十五話目
大分時間は掛ったがようやく武器の製造が終了した。
全部で剣が8本、槍が10本、双剣は2組、棍が5本、ハンマーが3本、長柄のバトルアックスが2本。
エルト曰く、体の全てが材料として使える訳ではなく、良質な部分のみ使用したとの事。
これをこれから馴染の武器屋に行ってこれを売り払い金にする。
鬼「いやぁ、御苦労さん!ようやく出来たじゃないの!」
エ「うん…出来たよ」
ア「おいおい、何を泣きそうな顔をしておる?喜べ喜べ」
エ「初めて…キチンとした武器を造れた。最高の素材で持ってる技術の全てを打ち込む。
職人としてこんな嬉しい事はないよ。ありがとう。これもすべて君のおかげだよ」
鬼「御礼はこいつらをきちんとした対価で報酬にしてから。それが出来て初めて一歩が踏み出せる」
エ「うん…よし行こう!今荷車持ってくるよ」
そう言いながら車を取りに物置へ足早に走っていく。
うんうん、あんだけ嬉しそうにされるとこっちも頑張ったかいがあったというものだ。
鬼「エルト、嬉しそうだね。よかったよかった」
ア「後はこれがどれほどの値がつくかだな。この世界では武器・防具は需要はかなり高い。
これだけの素材で作った武器だ。全部で数千万位の値はつくだろうな」
鬼「マジ!?そんなに!?」
ア「装備の品質は生存率に直結する。ましてや装備は使えば使うほど傷む物だ。
回転率もかなり早い。多少値が張ろうとも買い手はいくらでもいる。
ある程度の魔族が狩れるような契約者は資金も豊富だろうしな」
鬼「こと戦事は金がかかるかねぇ。ましてや相手は人外の存在だ。
少しでも生存率は上げておきたいわな」
ア「人外は我らも同じことだがな。何せ神様に言われてしまった」
鬼「力だけはね。できれば中身は人でいたいものよ」
車に武器を全部積み込みいざ、商いへ!
馴染の武器屋は鬼・龍ランクの街にあるらしい。
車を牽いていく道中、街の連中はエルトの顔と車の荷物を見てえらく驚いている。
特に同じ鍛冶職の連中の驚き方ときたら。目ん玉飛び出るってのはああいう事を言うんだな。
そらそうだろ、以前は端材集めて生活用品作ってた人間ががだ。
いきなりガッツリ武器造ってきたんだもの。
鬼「いやぁ、気持ちいいね!あんだけのリアクション見れただけでも結構満足よ」
ア「お前がどう言われていたかは聞いてたからな。面白い面白い」
エ「いや、まだだよ。僕の武器の価値を見せつけないと見返したとはならない」
街の人間を驚かしながら目的の武器屋に着いた。
父親の代から取引のある武器屋だそうで、今までの商品も買い取ってくれていた。
今のエルトの状況をなんとしたいと思っている数少ない人間だ。
エ「おじさん!いるかい!?」
?「おお、エルト、最近顔を見ないからどうしたかと思ったぞ?ん、そちらは誰だい?」
エ「いま、僕の家に暮らしているキリュウです」
鬼「初めまして、キリュウです」
バ「この店の店主のバッカスだ。で、今日は何を持ってきたんだ?
見たところ、手ぶらのようだが?」
エ「今日は車に乗せて運んできたんだ。今持ってくるよ」
バ「車?おい一体何を…」
次々と武器を店内に運び込むエルト。
また日用品を持ってきたと思ったのだろう、街の人間と変わらぬ驚き様だ。
バ「これは…一体…どうやってこれだけの武器の素材を?
見た所どれもかなりの高ランクの魔格の魔族じゃないのか?」
エ「鋼狼ガルダス、牙豪猿シガイダ、高鬼族のグルイバス」
バ「どれも魔格6じゃないか!?依頼すれば数百万ディアは軽くいくランクだ。
どうやってそんな資金を作ったんだ!?」
エ「キリュウが狩ってきてくれたんだよ。無料で」
バ「君がか!?…失礼だが苗字が無いという事は、人か魔という事だろ?
どうやってこれだけの魔族を?」
エ「彼はその…おじさん聞いたことないかな?無契約者の噂」
バ「ああ?あれか、5神の誰にも選ばれなかったのに街の壁を壊しただの、
最近聞いた噂じゃ龍ランクを一撃で倒したとかいうあれか?
噂にしたってお粗末にも程があるわ」
鬼「おお、龍の奴も噂になったんだ。有名人になっちゃった」
エ「その無契約者が彼なんだ。でも実力は本物だよ。素手の彼に僕はやられた」
バ「ちょ、ちょっと待て!お前のランクは確か魔だろ?
