プロローグ的な冒頭と出会い
趣味の範囲で書いてるので更新も多少遅いかと、とりあえず楽しくかけて楽しく読んでもらえれば幸いかと思います。
※5/10深刻な誤字脱字修正。
誤字、種族やスキルなどの『』と【】使い方の変更。
種族:獣を種族:【合成獣】に変更。
脱字、説明不足や、後付け設定の反映。
「ハッフゥゥ……」
ワイルドでモフモフな口元から大量の空気を吐き出し『溜息』のモーションをする大型の獣が一匹居りましたとさ。
「レオ、どーしたの?」
その大型の獣に付き添う――――もとい、跨っている少女が心配そうに獣の頭を撫でたとさ。
『いや、なんでもない……けど早くホームに戻りたい』
少女の頭の中に響く声はどことなく憂鬱そうで……というか憂鬱なんですけど。
「んー、やっぱりみんなといるのは嫌なの?」
嫌っていうか……。
『別に嫌じゃないさ、レナはいい子だし、ミミルやシャラサさんも優しいし……けどアイツは無理だ』
「タイチ君かぁ……それってやっぱりヤキモチだよね?」
『断じて違う』
などというやりとりがもはや日課となりつつある今日この頃な、獅子の頭を持ち梟の翼に狼の身体な職業:【神獣】たるキャラクターネーム:【レオウルフ】である俺と人間で職業:【獣使い】のリリはつい最近付き合いだしたラブラブカップルである。
MMORPG【ALL・POWER・WORLD】ファンタジー世界を舞台に様々な種族と職業、武器にスキルが魅力的な大人気ネットゲームがあった。
サービス開始してから丸五年たった今でもその人気は衰えることを知らず、他の追随を許さないかのように口コミランキングでは毎年一位を記録し続けている。
そんな『ALL・POWER・WORLD』がゲームだったのはつい先日までのことだ――――ある日、突然このゲームで遊んでいたプレイヤーが全てこのゲームの世界と根深くリンクしている異世界【オルパワルド】に召喚されてしまったのだ。
召喚に巻き込まれたのはログインしていたプレイヤーだけじゃなくログアウトしていたプレイヤー、一年以上ログインしてないプレイヤーやアカウントとキャラクターを作っただけのプレイヤーも含め、更にはゲームマスター、運営サイドの人間まで引っ括めて、ゲームに関わっていた人間が一切合切連れてこられたのだった……その数数十万人ほどと言われている。
そんな大事件を起こした張本人は他でもないこの異世界【オルパワルド】の女神、傲慢にして美麗なる、鍛えられた腹筋が魅力のシャルルート様だ。
彼女は割れた腹筋を誇示するかのようにポージングしながら俺たちに言った。
『お前たちが早くシナリオをクリアしないからこの世界が滅びそうなのでこちらの世界でクリアしろ、それまで元の世界に返すつもりはない』
そもそも企画段階で全十二章からなる重厚なストーリーとやらがあるらしいのだが実装されているのは未だ第七章目までだ。
故に腹筋女神様は運営サイドに対しても苦言を呈した。
『そもそもお前たちがシナリオを進めさせるつもりがないのがいかんのだ、対人戦機能だとかイベントダンジョンばかり力を入れおって……私が毎晩シナリオライターの夢枕に立って居たのも無駄ではないか!』
このゲームの作家さん、最近夢見が悪くて体調不良ってブログで愚痴ってたけど女神のせいらしい。
そんなこと言ったって作家さんのせいじゃないだろうに……あ、作家さん泣いてるじゃん。
『とにかく、早いところ邪神を倒してこの世界を平和に導いてくれ……ではな、私はお前たちを召喚の影響で力が落ちたのでしばし寝る。邪神を倒したら起こしてくれ』
そう言ってこちらに背を向け去っていた……去り際に背筋を誇示することを忘れずに。
光に包まれ消える腹筋女神、いい肉体美だった。日に焼けることを知らないスベスベの白い肌に、絹を思わせるブロンドヘア、どこまでも広がる青い空のような瞳、それに見蕩れていた居る人間は確かに数多くいた。だがあんな筋肉ダルマのどこがいいんだ、俺にはさっぱり理解できない。
その後運営サイドがプレイヤーを一箇所に集めこのゲーム、世界についての裏設定だとかを語ってくれた。勿論全てが同じではないだろうけど何も聞かないよりはマシというよりは、見知らぬ土地に一人取り残されないように集団で動こうとする本能的な動きだったのかもしれない……俺はその様子を遠くから眺めていることにした、ここからでも十分に声は聞こえるからな。
