヤーでアビリティを複数持っていて条件にさえ合えば誰にでもできることだが、【神化】と【透過】だけで言えば神獣の固有能力だ。
【神化】、すなわち神獣の神がかり的な能力を向上させる能力で見た感じが神々しくなり、素早さが上がる。
透過はそのままの意味で非戦闘区域でしか使えないが建物や人をすりぬける事ができる。
白銀に発光する身体を踊らせ建物に突っ込む、中には人が居て何かのお店だったようだが透過しているので店内を荒らす事もないし気にせず突っ切る。
目指す獣使い専門店まで一直線にショートカット……ダメだと言われなかったが今の俺を見て驚いて転んだとか被害出たらまずいよな……次の通りに出たら解除するか――――と思っていたら目的の店の前に出た。
『アビリティ解除』
体の発光が終わると身震いをして軽く背伸びと欠伸をしておく、力を上手く抜くためには必要な動作だ。
店の戸は引き戸だったので前足でガリガリと戸を少し開けてから鼻面で通れるように開き店の中に頭を突っ込む。
「キャァア!」
悲鳴――――というよりは黄色いってやつな感じの声と同時にポフンという感触が顔面を支配した。
「なにこれ! すごいこんなモンスター、見たことない! 誰? 誰の契約獣なの!?」
俺の顔面を埋め尽くしたのはこの店の女性店員の胸だったようだ――――こいつは獣好きなんだろうか。
誰、誰と連呼するのでどうしたものかと思いとりあえず首を持ち上げてぶら下げてある袋を確認させようとする。
「おー撫でて欲しいの? よーしよしよし……ん? なにこれ? 組合所のマークじゃない! 貴方、組合所の子なの?」
違うがメモを見れば分かるだろうと「ワフッ」吠えてみた、俺の声帯は人語は発音できないがありとあらゆる獣の鳴き声を再現できる……らしい、人語をどうにか話そうと色々試した結果分かった事だ。
「んー、要するに領主様のところの護衛に絡まれたから契約登録が終わらないってことねー、そりゃリリちゃんが可哀想だわ、あの子ただでさえ、前にドラゴンを横取りされてるっていうのに、でも事情は分かったわ」
おお、メモにはそこまで詳しく書かれていたのか、あの職員わりと親切だったらしい……事情が分かってるならさっさと肉をくれ。
「んーしかし高級生肉五つかー、高級生肉いま品切れなんだよね、主に君が絡まれてる護衛達が買い占めちゃって……あそこのお嬢様無駄にお金持ってるからなー」
あいつらかよ! ロクなことしてくれないな。
「となると失敗ってなっちゃうけど……まあ理由を書いたメモを書いてあげるからちょっと待っててねー」
そう言うと女性店員は店の奥に引っ込んでいき、しばらくしてから戻ってきた。
「おまたせー、ハイこれちゃんと理由書いといてあげたから持って行きなよー」
首から下げた袋にメモを入れてもらうと俺は女性定員に頭を下げ、店から頭を引き抜いた。
背後を見るとそわそわとした様子の人が何人かいた、どうやら業務妨害をしてしまっていたらしいな。
「はーいまた来てねー、今度はリリちゃんと一緒に来て名前を教えてね、私の名前はその時に教えるからー」
店の外まで出てきてお見送りしてくれる女性定員、名前か……リリを連れてまた来よう、登録が済めば何かしら入用があるだろうし。
そして俺が立ち去ると女性店員が店の外で待っていた客達を店に招き入れて戸を閉めた、なにやら俺について聞かれている様子だったが茶請け話にでもなればいいな。
こうして俺の初めてのお遣いはまさかの品切れという状態で終わったのである……帰る足取りはどこどなく重たく感じる、失敗したわけじゃないけどあのゴロツキ達にまた難癖付けられると思えば憂鬱にもなるな。
【名前】レオウルフ
【種族】合成獣(獅子・梟・狼)
【職業】神獣
【性別】オス
【所属】リリの契約獣
【スキル】
主従念話
【アビリティ】
神化(付加)
硬質化(付加)
透過(付加・非戦闘)
狂化(付加・戦闘/操作不可)
自動回復(最大/常時)
【名前】リリ
【種族】人間
【職業】獣使い
【性別】女
【所属】レオウルフの主
【スキル】
ブレイズクロー(付加・炎/爪)
サンダークロー(付加・雷/爪)
ゲイルウィング(付加・風/翼)
ブリザードウィング(付加・氷/翼)
グランドインパクト(付加・土/足)
アイアンインパクト(付加・鋼/足)
ウォーターテイル(付加・水/尾)
アイビーテイル(付加・木/尾)
クイックスピード(補助・速度上昇)
ストロングパワー(補助・馬力上昇)
ハードガード(補助・防御上昇)
デュアル(補助・二重)
ヒーリングキュア(瞬間治癒)
ヒーリングフィールド(瞬間治癒/広範囲、遠距離)
デスヒール(即時復活)
【アビリティ】
コンボ(職業固有)
危険予知(種族固有)
直感(職業固有/常時)