五十一話目
最初の被害者になったのはギルモア聖戦団という闘人ギルド所属の最高位の戦団だ。
全員が半分以上が龍というなんともおっかない戦闘集団だ。
結構手間はとったがそれでもかなりの実力差は見せつけれたと思う。
思ったのはいいんだが…
鬼「おかしいな…何で9割以上が逃げるのよ…」
ア「意外と臆病者ばかり集まったという訳か」
あまりの数にギルモア以降は瞬殺を心掛けていた。
ところが、いくつかの戦団と個人契約者を瞬殺していたら残りが逃げて行ってしまったのだ。
鬼「まぁ…これはこれで楽になったからよしとするか」
ア「それでお前は何故こんな面倒を起こしたのだ?こんな報酬も素材も得られないような面倒事を?」
鬼「今人間界に広まっている自分の評判はかなり歪んだ形で広まっている。
狩った魔族の情報ばかり広まり、実際の実力は全く知られていない。これがかなり問題なんだよ」
ア「舐められるばかりだしな」
鬼「でだ、今回の目的は自分の実力の正確な情報を回してもらおうと思ってね。
これだけ有名な戦団をボコったんだ。証明された正確な情報が広まるはずだ」
ア「しかし…広めた所でそれがどうだというのだ?それがどんな効果があるというのだ?」
鬼「まだ今後がどうなるか分からんから何とも言えんが…
とりあえず今回の目的は情報の拡散が目的だからな。その辺はクリアしたとみていいだろう。
よし、今日の所は家に帰ろうや。数日中に何らかの動きが見えると楽なんだがな」
闘人ギルドは依頼が出された時以上の騒ぎになって職員は対応に追われていた。
何せ最高位の戦団、それに近い実力の戦団、さらには個人の契約者も返り討ちに合っている。
体もボロボロなら装備品もかなりのダメージを負ったのだ。
そして観戦していた契約者があれは一体なんだという問い合わせが闘人ギルドに殺到している。
それを聞かれてもギルド側も困ってしまっているのが現状だ。なにせギルドも何も知らないのだから。
この世界には当然電話等はなく全てがギルドのカウンターに集中して職員もてんやわんやだ。
契「あれは一体何なんだ!?最高位の戦団がほぼ何もできずに瞬殺されるなど聞いた事がないぞ!?」
受「私達に言われても分かりません!業務の邪魔ですのでお引き取りください!」
ただ、受付に来るのはほとんどがその件でくるばかり。
通常業務といってもやる事がないのだが、それでもギルド側からすれば面倒な事この上ないのは事実だ。
こういった面白い噂というものは人の口からすぐに流れる。
事実少し人の多い所に行けばこの話でもちきりというから中々に楽しいと。
今まで自分の力というものはきちんと評価されていなかったのだ。
それが今回は証人が山のようにいる中で証明されたのだ。
これで無契約者の名前は無能者という意味から恐れられる存在となったわけだ。
家に帰る道中、それはそれは気分のいいものだもの。
鬼「いやぁ、人の噂の早い事早い事!若干期待外れの戦団の面々だけど、戦果は上々と」
ア「後の事は人任せか。お前の策のなんとも呑気なものか…」
鬼「なにせこっちのカードはまだこの武力しかないしね~。他のカードは今後の努力次第だな」
家に帰るとエルトが居間で待っていた。
街に買い物に出て自分が何かをやらかしたと知ったので作業に集中できなかったそうだ。
しかし、何かをやらかしたって…こちとら悪ガキじゃないんだから。
エ「それで今回は何をやったの?一応聞くけど法律云々は無いよね?」
鬼「…お前は自分の親かなんかか?何か事が起きる毎にお前に怒られているような気がするぞ」
ア「なればこんな不出来な息子でかわいそうに…どういう育て方をしたんだ?」
エ「本当の親なら2,3発は殴ってると思うよ」
鬼「うるせぇ!コラアレイス!文句あんなら表出ろこの!」
エ「ああもういいから!それで今回は何をしたの?」
鬼「それに関してなんだがね。エルトくん、街の様子はどうだったかな?
できれば流れている噂の中身を知りたいんだがね」
エ「それなんだけど…今までとは少し違ってるよ」
ア「ほう、どういう風にだ?」
エ「今までは噂が流れても信じない人の方が多かったんだよね。
実際あまりにも人間離れしているし。流れても結果よりも工程が興味もたれてたし」
鬼「自分がどんな細工をして今までの魔族を狩ったかって?
あんだけの魔族共を一体どんな細工したら負傷もせずに狩れんのよ。こっちが聞きたいわ」
エ「それが今回はいくつもの戦団が敗れて、その何倍もの戦団が戦闘を目撃している。
もうキリュウの名前は馬鹿にされるようなものではなくなった、というのが人の話を聞いた僕の感想だね」
ア「正確な情報の流布。それが今回の騒動の目的という訳だ」
鬼「それに関してはもうバッチシ!いやぁ、上手くいったいった」
エ「でも目的は達成したとして効果は何なの?実力が知れ渡ったとしても禁止令は解けないでしょ?」
鬼「それに関しましてこちらの資料をご覧いただけますかな?」
エルトにいくつかの書類を手渡す。中に書いてあるのは大量の数字が羅列されている。
一般人には何が書いてあるかはあまり分からない資料だ。
ただ、職人に見せるとこれがまた違ってくるというものよ。
エ「…近年取引されている金属類の価格表か。これがどうかしたの?」
鬼「それはここ五年の価格の推移が書いてあるのよ。見れば一目瞭然だろ?」
ア「徐々にではあるが上がってきているだろ?ひどいものになると五年で2から3割増しだ。
仕入れをしてこなかったエルトは知らんだろうが…」
鬼「こういった資源を使う商業ギルドや工房ギルドなんかは結構頭を抱えてる問題よ」
エ「うわ、こんなに値上がりしてたんだ…知らなかった」
鬼「仕入れ値がこれからどういう動きをするかは分かんないがな」
エ「という事は…今後は魔族界での資源調達がメインになるってことか。
それでこれと今回とどういう繋がりが?」
鬼「魔族界での活動にはそれこそ契約者の力がモノをいう訳だ。
上位になればなるほどその成果というものは計り知れん。
そこで忽然と現れたよくは分からんがとにかく力のある事は分かったこの私。
しかもその実力は今回の騒動で極上の者と知れ渡りました。これまでの実績、裏打ちされた実力。
これだけの条件があれば自分に仕事を頼みたいってギルドが出てきてもおかしくはないだろ」
エ「…その発想自体は分かるけど、それはあくまでギルド側からの希望でしょ?
国家、ギルド、教会はそれぞれが独立した組織だ。お互い不干渉というのが決まりだよ」
鬼「とはいえ、完全に切り離された関係という訳じゃないじゃん。
国の収入はギルドからのものだし、ギルドが自由に国で商売できるのも国あってのものだし、
教会だって国もギルドも無視してたらあんなデカい組織維持できないし」
エ「それは、そうだろうけど…」
鬼「まぁ、エルトの心配も分かるさ。それに自分だって何の勝算も無くこんな騒動起こした訳じゃないよ」
エ「…今回は本当に色々やらかしたんだ。で、まだなにしたの?」
無契約者の名前は良くも悪くも本当に売れた名前だというのはよく分かった。
信用があるかどうかは全く別問題だったが…
それでも色々動き回るのには意外と役には立ったものだ。
いやはや今回は本当に骨が折れる事が多かったな。