あらすじとしてはこの世界のバランスを支える核の一部が邪族と呼ばれる、邪神の眷属に持ち去られるところから始まり、最終的にそれを使って邪族が邪神が復活させる、それを最終的に大勢のプレイヤーが協力して倒す、所謂レイドボスという形で出す予定だったらしい。
そして邪神を倒すためには七つの伝説の武器が必要で全てを一から揃えなければならないという事だった。そして、どうにかしてそれらを探し出してはくれないだろうかという。
無論この段階で運営の身勝手とも呼べる発言にプレイヤーは反発、暴動にまで発展仕掛け、ゲームマスターや運営がやれよという声が多かったのだが伝説の武器が存在するダンジョン、及び全てのダンジョンにおいてゲームマスターは立ち入りができず、また運営陣がそもそもプレイヤーキャラではなく現実の生身の人間のまま連れてこられていたため、それはできないということになった。
「詰んだ……」
誰からともなく出たその一言が周囲に響く……絶望的な状況がが全ての人を飲み込もうとしていたその時だった――――とあるプレイヤーが立ち上がった。
「みんなが出来ないってんなら俺が、俺がやるぜ!」
純白のマントに騎士甲冑、日輪を描いた盾を背負い、炎竜を宿す黄金の剣と氷狼を宿す白銀の銃を携えたゲーム内でも有名なトッププレイヤーの『タイチ』だった。
彼はこのゲームのプレイヤーの中でも誰もが認める最強だ、そんな彼が発した希望があらゆるプレイヤーを奮い立たせたのか、「俺も、私も」と次々にプレイヤーが名乗りを上げた。古参プレイヤーから新規で入ったばかりであろう初心者までもが。
この光景は未だにハッキリ覚えている、感動の名場面というやつだ。俺は生憎、職業というか種族柄名乗りなどできずにそれを見ているだけしかなかったのだが。
運営もできる限りのサポートはすると言って、拠点となる始まりの街:【マシロ】へと向かい。腕に自信があるプレイヤーはそれぞれが求める伝説の武器が存在するというダンジョンを目指し方々へと散っていた。
その場に残ったのは俺だけだった訳だが……まあ、種族:【合成獣】・職業:【神獣】、つまり一見すればモンスターの姿だった俺に声をかける奴は居らずボッチになったというのが正しいかな。決して友達がいないわけじゃない。
そもそも、【合成獣】という種族はかなり特殊で十数万人も居るプレイヤーのうち恐らく俺一人しかプレイしていないだろう、レア種族だ。
レアと言えば聞こえがいいが誰もやりたがらないというのが正しい……それほど制限の多い種族なのだ。
まず拠点及び街に入れない、これは痛い……回復アイテムを買うこともできなければ装備を揃えることもできない……でも手が前足だったりするのでアイテムも使えないし装備も何もないので問題はないが。
次に、これはこの世界にやってきたことで生まれた弊害だと思うが、喋れない……声帯も獣らしくそもそも発音が出来ない。その代わり【合成獣】だからか、様々な鳴き声が出せる……けど自分でコントロールはできないがな。
以上の理由で俺はソロを強いられてしまっていた。元々ソロプレイヤーで数人とフレンド交友があった程度なので問題ないと思えなくもないが。画面に向かってキーボードで操作するゲームから生身を動かす現実へと変わったというのに不思議と大丈夫と思えるのは何故かという疑問は絶えない、あの女神の恩恵か何かによる意識操作でも働いているのだろうか。
そして世界に来て早一ヶ月が過ぎた、未だ伝説の武器を手に入れたという情報はないし、邪神が復活したという話も聞かないので、俺はのんびりと自分の体の使い方の訓練も兼ねて低級ダンジョンに来ていた。
俺は一人……いや、一匹でダンジョンに入り中に住み着いていたモンスターを爪と牙で蹂躙する。
このゲームの魅力は多彩な武器とそれから放たれる【スキル】の数々だが、【神獣】には【スキル】が存在しない、あるのは【形態変化】と呼ばれる姿を変える能力とその他の補助的なアビリティのみだ、姿によって変わる特性を活かし肉弾戦を行うしかないのだ。
基礎状態は『幼獣』の頃から使っている獅子の頭と前足に梟の翼と爪と狼の下半身を持った【合成獣】、レオ・オウル・ウルフを繋げて読んだレオウルフだ、毛並みは白を基調に灰や銀色で紋様を描き瞳の色は黄金にしている。
