五十五話目
キリュウ達が出て行ったそのすぐ後、秘書のカリアスは各部署の幹部を集めた。
代表ホルロス・ケイン、資材調達責任者ブロウリー、秘書カリアス。
他に工房責任者サガン、営業責任者メイヴィス・ウィルコックス、財務責任者ケルヴィン。
以上六名が炎錬工房経営陣といえる面々だ。
ホ「今回皆に急に集まってもらったのは今日もたらされた商談について全員の意見を聞きたい」
メ「例の無契約者が持ってきたという話よね?」
ケ「…内容はある程度聞きましたが…大変興味深いですよね。
正直財務担当としては高品質な素材が低価格でもたらされる。何のデメリットも無い」
サ「ワシとしても何ら反対意見は無い。…むしろ楽しみじゃ、噂を聞いただけでもかなりの質。
それらが今後定期的に入ってくるのじゃろ?腕が鳴るわい!」
ブ「こちらとしても反対意見は無い。仕入の手間が省けるのなら願ったりかなったりだ」
ケ「現在資金面では我が工房は潤沢です。だが仕入れる資材がなければ宝の持ち腐れという所ですか」
ホ「メイヴィス、君の意見はどうかね?」
メ「私としては…もう少し相手を検討すべきだと思うわ」
ホ「ほぅ…反対意見という訳だな?その真意は?」
メ「相手が悪い、というのが一番の反対意見ね。何せ相手は今悪名高き無契約者キリュウ。
オディアス教の5神に選ばれず、初の無契約者。
戦闘スタイルは人類史上聞いた事のない素手。流れてくる噂は常識外れの力。
こんなのと取引しているというのは営業面でどういう不利益を被るのか…
正直営業責任者としてはすぐに決断するべきではないと考えるわ。もう少し市場調査をするべきだと思う」
ホ「では、彼の立ち位置がどういう所になれば取引相手として成立すると思う?」
メ「現状彼が何故国民に怖がられているか。それは二点あると思うの。
彼の実力が不明瞭な点。これに関しては禁止令が出ているのがその最たる例だと考えるわ。
誰も見たことがなく、その実績だけが一人歩きをしている。
もうひとつはその力の出所が分からないから。本来人間族は契約者にならない限り微々たる力しかない。
それこそ魔格1の魔族にすら勝てない程に。
彼は無契約者という存在なのに下手をすれば聖にすら匹敵する。
そんな今まで居なかった訳の分からない存在。そんなものを怖がらないでという方が無理でしょ」
ホ「確かにな…その点に関しては私の方としても彼に条件を出しておいた。
もっと公に彼の力を国中に広められないかと。それを達成できればどうだ?」
メ「…であるならば私としても反論は無いわ」
ホ「では彼の今後起こすだろう行動をみて契約をするかどうかを決めよう。では解散だ」
幹部会が終わった所で会議室に残ったのは代表ホルロス・ケインと秘書カリアスの二人だ。
カリアスは今幹部会で行った会話を議事録として書類に起こしている。
ホ「カリアス、お前はどう思う?彼の持ってきた話を」
カ「代表の考えはすでに決まっておられるのでは?私の意見など聞く必要がおありですか?」
ホ「人と話している内にいい考えが浮かぶ事もあるのだ。なに、これは軽い雑談だ。上司と部下のな」
カ「では…やはりお受けになるべきだと私は考えます。
これから人間界での資材確保はますます困難になるでしょう。
やはり、今後は魔族界での活動がカギを握るのは自明の理。
おそらくそう遠くない未来に国単位での魔族界への領地拡大を目的とした侵攻が起こるでしょう。
騎士団も守備隊もそして国内の闘人ギルド、アクアビス国の戦力を投入する事でしょう。
その中でも彼はトップクラスの実力者。その彼に縁を結ぶというのは計り知れない利があると考えます」
ホ「トップクラスの実力者?なぜそのような事が言えるのだ?」
カ「実際問題噂の殆どは真実だと考えます。狩ってきた魔族、国の彼への反応。
これらを鑑みても国が彼を取り込もうとしていると思います」
ホ「国が彼をか…」
カ「国家単位での嫌がらせと思いますよ。大体実力を疑えるような実績をは思えませんし。
彼が欲しいが国が頭を下げる訳にはいかない、ですので彼の方から泣きついてくるような策をとったかと。
闘人ギルドの長が彼の元を直接訪れたという話も聞いた事があります」
ホ「闘人ギルドの長自らか!?そんな話聞いた事がなかったが…
なるほど、ギルドがそれだけ欲しがるというのなら国もと思えるのも確かだ。
国のメンツとプライド、まぁそんな所だろう。
しかし、魔族界への侵攻戦というのは少々話がデカい気もするが…」
カ「ですが、これだけ人間界における資源の金額が上がっている以上何処かで爆発すると思われます。
人間一度上がってしまった生活を下げろと言われても到底できない強欲な種族ですので」
ホ「相変わらずお前の話は一切の熱が感じられんな。
魔族界への侵攻戦など普通ならもっと恐れおののく内容なんだが、お前が言うと日常のように聞こえる。
だが…うちのような大手でも資材確保にこれだけ頭を悩ましているのだ。
その他大勢の中小の工房や商会などは切羽詰まる話だ。確かに何処かで爆発しそうだな…」
カ「故に彼との縁を結ぶというのは計り知れない利があると申し上げます。
特に今彼の味方と言えるのはほぼいない状況です。
代表、最初が肝心なのです。今後彼を利用しようと近づく者は激増するでしょう。
そうなれば彼は近づく者に心を許そうとはしない。
しかし、我々はその者達より先んじた関係性と信頼を結ぶというのは何よりも大きいと思います。
今なればそう多くない支出で彼と友になれると思います」
ホ「支出か。その言い様ではとても友にいう言葉ではないと思うがな」
カ「その辺は私は疎いもので」
ホ「まぁ、構わんさ。友か…かのような変わった友というのも面白いのかもしれんか。
…なれると思うか?彼と私が友に」
カ「先程も言いましたがその辺は私は疎いと考えています。
ですが…なろうと必死になってなれるものではないと思われます。
代表が真摯に相対すれば自然となれるのではないですか」
ホ「真摯にか…まぁ、なるようになるというものか。
さて、我らの友はどういう行動を起こしていくのか。ゆっくり拝見させてもらうとするか」




