ヒメゴト
『映画のチケットもらったんだけど、よかったら一緒に行かない?』
なんて嘘ついて、誘ったデート。もちろん今回も、デートだと思っているのはたぶん私だけ。
それでも構わない。ただ、私が君に会いたいの。
この街にある映画館なんて、色気もないショッピングモールの最上階くらい。地元が一緒なのは嬉しいけどさ、やっぱりムードは欲しかったり。
服装も、あんまり気合入れると変だし、だからってカジュアルすぎても伝わらない。迷って迷って、結局またワンピ。地味なそれを隠すように、ワインレッドのダッフルをひっぱりだした。
君に会うのは午後3時。それまでまだ時間があるなぁ、なんてゆっくりメイクをしていたら、スマホがちかり、光る。
『れん~、今日ひま~?』
なんだかちょっと残念、じゃないや。友人からの通知に、私は何故かこう返した。
『3時からデート♪』
仕上げのハイライトを入れて、荷物をまとめたら、また通知。
『じゃあ3時まで、あたしのひまをつぶして?』
呆れながらも返事をして、私は家を出た。
午後1時40分、映画館のあるショッピングモールの1階。
「恋、ありがとー」
「いやいや、なにしよーか暇してたから気にしないでー」
友人、花穂の微笑みに思わず眩む。かわいすぎて羨ましい。
「あたし、お腹すいた」
「私もー」
ぐるぐるなりそうなお腹を抱えて、私たちはフードコートに向かった。サンドイッチを食べ終えて、他愛のない話をしていると、花穂は急に目をキラキラさせて聞いてきた。
「ねぇ、もしかして今日って、西島とデート?」
「えっ!?……あ、あー、デートって言っても、え、映画!見るだけだから……」
「ふーん、デートじゃん」
向かいの席で、にやにやと見つめてくる花穂は、また口を開いた。
「何見るの?」
「え、決めてない……」
実はばりばりのラブストーリーです、なんて言えなくて、思わず嘘をついた。
「あ、嘘ついたー」
「えっ!?」
「まあいいや、どーせ後で教えてもらうし」
またにやにや。花穂はこの手の話がほんとに好きだよなぁ。しかも、あっさり見抜かれた……。
「それより、そろそろ3時だけど、連絡きてないの?」
花穂の言葉にスマホを見ると、時計は2時53分を表示していて、通知が1件、入っていた。
『映画館でいいんだよね?』
フードコートのトレイを片付けて、花穂と別れて、私は4階にある映画館に向かった。おっそいエスカレーターにそわそわする。
やっと映画館について、私は小走りでエントランスに入った。
入口近くに、茶色のダッフルコート。スマホを見つめて、誰かを待っているのは、もちろん君だった。
「こんにちはー」
肩をぽんと叩くと、君は私をみて笑う。
「あ、東條さん」
いつもこの笑顔に騙されている。そんな気がする。
「ダッフルだー、一緒だねー」
自分のダッフルをつまんで、君に見せる。君は苦笑いして「ほんとだ」って言った。ちょっと扱い、ひどくない?