種族:【合成獣】はキャラメイクの段階でその体に使う動物を任意で選べ、自分だけのオリジナルで始めることができる……俺はその要素に惹かれてやり始めたのだが、スキルがないとか装備が出来ないとか操作しづらいだとかみんなそんな理由で辞めていきサービス開始から一年後には運営サイドがキャラメイク自体出来なくしてしまった、故に現存する種族:【合成獣】のプレイヤーは俺だけだろう、一応転生機能もあるが種族:【合成獣】は選べなくなっている。
そんな話は今はどうでもいい、正直ソロでダンジョンはきつい、レベル的には問題ないどころか適正レベルより低いところを選んでいるが装備もなく素手で殴るというのは想像以上に時間がかかる。
ここに出現するモンスターはキャラットという猫と兎を掛け合わせた鼠のようなモンスターだ、主に愛玩用として【獣使い】などに人気が高い。
そんなキャラットは群れるモンスターで大体一度に八匹単位で現れるのだが、ちまちまと狩っていた為にモンスタースキル:【仲間を呼ぶ】でかなりの数のキャラットが集まってしまい群がられている。
「グァガッ」
ケモナーと呼ばれる性癖の持ち主ならば喜ばしい状態なのかもしれない何せもっふもふな愛玩動物が体中にまとわりついてくるのだ、俺にとっては毛皮が暑苦しくて凄い窮屈だけだ、何より痛みはあまりないが地味にHPは削られていく。この世界では相手のレベルが低いと受けるダメージとは関係なく痛みというものは軽減されるらしく、HPは削れるが今のところ蚊に刺された程度の感覚しか存在しない。
職業:【神獣】のアビリティ:【自動回復(最大)】が適用されているはずなのだが流石に全身に隈なくまとわりつかれ、尚且つ【急所攻撃】をかなり食らっている為このままでは死んでしまう。
仮に死んだとしてもプレイヤーならばデスペナルティでレベルが一下がるだけで街中に復活出来るのだが、俺の場合街に入れないのでどんなことになるか分からない。街には入れないといっても門番に止められるというだけで、復活して街中に突如現れ再び討伐される的な繰り返しになるのは嫌だな。
「グァギャオオォーン!」
最悪の展開を回避すべく死に物狂いでキャラット達を蹴散らし、体にまとわり付く者は梟の特性である首の回転を使い背中に取り付いている物から根こそぎ噛み砕き、足元でチョロチョロしている連中は爪で八つ裂きにしてやった。このゲームのダメージ設定は二種類存在する、まずはじわじわとHPを削り倒すRPG式、これで倒すとモンスターは光の粒子となって消え、経験値とドロップアイテムが自動で手に入る。
そしてもう一つの方法が今、俺がやっているようなリアル式、首や重要部位を破壊することによって相手の生命を奪う本当の殺しだ。流石にダメージを与える過程で首が飛んだり心臓が破壊されれば生物であれば大抵は死に至る、というのを再現したシステムで、経験値とアイテムの扱いについては一緒だが、こちらは血と死体が残るやり方だ。見た目もグロいので年齢制限が課されている。
それで首や心臓を狙った攻撃でそこそこ減らしたつもりだったが敵もさるもの、俺に組み付いていない奴らが定期的に仲間を呼び出すのでじわりじわりとHPは削られ死に近づいている――――諦めて楽になっちまおうかと思っていたそんな時だった……彼女が現れたのは。
「ヒ、ヒーリングフィールド! あっとそれと、ブレイズクロー!」
女の子の声と共に癒しの空間広がり俺のHPが少しずつ回復して、傷は一瞬で塞がった。そして両前足に力が戻って来て更に爪に炎がまとわりつく、どうやら属性付加のようだで攻撃力も先ほどに比べると格段に上がっている、これならば――――。
俺は背後に居た少女に感謝の意味を込めて一瞥すると、一気にキャラットを一掃する。
爪の炎で体についているのを追っ払い、周囲に固まっているのを体を回転させ爪でなぎ払うことによって全て即死ダメージを与えることに成功する。
続いて仲間を呼ぼうとしている個体から順に一撃で首を断ち、仕留めてやると先ほどまであんなに大量に居たのが嘘のように減っていき、そして……。
「グルァァァ!」
叩き潰すように爪を振るい落し最期の一匹を始末した、後に残るのは地面に散らばる焼き猫兎肉だけだった。
アイテムドロップなどはないか……ボスとかならば何かしらのお宝でも隠し持っていることもあるがあの程度の相手は食肉になるか素材になるしか使い道はない、もっとも炎の爪で毛皮は台無しだし食料にしかならないだろう。
「だ、大丈夫?」
少女が俺に話しかけてきたが……やたら距離を取られている、やはりただのモンスターだと思われているのだろうか?
