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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
四章 栄辱の捕飾
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27 かつての友人

「そんなとこから入ってきたってことは、悪魔討伐じゃないよな。ったく、窓から侵入とか泥棒かよ。こりゃ、フレグランスだって疑われるわけだ」


 ハミルの予想外の言葉にセヴィスは驚く。

だがここで焦って否定したら余計怪しまれる。


「何言ってるんだ」

 と、セヴィスは表情を変えずに言う。


「冗談だって。おれはお前みたいな奴にフレグランスができるなんて、微塵も思ってねえし。お前とフレグランスの共通点は体術だけだろ」


 そう思っているならしばらくは安泰だ。

セヴィスは心の中で安堵した。

だが、警戒はまだ解いていない。


 ハミルの手には武器がある。

それはいつも使っているグローブではなく、鋭い棘が付いたナックルに変わっていた。

それに比べてセヴィスは戦闘訓練で青ナイフのワイヤーを切ってしまったので、総攻撃前と同じ赤ナイフを片手に四本ずつという状態だ。

しかも今手に持っているのはガラスを割った時の一本だけで、それ以外は腰のナイフケースに入ったままだ。

試作品だった青ナイフを壊してしまったので、ウィンズは新しい武器を作り直している。

つまりセヴィスは普段より弱いのだが、ハミルも戦闘訓練で怪我をしたはずだ。

最もそれはセヴィスが負わせた怪我なのだが、それでもハミルはいつもより強く見える。


 武器を見ただけでこんなことを考えてしまっているのは、ハミルが友人とは思えない程の殺気を放っているからだ。

ハミルがどう思っているのかは知らないが、少なくともセヴィスにはそう思えた。


「ハミル、その格好はどうした」

 と、セヴィスは尋ねる。

最初はナイフを突きつけようかと思ったが、ハミルが武器を装着している以上迂闊に近づくことはできない。

この場所は狭すぎて、セヴィスにとってはどうしても不利だ。


「決まってんだろ、戦いに行くんだよ」


 ハミルは両手のナックルをぶつけて、鈍い金属音を鳴らした。

戦闘前に両手をぶつけるのは彼の癖だ。


「誰と戦うんだ」

「おれの邪魔をする全員とな」


 ナックルが天井の明かりを反射して、ハミルの目に光が差し込む。

先程まではハミルが柱の影になる場所にいた為気づかなかったが、その目はいつも以上に透き通っていた。

その目を見た時、ハミルがハミルではない別人に見えた。


 セヴィスはすぐに気づいた。

目の色が違う。


 セヴィスの知るハミルの目は、明るい茶色だ。

だが、今のハミルの目は金色だった。


「どんな相手かは知らないけどな、止めた方がいい」

 と言いながら、セヴィスは目を擦る。

そしてもう一度ハミルを見てみるが、目の色は変わらない。


「何でだよ」


 ハミルは右手で左の腕を握って、獲物を捕らえた肉食獣の様にセヴィスを睨みつける。


「俺のせいで、怪我しただろ」

「っ」


 ハミルの方から、歯軋りの音が聞こえた。

この部屋に漂う冷たい静寂の中で、ハミルだけが熱く熱を帯びた。


「なあ、セヴィス」


 目を細めたまま、ハミルはいつもの口調で両手を広げる。

それが何を考えているのか、さっぱり分からなくさせた。


「お前も入ってるんだぜ?」

「何に」

「おれの邪魔をする全員の中にさ」


 再び息を呑みそうになって、堪える。

ここで動じたら、それでこそハミルの思うつぼだ。


「言っとくけどな、おれは最初からお為ごかしをしてきたわけじゃねえんだ。お前が今まで色々隠してたからだろ。スラム街にいたこともな」

「何でお前がそれを知ってるんだ」

「お前が変わったように、おれも変わった。ただそれだけのことだぜ」

「何が変わったんだ? 目の色か?」

「はっそれだけしか気づけねえのか! これじゃ、次のS級はクロエさんで決定だな」


 今のハミルの言葉に、セヴィスは違和感を感じた。

昔からハミルはクロエのことを『クロエ館長』と呼んでいた。

この場面で変える必要がどこにあったのだろう。


「人間の目の色が変わるなんて、俺は聞いたことがない。何をしたんだ。教えろ」

「お前がそれを知ってどうすんだ?」

「質問を質問で返すな」

「やなこった。おれは敵に教えてやる程お人よしじゃねえ」


 ハミルは元々こんな人間だったのだろうか。

違う。

頭に過ぎった疑問を、セヴィスは無理矢理消した。


 俺を敵だと思っていたなら、俺を殺す機会はいくらでもあった。

ハミルが俺を敵だと思い始めたのは昨日だ。

俺がハミルを殴ったからだ。


「お前ってさ、ほんと自己中だよな。おれの行動に何の得もなかったら無視、都合が良ければ一人ででしゃばって、自分に都合が悪ければおれに文句か」


 自分が悪いと思っているのに、ハミルに謝る気がしない。

それはハミルの言葉にも問題があったからだ。

そしてセヴィスは今もそれを許していない。


 できれば戦いたくない。

そんな理由で、セヴィスは慣れない説得を試みていた。

ハミルの何に説得すればいいのかは分からない。

だがハミルは間違った道を進んでいる。

それだけは阻止しないといけない。


「アンタは何に怒ってるんだ」

「はははっ!」


 ハミルは突然腹を抱えて笑い出した。

それはシンクの昔の笑い声と同じ、嘲笑そのものだった。

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