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二十九話目

アブルートを狩り紆余曲折守備隊やら国に報告やら面倒な作業をなんとか終わらせた。

エルトは早速工房に入り素材の解体、および魂の摘出作業を行っている。


鬼「いやぁ、彼は一体いくらになるだろうね~。楽しみ楽しみ」

ア「どうだ、魂の方はもう売却に回していいんじゃないのか?

前に狩った魔族でここのソウルマシンは充分稼働している。

備蓄も十分、当分はここ程度の規模を賄える位はあるぞ」

鬼「マジ?じゃあ、そうしますか。正直こっちの物価が分かんないからなぁ。

店舗造るのにいくらかかるか。工房ギルドに行って見積もり位取らないとな」


部屋で今後の事を考えていると外の様子が騒がしい。

窓を開けてみると家の周りにたくさんの人だかりができている。

はて、今日は何かのイベントごとか?


エ「キリュウ大変だよ!アブルートの噂が流れて見物人が押し寄せてるよ!」

鬼「ああ?見物人?なによそれ?」

エ「他の工房の職人がアブルートを見に来たんだよ」

鬼「この忙しい時に面倒な…じゃあエルトは工房で仕事してて。

あっちはこっちで対処するから」

エ「分かったけど…あんまり揉めないでね」


エルトはそのまま部屋を出て工房に戻っていく。

さて、ああいう手合いはどうやって追い返したものか…


鬼「アレイス、鎧出して」

ア「なに?お前まさか実力行使で追い返すつもりか?」

鬼「その場合も覚悟してるよ。今まで碌な物を作ってこなかった工房がいきなり活性化しだしたんだ。

他の連中がどういう目で見ているか分かったもんじゃない。大きな工房は危機感を。

ここみたいに大した工房じゃない所は嫉妬を。集団心理はおっかないぞ~」

ア「それにしたってだぞ。そこまでせんといかんのか?」

鬼「いいからいいから。じゃあ行くぞ」



扉を開けるとそこには数十人位の人間が集まっている。

見た所武器を携帯している者も居る始末だ。

魔族を見に来るだけならそんなもん要らんだろうに…

集団の皆さまはこちらの風体にびっくりなさっているご様子だ。

頼むから暴動だけは勘弁しろよ~。


鬼「さて、御集まりの皆様。本日は一体どのようなご用件でしょうか?

エルドットは只今作業中でして、私がご用件を窺いましょう」


いきなり現れた妙な面つけた人間が急に喋り出す。

それだけでも結構おっかない場面なのだろう。

集まっている人だかりにこれに答えられる勇気ある者は…


?「私が代表して喋りましょうか?このまま皆が黙っていては埒が明かない」

鬼「ほぅ、アンタも来てたのか」


喋り出した勇気ある人間第一号はリアム・スウィニー。傍らには二度目の御対面セレスト。

こいつもここに来てたとはね。エルトを出さなくてよかったよ。


リ「じつはここに魔格8の魔族が討伐されて運ばれたと聞いたのですが本当ですか?」

鬼「ああ、事実だ。自分が魔族界に一泊してまで狩った貴重な素材だからな。

しかし…あんたもいい度胸だね。どの面下げてここの敷地にこうもたやすく来るわ」

リ「その声は…ひょっとしてキリュウとかいう例の…」

鬼「おっと、その続きは言うなと前に忠告したな?」

リ「…失礼した。今回ここに来たのはその魔族を一度拝見させてもらえないかという事です。

8以上は人間界には滅多に見れない代物ですからね。後学の為に是非」

鬼「なるほどね…悪いけど答えはノーで。今はエルトが必死に作業中なんだ。

それを邪魔するわけにはいかない」

リ「…長時間お邪魔をするわけではありません。少々見させてもらえればそれでいいのです。

我々の勉強に少し協力をというのも駄目ですか」

鬼「おたくらの勉強よりもエルトの作業の方が万倍大事だっつの。

それが答えだ。では皆様お引き取りを」


流石に物言いがきつかったか、集団はえらくざわついている。

たく、うるさいからはよ帰れちゅうのと。


リ「では本題を伝えさせてもらおうか」

鬼「やっぱりな~。ただの見物にしちゃ武器持ちが多いものな」

リ「今回こちらで狩った魔族は龍種と聞いているが?」

鬼「破龍アブルート。それが何か?」

リ「でははっきり言おう。素材を少々分けてほしい。それがここに集まった職人の願いだ」

鬼「…ああ?」

リ「龍種という事は鱗等は数が多く取れると思う。聞けば体長も大きいと聞いた。

恐らく一枚の大きさも結構あると思う。一人一枚でいい。頼めないだろうか?」

鬼「…一応聞こうか。何故?」

リ「さっきも言ったが8など人生で何度も会える素材ではない。

我々の技術の向上の為。良い素材は職人を育ててくれる。技術を高めてくれる。

同じ国にいる同じ職人。どうだろうか?」


周りにいる人間もどうにかできないだろうとという懇願の眼差しを送っている。

いやはや何とも…


鬼「クックックッ…ハッハッハッハッ!!!あ~ヤッバイ!

面白いとても面白いよ…ここまではっきり言われると清々しいよ」

リ「それは肯定と捉えていいのかな」

鬼「はぁ、笑った笑った…んなわけあるか、バカかお前ら!!!

何処の世界に自分が命がけで狩ってきた貴重な物、タダでやるか!!

さっさと帰れ、これが自分の答えだ!!欲しけりゃ自分達でとって来い!!」

リ「なっ…!?何という態度だ!!こちらがこれだけ丁重に頼んでいるのに!!

一体何が気に入らないのだお前は!!」


リアムの言葉に同調するように周りの人間も口々に文句を言っている。

数人程度ならこうはいかんのだろうが、集団だとなんとも力強い事で。


鬼「黙れ!!じゃあ聞こうか!今までエルトが素材を分けてくれと頼んだ時、お前らは何をした!

冷たくあしらい、突き放したんじゃないのか!?今まで武器を作ってこれなかったというはだ!!

まともな素材など与えず!!与えたとしても屑の様な物を与えて来たんだろうが!

そんなお前らに8の素材を分けろ?どの面下げてここに足を運んできやがった!?

今すぐ消えろ!」

リ「それはもうそちらから喧嘩を売ったという事だぞ!

これだけの職人たちを馬鹿にしたのだ貴様は!」

鬼「お~お~、自分達のしてきたことを棚に上げてよくほざきやがる。

いいぞ、力づくと言うなら相手をしてやる。一つだけ忠告しといてやる。

お前達が欲しているアブルート。それを倒したのは自分一人だ。

その自分に武器を向けるという事をよく考えろよ。

武器を向ける相手に手心を加えるほど今の自分は穏やかじゃないからな!!」


忘れていたのか、熱くなり過ぎていたのか。

集まった人間はその事実を忘れていたらしい。

魔格8を自分一人で倒したという事実を。


リ「それとて本当かどうかも分からん!貴様一人で倒したというのは本人しか言っておらん!

おおかた高名な契約者と倒したんだろう!」

鬼「アホかお前は!じゃあなんで高名な契約者とやらは出てこない!?

自分が倒したと!それにどこにこんな実力も分からん者と一緒に魔族界に入る物好きがいる!?」

リ「それは…」


やっとアブルートを自分一人で倒したという事実を理解してくれたらしい。

そんな人間に喧嘩を売るような契約者は居ないようだ。

やれやれ、やっと作業に集中できる。魔格8がこんな面倒ばかり起こしてくれるとはね。

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