「疲れたでしょ? お腹減ってるよね? はい、これあげる」
俺から目線をそらすことなく腰についてるポーチをごそごそと漁り……モンスターテイム用アイテム『生肉』を取り出した少女にジトッした目線を向ける。俺はモンスターではないんだがどうやらテイムがしたいらしい……けどされるのはいいがどうにも通常のモンスターの餌なんだよな、人にドッグフードを食えというのか。
「あ、あれ? やっぱりお買い得お肉じゃダメかな……」
そしてあれでもないこれでもないと、テイム用食品を地面に散らばす少女……その多くが人参魚だった事から察するに元の目的はキャラットだったようだな、煮ると甘くなるんだよなあの魚……テイム用食材も調理さえされていれば人が食っても遜色ないのにな。
「んーんー……わからないや」
そう言うと少女はその場に座り込んでポーチの中をまた漁り、中からタッパーのような容器を取り出した。
「私もお腹減っちゃった、ちょっとご飯食べるけど、襲わないでね?」
少女が取り出したのは食パン二枚に目玉焼きとベーコン、レタスを挟んだサンドイッチ的なものらしい……久々に嗅ぐ香辛料の匂い、調理された物が食べたいよな……ここのところ木の実とか果実ばかり齧っているのでそろそろちゃんとしたものを食べたかった。
食欲とは時に人を大胆にする――――気づけば俺は少女を押し倒していた。
「え……あ、う……え?」
驚きと恐怖が入り乱れた顔をする少女が手放し地面に落ちた食パンサンドを咥えてから少女から退いた俺はそれを口に頬張り、咀嚼を始めた。
未だ自分が何をされたか分かっていない様子の少女を尻目にしっかりと味わう……目玉焼きにかけられた塩コショウに少しだけ入れてあるマスタードのぴりっとした辛さ……獅子頭で猫科混じりの俺は食べて良かったのだろうかと思ったのは飲み込んでからのことだった。
「あー! 私のお昼ご飯が……でも、そっかお肉とかじゃなくてお料理してあるやつがいいって子も居るんだよね――――もうゲームじゃないんだもんね」
今更俺に食事を取られて騒ぐ少女……ブツブツと何やら言っているが後半の方はほとんど聞き取れなかった、俯き気味にやたら真剣そうな顔をしているが、何かを決心したらしくパッと顔を上げるとこちらにほほ笑みかけてきて。
「私のご飯食べたんだから、言うこと聞いてよね……【我、獣を従えしものなり、汝、我が牙となるならばここに誓を以て応えよ】」
なんとも傲慢な内容の文章であるがこれは割と聞いたことのある物だ。獣使いのスキル、契約詠唱に違いない。
一応種族:【合成獣】ならばこれに応えることは出来なくはないが、あまりにもレベル差があると問答無用で弾かれる、俺のレベルは今現在レベルキャップである100だ、つまりカンストしている。
そしてここのダンジョンの適正レベルは35、もし仮に彼女がここの適正レベルであれば差は65もあるので簡単に弾かれてしまうが。
しかしながら惜しい……実に惜しい、俺は今まで人に接触する機会に中々恵まれなかった、ある程度【獣使い】と遭遇したこともあったしかし彼らは俺をテイムしようとするどころか敵わないと判断してすぐに逃げ出す。
他のプレイヤーに俺もプレイヤーであることを何度か伝えようと試みたこともあったが尽く失敗、最終的には敵と見なされ攻撃されたこともある……逆恨みだが全て返り討ちにしてやったけど。
ここで契約できなければこのまま一生ソロという可能性もある……どうにかして契約する方法はないか、そう思考しているうちに目の前にメッセージウィンドウが表示された。
【主従契約・主人:リリ 対象:レオウルフ 契約しますか? OK/NO】
契約通ったのか……つまりこの子もカンストかそれに近しいレベルであるということだ。