「そう言えば、この映画でよかったの?」
私はずっと気になってたことを聞いた。私が買ったチケットは、少年漫画が原作のラブストーリー。ずっと友だちだと思っていた幼なじみのことを、恋愛感情の好きだと気づいた主人公が頑張る話。
「うん。俺、この原作が好きなんだよー」
「え、そうなの!知らなかったー」
思わずガッツポーズ、もちろん心の中で。我ながら良い選択をしたんだと、少し誇らしい。
受付でチケットを半券に変えてもらって、シアター内に進む。平日昼すぎ、席は後ろから2列目、真ん中の2つをとっておいた。さすがにガラガラで、人いないねって笑いあった。上映中に、何かイベント起きないかなぁとか考えたけど、それはありえなかった。
「はー、面白かったねー」
映画が終わって、君を見る。君は少し眠そうに笑う。
「この話、こんなにラブ要素なかった気がするんだよなぁ」
「へー、そうなんだー!なんだかすごくいい話だったよー?」
映画館を出ながら、君の話を聞く。それだけがこんなにも幸せで、あの頃はこんなことがあるなんて思いもしなかった。
「見にこれてよかった、ありがとう東條さん」
ほらまた、優しい笑顔で私を惑わす。
「いやいや、いつも構ってくれるお礼ってことで、ね?」
君が好きだと、顔に書いてあるような気がして。思わず視線を逸らしてでっちあげ。嘘じゃない、ほんとでもないことを。
「あっ、ねぇりょーちゃん!」
「ん?」
「あれ、見にいかない?こっから近いし」
視線を逸らした先、目に止まった公告には、イルミネーションのお知らせ。君と一緒に見たいんだけど、たぶん断られるなぁとか思っちゃう。そういうのは、恋人同士がフツーだし。
「え?あぁ、あれ?」
「いや、かな?」
あぁ、この雰囲気はだめかも。少し強引だし。なんて、落ち込みそうになった時。
「ん?いいよ、いこっか」
「え、ほんと!?やったぁ!」
私のことを気遣ってくれたのかな?それとも私と一緒に見たいって、ちょっとでも思ってくれたのかな?ちょっと都合のいい考え事をしながらも、私の顔は緩む。ただただ嬉しくて。
「東條さん、イルミネーションとかめっちゃ好きそう」
笑いながら君が言う。確かに大好きですけども。
「好きだよー、だって綺麗だし!」
君が隣にいれば、きっとなんでも、どこでも大好きになる。そんなこと言えないから、私は笑う。
「きらきらってした雰囲気がすきなのかなー、なんて」
てか寒いね、とか言ってたら、あっという間に会場の近く。並木道すらもドレスアップされている。
「ねぇねぇ、この並木道の中に、見つけたら幸せになれる木があるらしいよー」
「そうなんだ。見分ける特徴とかあるの?」
さっき公告でみた情報を、得意気に話す。君は意外にも食いついてきて、なんかかわいい。
「その木だけ、少し電飾が違うんだって。どんな風になってるのかなー?」
「ハートの形とか?」
「あー、ありそう」
並木道の真ん中あたりまできたとき、私は思わず笑ってしまった。
「りょーちゃん、あったよ」
「え?……あ、ほんとだ」
2人で顔を見合わせて、また笑う。電飾がなんだか不格好で、でも、たぶんハートの形があって。
「ほんとにハートだし」
くすくすと笑い合う。なんだか夢みたいな、そんな気持ちになった。
その後会場についてからは、写メのオンパレード。電飾でできた船の中でポーズをとったり、教会みたいに造られたカップルの多い施設で、意味もなくゲームをしたり。かまくらをモチーフにした電飾の模型は、中に入ることができたけど、狭くて近くてドキドキしちゃって、3分もいられなかった。
午後9時。そう言えば夕ご飯!と思い出したように会場を出る。ちょっとはしゃぎすぎたかも……。
適当なお店で軽くご飯を済ませたら、私たちは帰路に着く。帰りたくないなんて言えなくて、もう少しいてなんて言えなくて、私は少し俯いた。だけど、次の瞬間には顔を上げて、君に笑いかける。
「今日はありがとねー、おかげさまで楽しかったよー」
「いやいや、こちらこそありがとう」
お決まりの別れ際。切ないのはきっと、冬の夜だから。1人じゃ少し、寒いから。
「私さー、りょーちゃん連れ回すの好きだなー」
隠した想いは、まだ伝わらなくていい。
「まじすかー、光栄ですー」
ふざけ気味の君の返事が、暖かく沁みてくるから。
「だって、楽しいんだもん。ちゃんと構ってくれるしー」
なんてね、と付け足して、私は笑う。ほら、ちょうど分かれ道。
「ではでは、私はこっちなのでー」
「あ、そっか」
「りょーちゃん、また遊んでくれなきゃ嫌だからね!」
「はいはい、じゃあまたねー」
そう言うと君は、手を振って歩いていった。私も振り返して、背中を向ける。送ってくれないのはわかってるんだ。
「ちょっと寂しいなぁ……」
誰にも聞こえない声で呟いて、私は濃紺の空を見上げたんだ。
この想いは、まだ秘密。壊れてしまわないように隠してる。
だけどね、いつか気づいて欲しかな。ちいさな胸のヒメゴトに。
駄文すぎて、いちゃいちゃわからないですね、すいません。