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001 機械翼

 暑さに眩暈がした。

 青年は影人形ではあったが、人並みに苦しさも覚える。肩書きは容赦のない日差しの前では無意味だった。

 岩砂漠に吹く風は砂を運びながら舞い踊っている。不快感が募る。


「目に砂が入らないのは便利そーだね」


 気楽な声音は隣から。位置は低い。

 青年が視線を落とせば、見上げている幼い少女の姿があった。

 少女の青い瞳は青年の顔に向けられていた。

 正しくは、顔を覆っている黒仮面に。


「領域壁を起動してるから、砂が入らないのは獅子架(ししか)もだろーがよ」

「そうでしたー。てへ」

「はいはい、うざいうざい」

「うわひど! 影飢(えいき)ってばサイテー」

「はいはい。そーっすね」


 青年――影飢は、獅子架の言葉を軽く流して視線を前へと戻した。

 岩砂漠の地平は揺らいでいる。

 楼閣にも見える岩山も原形を見失いそうになるくらい歪み移ろう。


「んじゃあまあ、そろそろ行きますかね」

「うん」


 起動展開するのは機械の翼。

 悪魔的な暑さからも、領域壁の段階を上げることで逃れる。それは空を飛ぶために必要な防護を作るために得られた副産物だったが、気分的にはおまけに留まらない。

 冷房の効いた室内に入った錯覚を覚えながら、背部に展開した翼を操った。


「あー、幸せすぎて死んじゃう」


 デザインはまるで違うが、同様の効果を持った機械翼を広げた獅子架が歓喜する。


「設定温度下げすぎるなよ。また歩くのはごめんだからな」

「はいはーい」


 どこまで聞いているのか分からない様子で前へ飛び行く少女に、青年は息を深く長く吐き出した。


「無駄に飛ぶのもやめ! 貯めた分の燐子使い切っちゃうだろーが」

「あーあー聞こえませーん」


 気持ち良さそうに飛び回る獅子架に、再度ため息。

 それでも、しばらくすれば落ち着いて飛び始めることを影飢は知っている。釘を刺さなければ延々無駄遣いすることも知っている。だから、気疲れするものの、注意しておくことは無駄ではない。


「ほら、影飢。はやくはやく! 遺跡は待っちゃくれないんだよー」

「待ってくれるっつーの」


 呆れながらも、影飢は少し速度を上げる。

 燃費の悪さは、まあ、今少しの間だけ我慢しようと割り切って。

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