見た目では判断できないか、何せレベルとか強さと言ってもゲームの容姿とステータスをそのままそっくり引き継いでいるのだ、いくら幼い見た目であるとは言え彼女もプレイヤーだ、ゲームであればレベルを上げることは容易いしな。
俺は迷うことなくOKの方を鼻頭でタッチする――――すると足元に魔法陣が現れそこから俺の体に彼女の魔力が流れ込み体表に模様を刻む。俺には元々キャラメイクした時に自分で書いた文様がある、トラ柄ではないが歪曲した縦線を体の横に三本ずつ入れており、今回の紋様は俺の手足を縛るかのように四本足全てに交差する縄のような文様が刻まれる。
そして首輪のような模様が首周り、と言ってもほとんど獅子のたてがみに隠れる形で巻き付き固定されると魔法陣は消え同時に俺に使えるスキルが一つ追加された……『主従念話』というものらしい、これは種族:【合成獣】が主人に自分の考えを伝えるためのスキルらしい。俺にとっては非常にありがたい救済措置だった。
「やった! 成功しちゃったぁ~わぁ、どうしよ、ボス級エネミーのテイムしちゃったよ!」
その場でぴょんぴょんと跳ねる主人……念話を使えば俺がプレイヤーであると伝えることが出来るが……こんなに喜んでいるのに実はプレイヤーでしたとか、落ち込まないといいけどな。
『あーあー、テステス……只今念話のテスト中、聞こえるか、えーとリリ、さん?』
「え?」
『あー喜んでいるところ悪いんだが、俺はモンスターじゃない、実はプレイヤーなんだが……その、なんだ……すまない』
「ええっと、プレイヤーさん? なの……本当に? でもそんな職業というか種族とかあったっけ?」
かなり混乱気味というか困惑しながらも冷静に対応してくれる、良かった一応は話せるようだ、これがショックのあまりいきなり契約を切られたら全てが終わるところだった。【獣使い】側からなら一方的に契約を解除することも可能だからな。
『ああ、サービス開始一年でキャラメイクから消えた種族:【合成獣】で職業:【神獣】の名前はレオウルフという、誰にも言葉が通じつ困っていたところだが契約してくれて助かった、礼を言う……が、ここまでで何か質問はあるか?』
「えっと……どういたしまして? というか契約解除したほうがいい?」
『ああ、いや契約はできればしたままがいいのだが、この種族と職業では契約されていなければ街には入れないし会話も不可能なのでな、食事を無理やりとってしまったし恩もあるのでよければ暫し契約獣をやっても良いのだが、そちら的には大丈夫か?』
こちらの事情としてはなんとしても彼女を手放したくはないのだが、彼女にしてみれば俺は赤の他人のプレイヤーだ彼女にそんな義理はない。第一初対面の男と……パートナーとかいきなり言われても困るだろう。
「うん、そうなんだね、それじゃあ私からもよろしくお願いできるかな? 私もカンスト【獣使い】のくせにここのところずっとテイムに失敗してて新しいパートナーが欲しかったっていうか、こんな私でよければこっちからお願いします!」
何やら今の言葉の節々に不穏な空気を感じたが、この子はこの子で何やら事情がある様子だった。それにしてもカンスト、つまりは同レベルであったわけか……やけにすんなり契約できたと思ったらそういうことだったのか。同レベルの契約はお互いに同意さえできれば良いのだ。
『【ならばこの爪、この牙、この翼全てを汝に捧げようぞ】……これで契約成立だな?』
「うん、これからよろしくね……えーとレオって呼んでいい? 私のことはリリって呼んでね」
こうして俺と彼女は出会い、それからダンジョンを抜けだし、始まりの街:マシロへと向かった。
道中にお互いのことを少しずつ教え合いながら歩く。