無契約者が何故契約者に負けるんだ!?」
鬼「その無契約者はやめてくんない?胸糞悪くて仕方がないわ」
バ「それはすまん。だが…」
エ「おじさん、詳しい事は僕にもわからない。
でも彼がいないと今のままの僕じゃあいつには敵いっこない。
だから、細かい事は僕はきかない。おじさんも出来ればそうして欲しいんだ」
バ「…はぁ、分かったよ。ワシャ何も聞かない。これでいいんだな?」
エ「ありがとう、おじさん」
バ「しかし、そうなると噂は本当か?これだけの魔族が狩れるなら龍を倒したのも…」
エ「おじさん、何も聞かないってさっき言ったばっかだよ」
バ「そうだったそうだった。すまん。では査定をしよう。
これだけの量だ、時間もかかる。暫く待っていてくれ」
鬼「時間かかるなら昼飯でも食わない?腹減ったわ」
エ「そうだね…いいかなおじさん?」
バ「構わねぇよ。行ってこい。食い終わるくらいには終わらせとくよ」
近所の食堂で適当に昼飯を済ませる事になった。
そこは職人御用達で値段のわりに量があると評判の店らしい。
中には確かに職人らしいのがゴロゴロ居やがる。
やたらゴツいのばっかり。おお、男臭い所だこと。
鬼「さてさて、あいつらはどのくらいの値段がつくかね」
エ「落ち着かないよ。これは僕の鍛冶職としての初仕事だし」
ア「腕はともかく素材は一級品だ。高値がつくことは間違いないだろう」
エ「腕はともかくは余計だよ」
鬼「とりあえず、今は金集めだよ。工房の隣に店舗を構える予定もあるしな」
エ「それなんだけど…本当にそこまでしなきゃいけないの?
今みたいにおじさんの所に卸すのでもいいじゃないか。なんでそこまで店にこだわるのさ?」
鬼「まぁ、いいからいいから。あれば便利位に思っておいてよ」
ア「これの考える事はよく分からん。だが、行動を共にすると選んだのはお前自身だ。
とりあえず、疑いながらでもいいからついてこい」
エ「いや、そこまで言う気はないよ。ただ、ちょっと気になっただけで…」
鬼「アレイス、もういいよ。とりあえず食事にしよう」
運ばれてきた食事を楽しむこと小一時間。
そろそろ査定は終わった頃だろうか。
ボチボチ店に戻ろうと席を立ち上がると数人の人間がこっちの行く手を塞ぐ。
横に避けて通ろうとすると別の人間が塞ぐ。
…何だこいつらは?
鬼「自分達に何か用か?」
?「この店に見慣れない奴が居ると思えばエルドットじゃねぇか?こんなところで何してんだ?」
エ「デイラス…僕に何か用か?」
デ「今日はギルドに行って役立たずの素材を貰わなくていいのか?
こんな所で飯食ってる暇なんかないだろ」
鬼「エルト、なんだこの失礼なド阿呆は?」
エ「昔うちの工房に居た職人でデイラス・ボルデン。今はあいつの工房に居るけどね」
デ「金をためて工房再建?いつになったら実現するんだろうな。
いや…無理か。あんなもんいくら売ったって生活に消えるだけ。たまりゃしないわな」
エ「行こう、キリュウ。査定もう終わったころだろうから」
鬼「へいへい」
デ「お前誰だ?この辺じゃ見かけない顔だな。こいつの知り合いか?」
鬼「何だっていいだろ。そこ退けや。邪魔」
しばらくこっちのやり取りを見ていた取り巻きの一人が思い出したようにデイラスに耳打ちをする。
おそらく自分が無契約者というのがばれたんだと思う。
その証拠に…
デ「お前、無契約者か?今噂の」
鬼「だったら何よ?」
デ「あははははは!マジで居たんだ!そういう奴が!いや初めて見たわ。
何ともお似合いのコンビじゃないか!無契約者に鍛冶職人の出来損ない!」
鬼「お前名字が有るという事は鬼以上なのか?」
デ「おう、鬼ランクだ!お前なんかと違ってな!」
鬼「そうだな…一番効くのはこれかな?」
デ「ああ?なにを…ギャアッ!!」
あまりにも失礼な彼には罰ゲームの定番デコピンをプレゼント。
これだけの人間の前で指一本で倒されたんだ。彼にはいい薬だろう。
傍観していた店内の人間も指一本で吹っ飛ぶ人間は初めて見たんだろうな。
これ以上ここに居ると余計な詮索を食らいそうだし、さっさと離れよう。
さて、報酬を受け取りに行きますか。