表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
六章 再界の渇望
43/65

40 兵器シスター

 このレーザーが仕掛けられている時、セヴィスは変装で警察に紛れ込むか、カイロを投げ込んで騒ぎを起こすというような作戦を取っていた。

別のレーザーを通ったことはあるが、モモン式を正面から突破するのは今回が初めてだ。


 後ろを振り返ると、モルディオが早くしろと言うように頷いた。

セヴィスは右手から電気を放出する。


 蛍光色のレーザーが斜めに重なっているのが見えた。

それを確認するとすぐに、レーザーの死角を潜り抜ける。

そして再び放電する。

その繰り返しだ。


「ちょっとさ、早くない? 武器はないし、ここは慎重に行かないと」


 しつこく文句を言ってくるが、モルディオはちゃんとついて来ている。


「明かりがついてるあの扉に向かってるんだよね? 敵が来たらどうするつもり」

「強行突破だ。それしかない」

「武器がないと勝てないよ」


 キングに捕まったこともあって、モルディオは自分への自信を失っているように見える。

それでも自信を失っているのはセヴィスも同じだった。


「武器がないなら素手で勝つしかないだろ。それとも、お前だけ逃げるのか? 俺だって、武器がないとただの喧嘩ぐらいしかできない。自分で言うのも変だと思うけどな、俺はどうしようもない馬鹿だ」

「……え?」

「俺は事件のことを知らなかった。この時点で無能なんだ。俺に頼るのは間違ってる。頭はどう考えてもお前の方が上なんだ。もっと考えろ」

「……君がいなかったら、僕は脱走してもキングに殺されてた」


 モルディオが珍しいことを言い出した。


「やめてくれ、いつも偉そうなお前の自信までなくなったら、今までお前に協力してきた意味がなくなるだろ」


 二人は、嫌いな相手を頼りにしないといけない自分に腹を立てていた。

同時に、互いを信頼しつつあった。


「とにかく、悪魔が来たらお前も戦え」


 扉を前に、セヴィスは立ち止まる。


「分かってるよ。……こんなことで取り乱すなんて、僕は情けないね」

 と言って、モルディオは先に扉に手を触れる。


 そして鍵が掛かっていることを確かめる。


「どけ」

「鍵を壊す気? どうやって」


 扉からモルディオが離れると、セヴィスはドアノブを捻ったまま思い切り扉を蹴る。

鈍い音がして、扉が開いた。


「……」


 モルディオは口を開けて唖然としている。

それを気に留めず、セヴィスは部屋に入る。


「誰?」


 女の声がした。

すぐにモルディオも部屋に入る。


 中には一つの机と椅子、大きな本棚、ベッドとその上に黒いドレスを着た女がいた。

机の上には籠に入った果物と果物ナイフが置いてある。

部屋の造りは先程監禁された部屋と同じだが、絨毯がひいてあるだけで随分雰囲気が違う。


「誰って、君知らないの?」


 モルディオは首を傾げる。

確かに変だ。

モルディオ自身も世界的な有名人だが、それどころかほとんど常識であるクレアラッツのS級を知らないのだ。


「知るわけないだろ。あたしが知ってるのはこの教会の人間と」


 女の表情が暗くなる。


「セヴィス=ラスケティアだけだ」

「……?」


 モルディオは二、三回瞬きをした。

セヴィスもまた、眉をひそめた。


「でさ、勝手に人の部屋に入っておいて名乗らないって、失礼だと思うけど」


 女の視線上に、セヴィスが映っていないわけがない。

それを考えているのはモルディオも同じだったらしく、


「君、もしかして盲目? 僕たちが来たこと、足音で聞き分けてるんじゃ……」

 と尋ねた。


「何? 外の男って、初対面の女に勝手に盲目とか決め付けるんだ」

「外の男って、変な言い方だね」


 モルディオは女に冷笑する。


「あたしはこの教会に監禁されてるんだ。だから教会の人間しか顔は知らない。セヴィスだって、名前しか知らない」

 と、女は言った。

それを聞いたモルディオは、すぐにセヴィスを指差した。


「君にも聞きたいことがあるし、教えるよ。僕はA級祓魔師のモルディオ=アスカ。で、この紫髪のデカブツがS級のセヴィスだ」

「っ!」


 女は目を見開いた。

そしてすぐにベッドから降りると、机の上の果物ナイフを手に取った。

と思ったら、

「うっ……」

 何が起こったのか、女は頭を押さえて倒れこんだ。


「やめろ、ロザリア!」

「ロザリアって、総攻撃の? どうして君が?」


 どうしてロザリアが出てくるのだろう、と考える暇はない。


 女は抑え込むと殺意がむき出した表情で、唐突に果物ナイフを投げてきた。

女が投げたナイフは、セヴィスが投げたものと比べると半分程の速さだった。

あまりの遅さに驚いた。

一般の女性の力ではこんなものだろうとは思ったが、まさか素手で取れるとは思わなかった。


「うそ」


 女はナイフが取られたことに驚愕して、地面に膝から崩れ落ちた。


「俺に何の恨みがあるのかは知らないけどな、そもそも俺とこいつで勝負しようってことが間違ってる」


 セヴィスは手で果物ナイフを弄びながら言う。


「この子、多分セヴィスの戦法を知らないんだと思うよ」


 呆れた様子で、モルディオが肩をすくめる。

しばらくして、俯いていた女は顔だけをゆっくり上げた。


「殺せ」


 低く、どす黒い声で女は言った。

その瞬間、場の空気が一変した。


「殺せって言ってるだろ!」

「あのさ、冗談も程々にしてくれない?」


 呆れが苛つきに変わったらしく、モルディオの声色も変わった。


 確かに、意味が分からない。

顔も知らなかったのに、自分に恨みを持っている。


 セヴィスは女の付近に凶器がないことを確かめると、女に近づく。


「俺は脱出する為の情報が欲しいだけだ。アンタを殺すつもりはない」


 言葉を紡ぐだけで、女の美しく整った顔は歪んでいく。


「ふざけんな、あんたさえいなくなれば、あたしは自由になれたかもしれないのに」

「かもしれない、だろ。俺を殺したところで、アンタは自由になれないかもしれない。それに、俺の顔を知らなかった時点で、自由になれなかったと思うけどな」

「あたしが死ねば、クロエの計画はおじゃんだ。あたしもこの兵器みたいなつまらない人生から解放される。だから殺せ」


 セヴィスはモルディオと顔を見合わせる。

そして、彼女がシェイムの友人で重要な人間であることを自然に理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