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六十四話目

着地地点の地形は何の躊躇いもなくふるった一撃を物語っていた。

かなりの衝撃と剣の一撃がアイツの体を襲ったはずだ。

これだけの結果とあれだけの手応え、やはり先程考えていたのは杞憂だったか…

…いや、待て。おかしいぞ、何故だ?


ラ「アイツは何処だ?…見渡す限り他へ吹き飛んだ形跡もない」

イ「確かに…いや、近くに隠れているんだろう。そこからの不意打ち、アイツらしい卑怯な戦法だ」

ラ「近くを捜索だ、かならずかなりのダメージを受けているはず!発見次第私に報告を!」

鬼「いやいやいや、それには及ばんよ。手間を省かせてやろうじゃないか」


近くの樹の上からこちらを見下ろすように佇んでいる。

顔にある面のせいで表情は読み取れんが、声からはダメージの色は感じ取れない。

何とも気味の悪い顔だ、薄ら笑いを浮かべながらこちらを馬鹿にするようなあの顔だ!!


イ「ウソ…何でそんな普通にそこにいる!?」

鬼「何故ここにって…お前らが吹き飛ばしてくれたんだろ?」

ラ「…その鎧、何故何のダメージも受けていないのだ?一体何で出来ている?」

イ「そんな筈がない!多分僕達が来るまでの間に新しい鎧に着替えたはずだ!

その辺にボロボロの鎧があるはずだ!」

鬼「まぁ、それを自分がどういってもお前等は信じまい?であるならば真実を教えようじゃないか。

…噂でもなく、誰かの口伝えでもないお前等自身の目で見ればいい。…アレイス」


一瞬の間を置いてアイツは恐らく人間に戻った。何かが見えた訳でもないが。そう感じた。

だが、その時間は正に一瞬だった。次の瞬間にはあいつは文字通り人間以外の何かになった。

そう、何かが見えた訳でもないが感じた。

そしてさっきまでのイゴルとの話で芽生えた誓い等何処かに行った。

周りの騎士団員も、龍ランクを頂き、激戦を戦い抜いてきた高位契約者ですら顔を見れば自分と同じだ。

ああ、今目の前にいるのは今まで会った来たどんな契約者よりも魔族よりも…化け物だと。


鬼「おんやぁ~?皆様どうしたのかな?何をそんなに固まってらっしゃるの?

まだ戦闘中で敵は自分、目の前にこうして佇んでいるのにどうして一歩も動かないのかな?」

ラ「お前…一体何なんだ?」

鬼「何か…残念だよ、自分もその答えを持ち合わせてはいないからね。

では答えの出ない問答はもうやめよう。時間の無駄だから。では戦闘を再開しよう。

君達からかかってきていいよ…と言いたいところだがその気はない様だ。

ではこちらから仕掛けるよ、ほら準備して」

ラ「!!。全員戦闘は終わってなどいない、気を抜くな!!」

鬼「よし、全員戦闘準備は終わっているね。ではこちらからのプレゼントだ。

そうだな…そこのハンマーを装備している君」


アイツが話しかけたのは撃龍の一人、確かキールとかいう名前だったかな?

しかし、何故こんなタイミングでキールに話しかけたんだ?


鬼「いいかな?今から君をぶん殴る。誰にも目をくれず、誰の邪魔も受けずに君だけを。

いいかな?ほら、準備して。3,2,1,0!!!」


ガァァァン!!!!グシャ!!!

キ「ガァハ!!!」


横で響いている音が最初は何の音か意味が分からなかった。

ただ、気づけば目の前の樹の上に座っていたはずのアイツが消えて、キールの前に佇んでいた。

腕が腹部にめり込んでいると理解するのに数秒を要した。

戦闘中でなければまるで握手でもしているのかと思うような手の位置だ。

キールの悶絶するような表情がなければだが。


ラ「キール!!大丈夫か!?」


キールの腹部には鎧が粉々に砕け、大量の血が流れていた。

鎧を砕き、腹部にまで貫通していたというのか!?龍ランクの身体強化をも貫いたのか!?


