六十九話目
一種族がその存在を戦争をしてまで守ろうとした秘宝を色々あったとはいえ、みすみす奪われてしまった。
何をどう言い繕うともそれが事実であり、自分のミスだ。
その事を送り主である彼らにずっと隠し続けられることではない。
だもんで謝罪と今後の相談をするために朝も早くから魔族界を全力でぶっ飛ばしてきた。
とにかく謝罪をして、間の色々を説明をしていたんだが…
あれ、おかしいな?どうして説明を彼らはこうも淡々と聞いてられるんだ?
鬼「という訳で自分のミスで折角の贈り物をあいつらに奪われてしまった。
アゴン族の秘宝を預かりながらそれを自分は守り切る事が出来なかった。
謝って済む問題ではないというのは分かっているが、それでも…申し訳なかった」
ユ「そうかそうか…あれを奪われたのか」
イ「ふむ、それはまた…」
ボ「そうですね…」
とまぁ、話を聞きながら終始こういうテンションなんだよ。
普通なら一族の宝をだ、あげてすぐさま奪われましたと。しかも種族の中でも一番恨みの深い種族に。
確かに自分の所為ではないが恨み言の一つでもあってもいいんじゃないのか?
ユ「そうかそう…クックックックッ…いや、まさかそこまでとはな」
イ「やはり人間族という訳か」
ボ「カッカッカッカッカッ…あ~、面白いね~」
鬼「………ん?なにこれ?意味わかんないんだけど?どうして呆れている人と笑っている人がいるの?」
ユ「いやはや…ああ、すまんな。訳を話すとな、お前以外の人間の反応な。
私達は予想をしていたんでな。あまりにも想定内だから面白くてな」
鬼「え、想定内なの?なんで?」
イ「あれを人間達がどれだけ欲しているか。それを私達は身を持って体験しているからな。
あれを普通の人間の前に出せばどうなるか。その程度は予想がつくわ」
ボ「手段はわかんないけど何が何でも取り上げるって言うのは分かりきってた」
ア「な?こやつらがその程度の事が分からん訳がないだろう?」
鬼「うわぁ~…今まで頭抱えて悩んでいた自分めっちゃバカヤン」
ユ「だがそれをあの女の前で言う訳にもいくまい。だから最後の言葉を贈ったんだ。
例え取り上げられろうとも大丈夫だとな」
鬼「分からんて…ん?じゃあ何でわざわざあんだけの危険冒してまで持ってきてくれたんだ?
アンタも言った通りあれが自分の元に帰ってくる保障なんかどこにもないじゃん」
ユ「それはな…人間に嫌がらせをしようと思ってな」
鬼「嫌がらせ?何それ?」
ユ「まずあのアゴン石昌な。あれは人間には全く役に立たん代物でな」
鬼「ああ!?どういう事!?」
イ「あの石昌は魔族より取り出す核昌を獣神ビストガンの守護炎にくべて数日間燃やす。
そうすると核昌の隅々にまで炎がいきわたりそれは初めてアゴン石昌となる」
鬼「核昌ってのは…ああ、魂石の事か」
ユ「人間はそう呼んでいるらしいな。
で、生成方法から聞けばわかる通り全てビストガンの加護によるものだ。
故にこの石昌を主神ディアスを中心にしているディアス教の契約者には全く使えん代物だ」
鬼「ああ、理屈は確かに…」
ボ「つまり根本が間違っている訳。
どうしてディアス教の力がビストガンによって作られたもので使える?
それに彼らが欲している守護炎の効力は当然ビストガンの炎によるもの。
それをディアス教の契約者たる人間族が使える訳ないのに」
鬼「……ん?じゃあなんで戦争が起きたんだ?おかしくね?その説明聞けば誰だって諦めるんじゃあ…」
イ「人間族は我らのこの説明を信じなかった。アゴン族の秘宝を渡したくない嘘の説明としてな。
全く少し考えれば分かるだろうに…信仰している神が違うのだ。その力の使い方とて全く違う」
鬼「ウワァー…本当に人間て馬鹿ね~…でもその理屈で行くと自分もあれ使えないじゃん。
力の元は全く違うし」
ユ「だが、あの黒い守護炎はビストガンの紋によるのだろう?であるならば石昌にもその炎は灯せる。
時折交換せねば効果は消えてしまうが、お前が核昌を持って来ればここで石昌を生成してやろう」
鬼「おおっマジ!?…てことは今後魔族界での活動の幅がひろばるな。
魔族の狩猟だけでなく鉱山の発掘、生産業の確立、魔族界の人間進出…
よし、交渉のカードが増えるな。そうなれば今後もっと暴れても発言力は増していくだろうし…」
ユ「な?言っただろう?あれはどう転んでもお前の利益になるというのは」
鬼「てことは今頃あっちは…」
イ「そもそもの使い方すら分からんだろうな。よく見ても核昌と大して変わらん。
オディアス教の契約者、そうだな…法神辺りだろうか。あれを使えそうなのは。
だがどうしようとも使えんのだ。あっちにしてみれば無用の長物だ」
ボ「それはそれは困ってるだろうね~。折角手に入れたのにアゴン族同様の加護は得られない。
かといってオディアス教以外の力を人間族は持っていない訳だし」
ユ「そこら辺は遠い昔に散々人間には言ったんだがな…
だが人間族にはかなりの嫌がらせにはなったと思うがな」
鬼「そらまぁ、使えもしない物持って行ってもな」
ユ「いやいや、そっちではない。お前にも絡んでるんだぞ?」
鬼「自分に?」
イ「あれは人間族では唯一お前にしか使えないのだぞ?
アイツらはかなり無茶な手を使ってお前から取り上げたんだろう?
なのに、あれの使い方をお前に頭を下げて頼まねばならんのだ。
お前にとってかなり好都合な状況ではないのかな?」
鬼「頭をって…人間族には使えないとわかれば自分に聞きに来ることは無いだろ?」
ユ「我らが一体誰のために石昌を持って行った?使えもしない物を贈る馬鹿がいるか?
お前に渡したという事実がお前にはあれを使う手段があるという事だ。
その程度にも気が付かんとは思わんがな」
鬼「それは確かに…かなり気分がいいな。…あれ、てことは最初からあいつ等に奪わせる気だったの?」
ユ「確証はなかったがかなり自信はあったな。
それに本当にお前に渡すのであればわざわざあんな事はせんよ。
お前が来たらその時に手渡しをすればいいのだからな」
鬼「それもそうか…じゃあ本当に自分の為だけにあんな危険な事をしてくれたんだな。
…本当にありがとう。心から感謝するよ」
ユ「我らとて人間族には恨みもある。その点はお前と一緒だ。
さぁ、人間界に戻るといい。お前にとってかなり気分の良い状況になっているはずだ」
鬼「ああ、戻るよ。じゃあ…思い切り高笑いでもしながらあいつらが来るのを待つとしますか」




