23 まだ残る蟠り
「じゃあ司書をどかしたのは?」
「嘘です。会話を聞かれたら困るので」
シェイムは今まで平然と嘘をついていた。
そしてそれはあのクロエを簡単に騙し抜く程だった。
セヴィスは、彼女は決して嘘が下手ではなかったのだと気づいた。
「ならクロエはどこに行ったんだ?」
「分かりません。ですが、モルディオ先輩は授業をさぼることは絶対にしないそうなので、警戒の対象に入っていませんでした。だからモルディオ先輩ではないと思います」
「それにしても、甘くないか?」
「館長は、私がルキアビッツの場所と合言葉を知っていることを知らないんです。だから、油断していたのでは?」
クロエが油断する。
信じられないことだが、これでシェイムの言ったことと行動は辻褄が合った。
もしこれが嘘だったらということも考えて、セヴィスは尋ねる。
「話が逸れてる。もう一回聞くけどな、どうしてここに来れたんだ。その理由次第で、俺はアンタを信じるか、殺す」
「……以前、来たことがあるんです」
こんな女、この街にはいなかった。
そもそも、セヴィスより年下の子供すらいなかった。
嘘かと思ったが、まだシェイムの話は終わっていないので、続きを聞くことにした。
「でも……思い出したくないです」
「何かあったのか?」
「……とにかく、明日は時間との勝負なんです。友達の周囲にいる悪魔を素早く倒して、すぐにルキアビッツに向かわないといけません」
シェイムは話題を逸らした。
思い出したくないということは、過去に何かあったのだろうか。
だが、クロエが明日作戦を開始するのだから、シェイムの過去を疑っている場合ではない。
この状況では、セヴィスもシェイムの言うことを信じるしかなかった。
「館長が私に時間稼ぎを任せたということは、準備に時間がかかるはずなんです。さらに、館長は車でラムツェルまで案内すると言っていました。悪魔を短い時間で片づけて、友達を助ければ、館長がルキアビッツに着くまでに追いつけます。
……あの、やはり無理でしょうか?」
「分かった」
セヴィスの返事を聞いたシェイムは驚いて顔を上げる。
「そいつを助けるのに、何分使えるんだ」
「分かりません。館長の車でどれくらいかかるかによって変わります」
「……俺はクロエの計画を阻止する。だから今はアンタを信じる。今だけな」
シェイムの口が、笑みに歪んだ。
今思えば、彼女が笑ったところを初めて見たような気がする。
「友達を助けるのを手伝ってくれて、ありがとうございます」
と言って、シェイムは頭を下げる。
彼女の頭にある、不気味な赤いリボンが肩から落ちて一瞬だけ地面に付いた。
「俺は手伝うんじゃない。クロエを阻止したいだけだ。もし俺を騙していたのなら、殺すからな」
「分かっています。でも阻止するだけなら」
自分は嘘をついていないと思っているのか、シェイムは迷わず言った。
逆にセヴィスにはシェイムを殺す気など端からなかった。
これはあくまでも強迫だ。
「では、私の提案は成立ということでいいですね。私はもう少しここに残って、足止めできる方法を考えてみます。折角クレアラッツに来たので、憧れだったセヴィスさんの役に立ちたいんです」
「何でアンタは俺なんかに憧れたんだ。世間的にはクロエとかじゃないのか」
こうなった今では、クロエに憧れを抱く人間を変だとは思う。
それでも、ハミルの様にクロエに憧れてエルクロス学園にやって来た人間はたくさんいる。
クロエは表向きでは完璧な祓魔師であり、最高指導者だ。
そう思うと、自分に憧れを抱く人間の方が変だ。
セヴィスにはこれと言った地位もなく、情報を頼りに悪魔を殺しているだけだ。
祓魔師は主に剣や銃を扱う。
だがセヴィスは一人ナイフを投げ、鞭の様に使っている。
戦法の面でも手本にならない。
つまり、先程の母親が言った『最も悪い例』なのだ。
「あの、それ、セヴィスさんの前で言わないといけないんですか?」
シェイムは自分の手を喉の前で交差させて言った。
「それはちょっと、恥ずかしいです」
「何が恥ずかしいんだ?」
「……意外と鈍いんですね」
最後にシェイムが小声で言った言葉は聞き取れなかった。




