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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
四章 栄辱の捕飾
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26 予想の内と外

「どうする? 誰か一人、行ってみる?」

「俺が行く」

「……確かに、この場所からじゃセヴィスしか行けないか」


 セヴィスは屋上のフェンスに向けてナイフを投げる。

ナイフは館長室の斜め上にあるフェンスに引っかかった。


「相変わらず、これだけは上手いよね」

 と、モルディオが呆れた表情で言う。


褒め言葉には聞こえないが、モルディオにしては珍しい一言だった。


「館長にばれたら承知しないよ」

「分かってる」


 ブレスレットを引っ張ると、ワイヤーが月明かりを反射した。

伸ばしてから三秒後にワイヤーは収縮する、とウィンズが言っていた。


「気をつけてくださいね」

「ああ」


 シェイムに返事を返すと、セヴィスは展望台から飛び降りる。

斜め下にある屋上まではかなりの落差がある。

空気抵抗のせいか、逃げる時と同じ、髪と制服を後ろから引っ張られている様な感じがした。


ヘリポートに着地すると、改めてこの時計塔の高さを実感した。

耳が痛い。

眠くはないが、欠伸をすると治まった。



モルディオは目を細めながら館長室を見る。

モルディオの視力では明かりが点いていることぐらいしか分からない。


「シェイム、望遠鏡貸して」

「どうぞ」

 と言ってシェイムはモルディオに望遠鏡を手渡す。


「それ外してくれない」


 モルディオは望遠鏡を引っ張る。

するとシェイムの腕が引っ張られた。

シェイムの腕には落下防止ストラップが巻きついたままだった。


「あ、はい」


 シェイムがすぐにストラップを外す。

すると、その反動で望遠鏡がモルディオの手から滑り落ちた。


『あっ』


 二人が同時に声をあげた。

その数秒後下からがしゃん、という音が聞こえた。


「ちょっと、今ので館長にばれたらどうするつもり?」


 自分のせいにしたくないモルディオはシェイムに苦言する。


「すみません……」


 シェイムは俯いて謝る。


「全く。下に人がいなかったから良かったけど、いたら確実に死ぬか館長に密告だよ。それに、これじゃセヴィスが何やらかすか分からないし」

「あの、セヴィスさんなら大丈夫だと思います」

「……」

「多分」


 付け足された一言に、モルディオはため息をついた。


***


 美術館は大きなレンガ造りである。

その為、セヴィス一人が着地したところで一階下にいるクロエには何も聞こえない。


 ナイフをそっと外すと、フェンスを乗り越えて館長室の窓の下にある凹凸に足をかける。

この場所は館長室からちょうど死角にあり、盗み聞きをするには都合のいい場所だ。

見つけたのはつい先程のことだ。


「そろそろ時間だ」


 窓の僅かな隙間から、クロエの声が聞こえる。


「私は準備をしてくる」


 しまった、とセヴィスは思った。

クロエの話は終わってしまった。

自分が男の存在に気づく前から、男はいた。

今来たのではなく、見えていなかっただけらしい。

クロエの話を聞きにきたのに、意味がない。


 しかし、クロエの仲間が一人で部屋に残された。

ならばクロエがいなくなったら部屋に突入する。

もし悪魔だったら殺す。

祓魔師だったら脅迫してでも話を聞く。

館長室の窓は鍵が掛かっているが、鍵の掛かった窓を開けるのは、セヴィスにとっては容易いことだ。


 セヴィスは今クロエの言葉、『貴様が泥棒だからだ』の意味を理解した。

それは、セヴィスを戦闘訓練に行かせて盗み聞きをされない為にあったのだ。

どうやら、シェイムの言っていた様にクロエが喧嘩という予想外の事態に驚いたのは事実らしい。

今こうしてセヴィスの盗み聞きを許していることにはまだ疑問が残るが、クロエもそこまで気の利く人間ではない。


 クロエは自分たちの行動に気づいていない。

つまり、自分たちはクロエに先手を打った。

そうだと良いのだが、物事はそう簡単に進むものだろうか。


 モルディオは表には出していないが、シェイムのことを疑っている。

自分も、シェイムのことを完全に信じたわけではない。

ここでもしシェイムが裏切り者だった場合、今やっていることも全て水の泡となる。


 扉が開いた音がした。

館長室の扉は開閉音が大きいのでよく聞こえた。


 その扉が閉まってから十秒後、セヴィスは窓の鍵に向けてナイフを差し込む。

嫌な音がした。

ほとんど力任せに腕を捻ると、鍵は開いた。


 相手が音に気づいて振り返るまでの刹那の間に、セヴィスは窓を開けて館長室に入る。

相手が振り返る。

その顔を見て、二人が同時に息を呑んだ。


「セヴィス、何でお前が」


 セヴィスは一度自分の目と耳を疑った。

だが今の声はハミル以外の何でもない。

そして、自分の目の前にはハミルが立っている。


「こんな時間にどうしたんだよ。制服着てるってことは、悪魔討伐か」


 ハミルはセヴィスから目を逸らして言った。

いつもの親しげな声ではなく、悪魔に対して使う様な低い声色だった。

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