004 影絵
白剣を振るって影絵の怪異を消し飛ばす少女がいた。
小柄で華奢で。明らかに幼い造形。半人半獣の白毛は白獅子の風情。
剣術というよりは舞いのような動作で白剣を扱い、怪異を切り刻む。
「――――!」
白く踊る髪。振り向きざまに背後の怪異を両断した。
四足獣の影絵が平原に転がり散る。
「じゅうさん! あと七匹で終わりだよねっ?」
『その通りだ。獅子架! 早く帰ってお茶にしようぜっ』
「おうおうー」
確認しながら少女はさらなる怪異を迎え撃つ。白剣から燐子の刃を飛ばし、標的を切り裂いた。
周囲に広がる平原には獅子架と怪異しか存在しない。
中天をすぎた陽光が落ちるなか、別のポイントで相方は戦っている。その位置情報やバイタルデータを視界情報から拾い、なにも問題が起きていないことを随時把握。分散している怪異を撃破しながら、通信を利用して言葉を交わす。
『残り三だな。そっちに追い込んだから、あとは任せた』
「あいあいー」
平原の大地すれすれを機械翼で飛びながら、獅子架は移動した。
標的を補足。
右手の白剣を握る手に力がこもる。
突き出すような一撃。――閃光が槍のように貫き飛んだ。
散り舞う影絵を横目に、獅子架は左手に広がった森に目を向ける。
青の瞳に映るのは、森と平原の境目。そこに散る二体の怪異。
獅子架は機械翼を操り、低空ながら立体機動で怪異に迫っていく。
軌跡を後追いする怪異の射撃は当然かすりもしない。力量の差は明らかだった。
「これで――」
一閃。
「――終わり!」
返す刀でもう一度。
瞬時に二体を斬り伏せて、勝利を宣言する少女。
平原に吹く風は影の怪異を散らし、獅子架の白服も揺らす。
「さってとー」
森の方角に黒い影がひとつ。それが敵ではないことを獅子架は知っている。
そのまま合流した影人形の青年から声をかけられた。
「お疲れさん」
「影飢もねー。んふふー」
「うわ、気持ち悪いくらいご機嫌だな」
「だってこれでケーキ三昧だし? だし?」
「はいはい……」
疲れた様子を見せた青年を気にとめず、獅子架は街へと引き返す。
今日の仕事は終わりで、待っているのは大好きな食べ物。
疲れを気にする暇もない。