002 財宝の山
「困りましたね影飢さん」
「困りましたね獅子架さん」
財宝の山を前にして、腕組みをしたまま困惑する二人。
白獅子らしさを持つ半人半獣の少女と、黒仮面を付けた細身の青年。
「俺はやっぱり全部調べてみるのがいいと思うんだよ」
「この山を? 私は面倒だと思いますぅー」
「だが、ひとつしか持ち出せないんだぞ?」
とある遺跡の深部で二人は唸る。
ようやくたどり着いた場所だったが、外へ持ち帰れるのはひとつだけ。複数持ち出せば呪われてしまうのが分かっているからだった。
「そりゃあ私が謎解き失敗しましたけどー。けどー」
「責めてない責めてない。俺としては獅子架を褒めたい。けど、事実確認は大切だ。どうやってひとつを選ぶのか。後悔しないようにしたいと、俺は思うね」
「うーん。でも、大変だよ?」
「まあ、あまりのんびりもしていられないからな。でもやれるだけはやっておきたいぞ? なにせここのお宝はスゲーんだからさ」
「そう、なんだよねー……。ああ、どうして全部持ち出せないのっ。これだけあれば、とーぶん好き勝手できるのに!」
「余裕で一生遊んで暮らせるだけあるんだが、君はいったいなにに使うつもりなんだ」
「わかってるくせにー」
「わからん!」
付き合うのは無駄だと判断し、影飢は財宝の山に挑む。
どうせ持ち出せないのだからと、乱雑に扱い始めるまで時間は掛からなかった。次第に分別の要領も覚え、価値の高そうな物をどんどん獅子架のほうへと放っていく。
「気に入ったのがあったら教えてくれ」
「あいあいさー!」
精度は獅子架に任せ、山を掘り返すのは影飢が務めた。
手際は良くなり、予想以上に早く終わりが見える。持ち出す候補も絞られ、吟味を重ねる作業に入っていく。
「もう決まりかね」
「かなぁー」
最後の箱を改めながら、二人は言葉を交わす。
中身は宝石類。もしかすれば貴重な物があるかもしれないが、今絞った以上の候補がここで出てくるとも考えづらい。
「うし、終わり。じゃあ決まりだな」
「決まり決まり。さあ出よう早く出よう。帰って甘いケーキが食べたいな!」
「あの店のだな?」
「あの店のだよ!」
力の宿った指輪をチョイスした二人は財宝の部屋を出る。
散らかした財宝の山を振り返ることもない。