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七十一話目

アゴン族の人間界接近という近代稀にみる大事件はすぐさま国内に広まった。

何せ、アゴン族が接近している間門に入るどころか近づくことすらできなかったのだ。

しかも駆り出された騎士団員は三桁を超える人数だ。近年そんな人数の騎士団が動く事案などない。

だが人の口というのは何よりも優れた情報伝達の手段と言えるのだろう。

様々な内容が飛んだり跳ねたりをしながら人づてに伝わっていった。

内容は中々に面白いものだが、その共通点が一つだけある。

何の武装も持たず魔族界に入っていく無契約者キリュウの姿を幾人も目撃している。

しかも、騎士団員に連行ではなく引き連れる様に。

この国の人間にしてみればそれだけで最早事件であるのだ。

という事は今回の騒動も中心はあの無契約者なのか?国の人間の関心はそこに集中した。

アゴン族との間で一体どんな騒動を巻き起こしたのか?

それがいったいどんな結果をこの国にもたらすのか?それが利なのか損なのか?



鬼「ん~…まだ城ではあ~だこ~だ石昌こねくり回してんのかな~」

ア「何も言ってこない辺りそうなのだろうな。頑張るな~」

鬼「あれからもう何日もね~。早く観念してこっちにこいこい~」

ア「だが国としても騎士団としてもあそこまで強引に持って行った手前プライドもある。

城の中でも戻すかどうするか揉めている、といった辺りか」

鬼「崇高な目的があるとそれに応じて自負と誇りがあるものね。

どういった辺りで妥協を見出すか…奴らに使えないという事実は変わらない」

ア「であるならば、使える人間に渡して交渉した方がいい。

と、普通なら考えるんだがな。そこら辺は国らしく偉そうな大義名分を言い出すんだろうがな」

鬼「もう少しあいつ等には考える時間を与えますか。だがあんまりダンマリを決め込むなら…」

ア「ああ、それならそれでこちらとしても色々やりようはあるか」



約一週間。国の様々な役職や部署や上から下まで色々石昌を調べ上げるのに要した時間だ。

一週間何も言ってこなかったあいつ等が最初に起こした反応は手紙一枚。

内容は石昌に関して話があるから城に来いとさ。全く礼儀も何もあったもんじゃないわな。

差出人は…おお、法聖騎士団団長殿自らか。


ア「やっと反応が返ってきたか。やれやれ、大分時間がかかったな」

鬼「城に来いだぁ?返すんならそっちが持ってくるのが礼儀だろうが」

ア「だがあいつ等の陣地でふんぞり返る気分は中々にいいのではないか?」

鬼「今回に関してはあいつらに非があるからな…まぁ、行ってやるか」



城の受付に団長からの手紙を見せたら顔色が一瞬で変わった。

まぁ、噂は広まってるだろうしね。自分、法聖騎士団団長、石昌。

ここら辺りは話は相当広がっているのはよくわかった。

何せ案内役を歩いていれば城の職員が全員こっちガン見してやがんの。

しかも、こっちを避けて全員道開けやがるからそらもう気分はいいわ~!

団長の部屋の中まで通された所で案内人は戻っていった。

部屋の中で暫く待つとようやっと目的の人間が出てきた。

いつもの団長と後は…誰?


オ「お久しぶりです、キリュウ。お元気でしたか?」

鬼「……ん?何?え、そんな何かフレンドリーに喋りかけられる関係性だったっけ?

普通謝罪的な何かから始まるもんでないかい?」

オ「ああ、そういえばこちらは初めてでしたね。王立法神研究所所長サンディー・イーデンです」

サ「初めまして。今日はお会いするのを大変楽しみに…」

鬼「いやいやいや、だから!!何を何事もなかったかのように話進めてんのよ?」

オ「私たちの間に何事かありましたか?」

鬼「おお…あまりに堂々と言われると思わずツッコむタイミングを無くすわ」

ア「国の要職に就くような人間だ。相当面の皮が厚くないと務まらんのだろう」

鬼「面の皮以前に人間としての道理を通せや、おい」

オ「……では話を進めます。石昌は今後は国より使用権を貴方に与えるという形で…」

鬼「ん?ん?ん?使用権?与える?何をほざいてやがんだこの馬鹿たれは?あれは元々自分の物だろうが」

オ「いえ、あれの所有権は国家にあります。ただ、実務的な運用、管理等を貴方に任せます。

本日付で貴方はアクアビス国王立法神研究所所属の石昌運用の責任者に任命いたします。

正式な部署名は今後…」

鬼「待てっつの!!自分に国に仕えろって言ってんのか?であるならば答えはノーだぞ?

その手の誘いが今までなかったとでも思ってんのか?」

オ「それならばこの石昌を使う事は出来ませんよ?それでは困るのは貴方ではないのですか?」

鬼「そういう事ならそいつらはくれてやるよ。自分はまた新しい石昌をアゴン族から貰うから」

サ「アゴン族が貴方に今後の安定的な石昌供給を約束しているのですか!?」

オ「一体いつの間にそこまでの信頼関係を…」

鬼「はい、そういう事でこの話は終了~。じゃあ帰るから。

まぁ、使えもしない物だけど貰い物だから大事には扱ってね」

オ「…待ってください。それでは今後も貴方が入手した石昌を国は強制的に城に持ち帰ります。

それでも構わないのですか?」

鬼「そっちこそ使えもしない石昌をせっせっと城にため込んでどうするつもり?

そんなことが続いて石昌関連の利益が一切発生しなかったら国への信頼はどうなるんだろう?

国民の不信感たるや相当な物だと思うがな?」

オ「貴方こそどうなの?石昌に関する利益がほぼなくなるわ。

であるならば多少プライドを曲れば利益を得られる。それでいいのでは?」

鬼「その利益のどれだけを持っていく気だ?

なればだ。最早狩猟活動が許されたのだからそっちで利益を得るわ。

さてこの場合、困るのは自分かな?そっちかな?自分は何も変わらない。これまでとね」

オ「……」

鬼「反応なしは理解しているということかな?」

サ「貴方はどうなのですか?」

鬼「ん?なにがだ?」

サ「この石昌のもたらす恩恵を無視できるのですか?そんな事できますか?本当に?」

鬼「無視できないのはむしろそっちじゃないの?目の前にあると余計に強欲になってしまうのが人間だ。

これを使えないという事実はあんたらの方がこたえると思うがね」

サ「貴方はこたえないと?なんの思いもわかないと?」

鬼「石昌はきれいだし…部屋にでも飾るかね。我が家は味気ないし」

ア「エリーゼ辺りは喜ぶんじゃないか?婦人は光物に弱いと古来からの決まりだ」

サ「貴方は…本当に人間ですか?これだけの物を独占して他の人に後悔の念はないのですか?

これを使わないという選択肢を選ぶ時点で私にはあなたが本当に同じ人間とは思えない」

鬼「アンタらにどう思われようが自分には関係ないね。ではこれで失礼しますよ。

まぁこれは貴方方に奪われたわけだし置いてくけど。精々使えもしないを後生大事に持ってれば?」

オ「待ってください!…全く交渉の余地はなしですか?」

鬼「交渉?何、今まで交渉してたつもりだったの?そっちから命令を一方的に出してるだけで?

こっちの希望も聞かずに?交渉って目的のためにお互いが歩み寄って妥協案を探すことだろ?

であるならば今まで交渉なんてことはなされてないんだよ」

オ「……ここでもう暫く待っていてもらえない?ここからは貴方の言う交渉をしたいと思うわ」

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