八十四話目
エリーゼ・アルバーン。ランク鬼、契約神法神。
元アクアビスの国法聖騎士団所属、現在エルト工房事務担当。
彼女の経歴と立場を書き連ねるとこのような形になる。
騎士団は少々のミスをやらかしてしまい退団。以後は縁を頼って工房勤務となる。
騎士団でそれなりに鍛えられておかげか、元々の素質があっての事か殊の外優秀な事務だと思われている。
今も城の局で様々な書類と格闘し、その処理能力を遺憾なく発揮中…なのだが。
エ「あ~~~~もう!!何なのよ、この仕事量は~~~~!!!
やってもやってもやっても減りもしない!!」
エルト工房の事務に引き続き、新規立ち上げの局の申請や各局との折衝。
国への提出書類も全てを一手に引き受けている彼女の精神状態はパンク寸前だろうか。
コンコンコン。
扉のノックオンと共に返事も待たず誰かが入室をしてきた。
ここはまだ正式稼働はしていない段階なので公務で誰か来ることはまだ無いはず。
そんなことを考えながら鈍り切った頭を扉の方へ向けるとそこには頭をハッキリさせるほどのインパクトある人物だ。エリーゼの元上司法聖騎士団団長オルガ・ドルイユその人だ。
オ「エリーゼさん、お久しぶりね。ちょっといいかしら?」
エ「オルガ団長!?え、えっと、どうぞお座りください!ああ、ここだと碌なものが…」
オ「はいはい、少し落ち着いて。…中々忙しそうね」
エ「ええ、まぁ…彼の近くにいると暇ではいられないみたいです」
オ「……ごめんなさい、貴方には本当につらい任務を与えてしまったわね…」
エ「いえ、いいんです。恐らくこの国で…
あいつの監視任務なんか受けるのもやれるのも私だけだと思いますし」
エリーゼが法聖騎士団を辞め、キリュウの元に来た本来の任務は同行の監視と報告だった。
間の経緯などは実際に会った話ではなく、でっち上げであった。
ただ、それがバレルのは任務遂行に支障が出るため、一部上官のみ事実を知っている。
それ以外の団員や国の関係各所には本当に辞めたことになっている。
故に、様々な人の好奇な目に晒されるのは分かり切っていたことだった
実際その経緯を知り笑った者もいた。栄えある騎士団に選ばれながらもクビになった者。
その後の進路もどう言われるものか分かったものではない。
彼の者が巻き起こすのは騒動と問題だらけ、何をどう言おうとも国内では嫌われてしまう。
実際彼女は騎士団を去りキリュウの元に行って以来親に会っていない。
どう言われるか、覚悟を決めた彼女でも浴びせられる言葉に耐えられる自信がないのだから。
だが、そんな人間だからこそ常に動向を知り対策を考えねばならない。
そこで白羽の矢が立ったのが彼女であった。幼少の頃より親交を深め、誰よりも彼の者の考えが分かる。
そして何よりこのアクアビス国内で唯一と言っていいほど彼より信頼を得ている。
故に彼女にしかこの任は考えられなかった。
オ「しかし、こう言ってはなんだけど…貴方からの報告はどれをとっても心臓に悪すぎるわね。
何をどうしたらこんな発想が出てくるのかしらね?」
エ「さぁ…あれの頭は私にだって全く分からないものでした。昔はまだ普通だったと思うんですけど…」
オ「昔は…か。そうなると彼を変えたのはこの国という事になるのか知れないわね」
エ「恐らくは…」
オ「しかし、まさか全く新しい局まで作るなんてね。
流石にそこまでできるとは考えてなかったのだけれど…」
エ「私もです。あいつにここまでの行動力とそれを実現する力があったなんて知りませんでした」
オ「ですが、不幸中の幸い。正式な局になったおかげで貴方への支援も今までみたいにはなりません。
貴方がきちんとした手続きを踏めば法聖騎士団としての助力も公に出来ます。
差し当たっては…この書類の山を片づけれる人材、かしら?」
エ「そうなんです~~~!!!
あのバカ、一つ事業を進めるたびにどれだけ事務作業増えるか知らないんです!!
おかげでこの有様なんですよ!」
オ「でもキリュウ局長はそのことを知っているの?まだ正式とはいかないけど局員を増やすのでしょう?
一応許可位はとっておかないと…」
エ「それに関しては私に全権が与えられています。ご安心ください!」
オ「では騎士団の方から何人か派遣という形で貸し出しましょう。
貴方も知っている人間なら幾分かやりやすいでしょうし」
エ「騎士団から…ですか…」
オ「安心なさい。その人達にはあなたの任務をきちんと話しておきます」
エ「ああ、ありがとうございます。だったらまだ…でも他の騎士団とか局と揉めません?
法聖騎士団とばかり距離を近づくと」
オ「多少は声も上がるでしょう。ただ、正式な局になった以上それも大した問題にはならないでしょう。
さっきも言いましたがきちんとした手続きを踏めばそれは正式な要請です。
まぁ、あのまま民間でとなるとそんな事をしていれば本当に文句も言われますよ。
栄光ある騎士団が何故あのような輩と付き合うのかと。ただ…」
エ「ただ?」
オ「…このままという訳にはいかないとは思いますよ。ここが扱う物の利益を彼自身誰より知っています。
国やギルドなんて人間の欲の塊で動いているような団体が彼の自由をどこまで許すのか…
その自由を奪おうとした時、彼がどういう動きに出るのか」
エ「そうは言っても流石にあいつも国やギルドと戦争を起こそうとは…」
オ「しないと言い切れるか?」
エ「……」
オ「その沈黙が答えよ。彼自身の力も分からず、今に至ってはアゴン族とも深い関係になっています。
このまま彼の周りに力が集まれば本当にそういう事態になるかもしれないという事です。
アゴン族、ひいては他の妖族とも協力体制等を敷かれては…もう個人で持つ力としては大きすぎです」
エ「いや、流石に他の妖族は無理なのでは?」
オ「アゴン族とて少し前であれば人間に協力したなどという話を貴方は信じましたか?」
エ「それは…」
オ「…まだ正式稼働はしていません。動き始めた時もたらされる利益に目が眩んでいある間はまだいい。
その危険性に気づいた時にこの国がどう動くか。…しばらくはその辺りにも目を配っておきましょう。
ではエリーゼさん、後の事は近日中に手配をしておきます」
エ「あ、はい。よろしくお願い致します」
団長が出ていく扉をエリーゼは漠然とした不安で見ていた。
団長が考えていたのは起こりうる未来なのか、団長の杞憂なのか。
杞憂と信じたい反面、今までのキリュウの人間界の喧嘩すら売る行動は確かに危惧を抱いてしまう。
それを国内の重要人物などがどう判断するのか。
エリーゼはそんな未来を起こら無い様祈る事しかできなかった。




