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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
五章 狂会の司祭
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35 行動選択の責任

 モルディオが先に教会の扉を開けた。

この部屋は礼拝堂だろう。

広い楕円型の天井があって、奥にはたくさんの椅子と女神像が見える。

地面はガラス張りで、鏡の様に下から自分たちを映している。


 シェイムが突破したからか、たくさんの悪魔が傷を負って倒れている。

しかし、鉄や腐肉の臭いはしない。


「こいつら、死んでないよ」

 と、モルディオは一目見ただけで言った。


「こいつらの口の辺りを見て。ガラスが曇ってる。まだ息があるんだ」


 モルディオが指差す方向を見ると、確かに男の口の辺りが一定間隔で曇っている。

他も同様だ。


「シェイムはこいつらを殺さなかったらしいな。殺して行くか?」

「そうらしいね。でもここは無視して行こう。僕たちの目的は、シェイムの友人から真実を聞き出すことだよ」


 そう言って、モルディオは男たちの身体を飛び越える。

セヴィスは男たちを足蹴にしようか一瞬迷った。


「やめなよ。そいつらが悪魔だっていう情報をくれたのは館長だ。もしかしたら人間かもしれないよ」

 とモルディオが言った時にはもう、身体の山を越えていた。


「普通の人間なら、俺たちの邪魔はしないだろ。俺の勝手な思い込みかもしれないけどな」

「もういいよ」


 女神像の両側には二つの道がある。

セヴィスは何も考えず直感で左の様な気がした。


「ここで左側に行くなんて馬鹿なことは言わないよね。血痕は右側の廊下に続いてるよ」


 このモルディオの一言で一気に直感への自信が消え失せた。


「分かってる」

「何怒ってるの? 館長やシェイムにイラつくのは同じだけど、こういう時こそ冷静にならないと」

「別に怒ってない」

「怒ってるじゃん」


 確かにクロエとシェイムには腹が立っている。

だがモルディオも話していて、十分腹の立つ人間だ。


「どうでもいいだろ、そんなこと」

「そうだね。『どうでもいい』ことだったね」


 モルディオはわざとらしく『どうでもいい』を強調して言った。

もう返事を返すのを止めよう、とセヴィスは思った。


 血痕を辿って行くと、たくさんの扉が横に並んでいたが、モルディオは全て無視した。

シェイムが入っていない扉を開けても無駄だと思ったのだろう。


 奥にホールのような部屋が見える。

やっとこの廊下から抜け出せる。


 そう思った時、

「待って」

 突然モルディオが立ち止まった。


 目の前には円型のホールが広がっている。

そして、その側面に巻きつく螺旋階段がある。


「さっきから声が聞こえる。侵入したことに気づかれたかも」

「どうするんだ」


 どうせ何か提案しても、モルディオは却下するだろう。

そう思ったセヴィスは行動選択という責任をモルディオに押し付けた。


「僕があの円の中心で未来を読むよ。あそこなら階段の上まで見渡せるしね。未来が見えるまで時間が掛かるから、その間悪魔が来たら倒してくれる」

「分かった」


 モルディオの言うことを聞くのはあまり気が進まないが、下手な行動をして嫌味を言われたくない。

それどころか死んでしまうのは、嫌味より勘弁だ。


「今日は妙に素直だね」


 モルディオがホールの円の中心に移動する。

そして剣を鞘に収め、こめかみを両手で押さえて目を閉じる。

この体勢が一番集中できるのだろうか。


 セヴィスは赤ナイフを両手に四本ずつ持って、上を見上げる。

天辺の辺りに、黒い影が十程見えた。


「誰だ?」


 微かに声が聞こえた。

モルディオは集中していて聞こえないらしい。

これならあの悪魔三体に気絶させられた理由も納得だ。


「……来るか」


 十メートル程上から、黒い影が階段の手すりを乗り越えようとしている。

セヴィスはすぐに両手でワイヤーを回す。


「侵入者だ! 捕らえろ!」


 声と共に降り注いで来る黒い影。

頭上に向けて右手で四本のナイフを投げると、二体に刺さった。


 八体が着地する。

残りの二体は地面に激しく打ちつけられて気絶した。


 集団を相手するのは、あまり得意ではない。

こういう場面では普通セヴィスやモルディオではなくチェルシーなのだが、今この場にチェルシーはいない。


「今のナイフ……まさか、セヴィス=ラスケティアか」


 リーダー格と思われる男が言った。黒い服を着た八人の男は、全員剣を持っている。

そのうち五人の剣は震えている。

セヴィスが思っている以上に、S級という称号には効果があるらしい。


「お前だけは通すわけにいかん! ミルフィの」

「馬鹿っそれを言うな! 相手に知られるぞ!」

「だからこの際言って捕らえた方がいいだろ!」


 男たちはもめ始めた。

ミルフィとは誰だろう。

初めて聞いた名前だ。


「余程俺に知られたくないことがあるんだな」


 セヴィスは何の抵抗もなしにナイフを投げる。


「ひっ!」


 男たちは間の抜けた悲鳴をあげてナイフを避ける。

それでも避けるのがやっとというのが明らかだ。


「正直に吐くつもりはないんだろ? だったら死んでもらおうか」

「セヴィス! 攻撃を止めて!」

 と、突然モルディオが叫んだ。

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