「えっ! それじゃあレオってずっとソロだったの?」
『そうだな、そもそも俺クラスのモンスターをテイムしようと思う奴がいない。リリはどうして俺がテイムできると思ったんだ?』
俺は背中にリリを乗せ、リリに道案内をしてもらいながらゆっくり歩いていた、マシロへの行き方など知らないわけではないが、この世界に来てから一度も寄り付かなかったので道順など、ど忘れしてしまっている。
「んーと、まず私は元々キャラットをテイムしに来てたんだけど、ダンジョンに入ってみたらレオが戦っていて、ゲーム時代には他の種族の魔物同士の野良バトルみたいなのがあってね、片方に助力したらテイムしやすくなるとかあったから試しに助けてみたんだけど」
なるほど、ゲーム時はそういう仕様だったのか……他の職業というか種族的に興味もなかったのでそういった情報は全く集めていなかった。
『種族:【合成獣】は元々獣使いと組んだ場合に最大限の力を発揮するような仕様だからな、契約自体は出来るが、お互いのレベル差が10以上あった場合は契約は自動で弾かれるから、俺としては契約できるとは思っていなかったんだが』
「あーわかる! ……わかっちゃうよーこんな見た目だもんね、それにあそこの適正レベルは低いし、まさかカンストしてるだなんて思わないよねー」
見た目か、一般的な人間族の少女と言うとどの程度の年齢か――――精々中学生ぐらいだろうか身長も任意で指定できるので実際の大きさとは限らない、ほっそりとしていて色白の肌に水色と黄緑のグラデーション効果のかかった腰下まで伸びるロングヘアに左に紫、右にピンクのオッドアイ……ちょっとセンスとしてはどうなのかと思う色合いだが所謂課金アバターの典型だな、自分オリジナルの組み合わせをしようと思えば基本は奇抜になる。それにしても簡単な計算だけすれば四、五万は使ってるなこの子。
斯く言う俺の見た目だって揃えるのに三万は使ったしな、たかがネトゲにそこまで使えるってことはお互いに実年齢結構高いだろうけど……俺の勘ぐるような視線に気付いたのかリリが少し頬を膨らました。
「あー、今私の歳の事考えてたでしょ!」
『そうだな、見た目から課金具合を考慮してそれだけつぎ込めるのが果たして学生だろうか、までは考えていたな』
「そーいうのはナシで! これから少しずつ、ね? 別に隠すつもりもないし私だってもうレオとは一蓮托生って思ってるんだからね」
一蓮托生か、確かに今の状態から別の【獣使い】に鞍替えしようだなんて思いは一切ないが……俺はよくてもリリは女の子なんだから男は少しは選んだほうがいいだろうと思ったが、下手に言って契約を切られては俺としても困るので黙って歩みを早めた。
「ほら、見えてきたよ。あれが始まりの街:【マシロ】だよ」
背中からリリが真っ直ぐに指差す場所にあったのは真っ白な壁だった。
真っ白な壁……それ以外に何も言いようがなく、横に長くて高さも飛べるモンスターでもない限りは易易と超えることのできない。始まりの、にしてはあまりにも厳かで、街にしてみても規模がでかく、城塞都市とも言えるだろう。
ただ街の名のマシロというのが真っ白を意味しているとするならばまさにその通りと言うしかない驚きの白さだ。
近くまで来てみると初めて気づくのだが、木製の門すら白塗りにされているようで、更に全身白い防具を身につけた門番が二人立っていた。
「と、止まれぇ!」
俺の姿を捉えた様子の門番が槍を突き出し足止めをしてくる。
「ちょ、ちょっとまってー、この子私がテイムした子だから攻撃しないで!」
門番の挙動にリリが慌てて俺から飛び降りて事情を説明に行く……もしかしてテイムされていても入れなかったりするのだろうか?