鬼「全く…きちんと言っただろう?君をぶん殴ると。

周りの君たちも何をしていたんだい?教えてあげたのに」


そうだ、こいつは攻撃目標もタイミングもすべてを教えていた。

こちらとて全員が高位契約者、相手がいくら訳の分からないことを言っていたとしても。

相手から気を抜くような馬鹿な真似などしようはずもない。

という事はあいつは龍ランクの契約者の注意網をも上回る速さで動いたというのか!?

そんな事聖ランクでもできるものなのか!?いや聞いた事などない!!

という事は、アイツは聖以上の力を持っているという事か!?


ラ「あり得ない、そんな事など人間に持ち得ようもない力だ!何か、何かタネがある筈だ!

全員もう一度気を引き締めろ!!」

鬼「いや、もういいよ」


こいつが何かを言った瞬間体がぶれた。恐らく移動したんだと理解したその時。


騎「ゴボォ!」

騎「ヒィイィィ!」

騎「ガァッ!!」


周りから聞こえてくる悲鳴や叫び声が聞こえるたびに騎士団が倒れていく。

龍ランクの高位契約者が訳も分からずその場に一人また一人と倒れていく。

それらはまるで何かの悪い夢を見るような現実感の無さを表していた。

気が付けばこの場に立っているのは自分とイゴルの二人だけになってしまった。

この時点で我々の負けは確定した。龍がほぼ倒され、現存戦力は龍一人と鬼が一人。


鬼「う~ん、全力の龍ランクでも開放したらこんなもんか…

しかし、疲れるな~。やっぱりこれはあんまり使いたくはないな。早く解くとしようか。

…残り物を片づけてから」

イ「ヒィィィ!!待ってくれ!もうお前の勝ちだ、負けを認める!だから、もういいだろ!?

これ以上は無駄だとは思わないか!?」

ラ「イゴル…」

鬼「こっちの勝ち?負けを認める?何を言っている?まだ戦闘は終わったなどいないぞ?

自分は元気だし、君たちも元気だ。敵と敵がまだこうして対峙しているのに何故勝ち負け決まるのだ?

さぁ、武器を構えろ、契約者としての力を振り絞れ、切り掛かってこい。

あらん限りの力で自分の存在を否定してみろ…どうした、何故かかってこない!?

最初の意気込みはどうした?自分を殺すんだろう?自分はまだ健在だ。

さぁ…殺し合いを続けようじゃないか」

イ「い、嫌だ!まだ死にたくなんかない!やっと騎士団に入ったんだ!

まだ僕はこんな所で終わりたくはない!!」


イゴルはキリュウに背を向けて反対方向へ全速力で走りだした。

ああ、逃げたのかと理解した時にはキリュウはイゴルのすぐ背後に立ち背中に蹴りを入れていた。

着ていた鎧は砕け、イゴルは何処かに飛んで行った。

あれだけの事を言っていたイゴルがいとも簡単に逃げていった。

イゴルに怒りは湧きあがらなかった。何故?自分もそうしたかったからだ。

自分の、いや自分達の情けなさに怒りなど湧きあがるはずもないのだ。


鬼「なんだよ、アイツも情けない…あれだけ大言壮語しといて簡単に逃げやがる。

もう少し歯漢気でも見せてくれるかとも思ったんだがな。

その点、ラリウス君!君は合格だよ。自分のあれを見ても逃げもしない。

力の差を感じたかどうかは分からんが、騎士団員の反応を見る限りある程度は理解したんだろ?」

ラ「ああ、分かったよ…もう一度だけ聞くぞ。お前は何なんだ?」

鬼「もう一度言ってやるよ、その答えを自分は持ち合わせてなどいないとな。

もういいか?さっきからその顔面殴りたくて仕方なかったんだ。

じゃあ…死んでも文句は言うなよボケェェェ!!!!!」

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