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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
五章 狂会の司祭
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34 悪魔と真の祓魔師

 クレアラッツの明け方は、ラムツェルよりも美しいものではない。

一晩中電気が点いているので、夜中も明るいからだ。


 そんな時間にシンクは一人起きて、十カラット程の『宝石』を食べていた。

『宝石』店ではエメラルドと呼ばれている緑の『宝石』は、あまり美味しくない。

刺激的な赤と違って、進んで食べたいと思わない味。

まるで野菜だ。


 シンクが『宝石』を食べる時間は決まっている。

早朝から始まる市場で食材を買い足しに行く前だ。


「誰だよ」


 『宝石』を食べ終わった後、シンクは突然壁に身体を向けたまま言葉を発した。

後ろで扉が開く音がした。


「この悪魔、祓ってやる」


 聞き覚えのある声と共に放たれる殺気。

後ろを振り返ると同時に、銀の拳が頬を掠めた。

シンクは収縮された武器を手に取って、壁を背に相手に身体を向ける。


「あれ……?」


 最初は悪魔かと思ったが、違う。

目の前には、ハミルが立っていた。

しかし、いつもとはまるで様子が違う。


「おれの拳を避けた時から、怪しいと思ってたんだ」


 シンクは違和感を覚えた。

このハミルの言い草では、シンクが悪魔であることを今確信した様子だ。

だが、ハミルの足音がしたのはシンクが『宝石』を食べた後だ。


 それに、このハミルの目は金色だ。

セヴィスと話していた時の彼の目は、こんな色ではなかったはずだ。


「おいおい、寝ぼけてんのか?」

 と、シンクは嘲笑する。


 ハミルの表情は氷の様に固まっている。


「お前は悪魔だ。おれが倒す。勝負しろ」


 この目は本気だ。

とても冗談に見えない。


 しかし、相手がハミルではシンクにとって面白くない。

彼はセヴィスの幼馴染である為、殺せないのだ。

もし殺したら、簡単に『宝石』を手に入れることができる存在であるセヴィスに見放される。

つまり餓えて死ぬ。


「何で俺がお前と勝負しないといけねえんだよ」

「悪魔だからだ」


 シンクは首を傾げる。

セヴィスにクロエのルキアビッツ抹消作戦の話は聞いたが、彼はハミルのことを一言も話さなかった。

考えられるのは二つだ。


 セヴィスが裏切ったか、ハミルがセヴィスの知らないところで何かをしたか、だ。

直感で、後者だとシンクは思った。

おそらくセヴィスは、このことを一切知らない。


 普通の人間なら、何らかの手段を使ってセヴィスか美術館に連絡しただろう。

だがシンクは違う。

彼は、ハミルを試すことにした。

殺さない程度に傷みつければ、事実を吐くだろう。

まるで拷問のようだが、誰かをいたぶって喜ぶといういかれた頭には、これしか方法が思いつかなかったのだ。


「分かった。てめえがいつもトレーニングしてる河川敷。そこがてめえの墓場だ」

「……何でそこなんだよ」


 ハミルは眉を眉間に寄せて言った。


「不満だろ? 当たり前だよなぁ。あの場所はてめえとセビが初めて会った場所だもんな」

「何でそれをお前が知ってるんだよ!」

 と、ハミルは大声をあげた。


「つまり、だ。てめえが俺やセビに何か隠してるのと同じ様に、俺も何か隠してるってことだ。俺は無条件で教えてやる程お人よしじゃねえ。知りたきゃ、俺に勝ってみな。それに俺もてめえに聞きたいことがある」


 ハミルは一度息を呑んで俯く。

こいつは悪に向いてないな、とシンクは思った。


 しばらくして、ハミルは顔を上げた。

そして金色の瞳でシンクを見据える。


「ちょっと強がってみたら、みんながそう言うよ。本当に、みんな嘘つきなんだな。セヴィスも、クロエさんも、店長も」


 ハミルはひどく落胆した様子で言った。

足元を見つめる目の色が元に戻った様に見えたが、錯覚だろう。


「そうだな。でもよ、そう言うてめえはどうなんだ?」

「おれは、もう誰も信じられない」


 この部屋に来た時は誰かに操られているのかと思っていた。

それでもこのハミルの言葉は本音の様に聞こえた。


「おれ、変なのかな」


 先程の形相と比べると、この発言は弱気だ。

どちらかというと、こちらが本来のハミルだ。

彼の身に何が起こっているのだろう、とシンクは疑問に思った。


「何が変なんだ? てめえが変になったのは、少なくとも俺と話した後だな」

「……あの後、どうすればいいのか分からなくなって、館長のところに行ったんだ。その後館長が部屋を出て行って……その後から記憶がないんだ。館長室でセヴィスに会ったのは覚えてるけど、セヴィスがどこから来たのか覚えてないし、セヴィスに会ってからも記憶が飛んでるんだ」


 この証言で、シンクはセヴィスが香水を使ったことに気づいた。

しかし、ハミルの記憶を消す必要がどこにあったのだろうか。


 考えられるのは二つ。

ハミルに何かを目撃されたか、ハミルのやろうとしていることがセヴィスにとって都合が悪いのか。

シンクには分からなかった。


「もう、誰が味方なのかも分からないんだ」

「で、勝負すんのか? しねえのか?」


 面倒くさくなったシンクは、頭を掻きながら言った。


「……する。おれは、嘘つきたちの嘘と目的を暴くんだ!」

 と言って、ハミルは両手の拳を握り締めた。


「分かった。てめえの墓場は河川敷の橋の下だ」

「一目につかないから……?」

「それもあるけどな、あそこはルキアビッツの入り口だ」


 ハミルは息を呑んだ。

探していたものが身近なところにあったことに、驚きを隠しきれない様子だ。


「今ルキアビッツに行けば、てめえの言う嘘つきどもの、ほとんどの嘘が暴かれる。だから真実を知りた

いなら、まず俺に勝ってみろ」

「嘘じゃない、よな」

「この勝負を受けるなら、一つ提案がある。俺が地面に背中をつける度に、俺は一つてめえの質問に答えてやる。だからてめえが背中をつけたら、俺の質問に答えろってやつだ」

「受ける。おれは、その為にここに来たんだ」


 シンクはハミルのことを完全になめていた。

負ける気がしなかった。

それどころか、武器を使わなくても勝てると思っていた。


 こいつは所詮B級。

悪魔とは級の基準が違うものの、セビの下の下だ。

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