外で待ちぼうけとか嫌だぞ俺は……。
「っ、えっと、リリの嬢ちゃんか、脅かすなよ……つーかキャラットをテイムしにいくって言ってなかったか?」
門番はリリと知り合いだったらしく親しげに会話し始めた、もう一人の門番は先程から直立不動だが、どうしたんだ。
「あはは……そのつもりだったんだけどねぇ、レオが――――レオっていうのはこの子の名前なんだけどね、彼がキャラットの大群に襲われててつい助けちゃって、それで」
『あーすまんが俺がプレイヤーだとかいうのは内緒で頼む、面倒だからな』
一応釘を刺してみたがリリはこちらを振り向かず手を後ろに回して俺に向かってOKと合図した、要らない心配だったようだ。まあ相手はプレイヤーではないようだしな言ったところで理解はされないと思うが。
「そうだったのかい、まあ見たところ主従紋もしっかり刻まれてるみたいだしなぁ、街に入れても大丈夫だろうけどあんまり騒ぎを起こすなよ? それじゃあ開門するぜ……おいスティーブ! いつまで寝てんだよ、ほら起きろ! 開門の準備だ!」
騒ぎを起こすなか……ボス級エネミーが街中にいれば否応もなく騒ぎがやってくると思うが……それにしても隣の門番、直立不動だと思ったら寝てたのか、立ったまま寝るとは中々の猛者だな。
「んん……ふぁああはぁ……おはよう、グラムケット……誰か来たの……う、うわぁ! モンスターだ!?」
欠伸をしながら目覚めた門番はぐっと背伸びをし一息つくと相方の門番と何気ない話でもするつもりだったんだろう相当気が緩んでいたところで視界に俺を捉えたらしい、素っ頓狂な声を上げ俺に槍を投げて来た。
俺はその飛んでくる槍を前足を上げて易易と地面に叩き落とした、寝ぼけて慌てて手が滑った風情の槍程度怖くもなんともないが、それだけの動作にパニックを起こしていた門番は震え上がり、その場にへたりこんでしまった。
「おい! なにやってんだよ、こいつはリリ嬢ちゃんの契約獣だぞ!」
「う、え? あ、リリちゃん……なんだリリちゃんのだったのか……」
リリの姿を確認してホッとする門番、そんな門番に対してリリは仕方ないなぁと言いながらも大事には至らなかったので許すようだ。
「開門ー!」
二人の門番がそう叫びながら門の左端にタックルするとまるで忍者屋敷の隠し扉のように、門が反転し通れるようになった。
「今のうちに通ってくれ、さっさとしないとほかの連中が勝手に通っちまって俺らが困る」
だそうなので、俺は再びリリを背に乗せ駆け出した、ついでに通り終わった時に力を加減しつつ門を後ろ蹴りして閉めてやったが、内側に居た門番がかなり驚いてたな……出るときに何か言われるかもしれんがそのときはリリに代わりに謝ってもらおう。
【名前】レオウルフ
【種族】合成獣(獅子・梟・狼)
【職業】神獣
【性別】オス
【所属】リリの契約獣
【スキル】
主従念話
【アビリティ】
神化(付加)
神々しい輝きを体から放つアビリティ。理解できるものを畏怖させる。
硬質化(付加)
体の表面を硬質化するアビリティ。あくまで表面のみなので斬撃は耐えられるが打撃には弱い。
透過(付加・非戦闘)
非戦闘時のみ使用可能、建物や人をすり抜けることができる。
狂化(付加・戦闘/操作不可)
戦闘時、主が倒れ自身の体力が残り半分を下回ると自動発動。全てを破壊もしくは自分が倒れるまで暴れ続ける。
自動回復(最大/常時)
いつでも自分のHPが自動で回復する。相手から受けるダメージが少なければほとんど無傷ということもありうる。
【名前】リリ
【種族】人間
【職業】獣使い
【性別】女
【所属】レオウルフの主
【スキル】
ブレイズクロー(付加・炎/爪)
前足の爪に炎を付加する。
サンダークロー(付加・雷/爪)
前足の爪に雷を付加する。
ゲイルウィング(付加・風/翼)
激しい風が翼を包む。
ブリザードウィング(付加・氷/翼)
激しい吹雪が翼を包む。
グランドインパクト(付加・土/足)
大地を揺らす力強さを後ろ足に付加する。
アイアンインパクト(付加・鋼/足)
鋼をも砕く力を後ろ足に付加する。
ウォーターテイル(付加・水/尾)
尾の延長として水の鞭を付加する。
アイビーテイル(付加・木/尾)
尾の延長として蔓の鞭を付加する。
クイックスピード(補助・速度上昇)
素早さを倍増させる。
ストロングパワー(補助・馬力上昇)
力を倍増させる。
ハードガード(補助・防御上昇)
防御を倍増させる。
デュアル(補助・二重)
補助魔法の効果を二重にする。
ヒーリングキュア(瞬間治癒)
瞬間的に傷を塞ぐ。痛みは残留する。
ヒーリングフィールド(瞬間治癒)
小さな傷を塞ぎ、体力を少し回復する。
デスヒール(即時復活)
即死直後、十秒以内に使えば復活させることができる。痛みは残留する。
【アビリティ】
コンボ(職業固有)
複数のスキルを組み合わせることによって特定の上位スキルへ昇華させる。
危険予知(種族固有)
予め考えうる危険を知ることができる。回避できるわけではない。
直感(職業固有/常時)
獣使いの直感。契約が可能かどうか分かる。