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6.中庭

静かな昼休み、私は一人いつも通りの中庭で昼食をとっていた……はずだったのだが。

一週間くらい前から、篠原が隣に来るようになった。

中庭には、忘れられたようにベンチが一つだけポツリとあった。

人が来ることは滅多になく、私には嬉しい、心休まる場所だった。

だが、事態は一転する。篠原が来るようになってからは、安息などない。

私は、だんまりを決め込んで相手にしないのだが、一生懸命話しかけてきて、迷惑極まりない。

始めのうちは、


『友達が委員会でさ、一緒にいい?』


と、あたかも一緒に食べる友達がいないように、返事もしない私の隣に座る。

心の中では『駄目に決まっているだろう』とか思いながら、面倒事は嫌いなので黙っておいた。

弁当を口に詰め、急いで食べ終わると私はその場を去った。


『部活の集まりがあるみたいで』


『先生に呼び出されたみたいで』


日を重ねるにつれて、どんどん言い訳が露骨になったいく。お前の友達はどんだけ忙しいんだ。


「たまには、手伝えば良いじゃない」


私がポツリとそう洩らした時、篠原は少し目を見貼って驚いたような顔をした。

私が何を言っても、返事を返してくれないので、喋らないものと思っていたらしい。

それ以来、更に面倒なことに、篠原は私を喋らせるべく様々な話題を出した。

その魂胆が見え見えで釈なので、だんまりを決め込んだ。無論、会話は成立しない。

端から見れば、篠原が人形に話しかけている絵ズラの完成だ。

我ながら残念な光景だな。それに、例えが雑だった。

人形が弁当を食べている時点で可笑しい。



正直、関わりたくはなかったが、篠原は幾度となく話しかけて来て、面倒にも他の女子からの視線が痛かった。

彼の行動が、優しさなのか、1人でいる私への憐れみなのかは一行に分からなかった。

どうして、こんなに気にかけるのだろうか。



それが、好意だと気づくのはもう少し後の話になる。


少しずつ少しずつ、世界が一転して緩やかに変わっていくのに私は気がつかないでいた。

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