22 揺れ動く疑心
「この街の抹消を阻止するつもりですか!」
入り口から帰ろうとした時、右側から憎らしい女の声が聞こえた。
まさか、ここにいるはずがない。
この場所にあいつがいるはずがない。
「一ヶ月以内に、この場所に来る。クロエ館長の予想は的中しましたね。この国に来てから毎日ここに来た甲斐がありました」
横目で右側を見る。
目を疑う程の信じられない光景だった。
「シェイム」
そこには制服姿のシェイムが真剣な表情で立っていた。
「やっぱりアンタはクロエの犬だったんだな」
これでシェイムがクレアラッツに来た辻褄が会う。
彼女はクロエの犬だった。
考えるまでもない、とても簡単なことだった。
「違います! 私は館長に言われてここに来たわけじゃないんです!」
シェイムは必死に否定する。
彼女の正体を確信した今、それは惨めでしかなかった。
「じゃあ何でこの街の場所を知ってるんだ。クロエの下僕だからだろ」
「それは」
「アンタは嘘をつくのが下手なんだな。クロエという金魚の糞だから仕方ないか」
ここでシェイムを罵っても仕方ないことなのだが、今日一日あったこと全てにセヴィスは腹を立てていた。
それを全てシェイムにぶつけているようなものだった。
「それとも、アンタがクロエを」
「それは違います!」
シェイムは嗄れた声で叫んで、自分の方に歩いてきた。
「何しに来た。偵察か? 俺を殺しに来たのか?」
シェイムに警戒しながらセヴィスは言った。
シェイムの瞬発力は自分を凌ぐと聞いている。
少しでも隙を作ると危険だ。
「私は、館長の秘密を暴く為に」
「だからその下手な嘘は」
「私は嘘なんか」
「じゃあ早く本当のことを」
「私の目的には、セヴィスさんの協力が必要不可欠なんです!」
言葉の遮り合いは、シェイムの大声で終わった。
「何で俺がアンタの目的に加担しないといけないんだ」
と、セヴィスは言う。
その右腕にはワイヤーの切れた青いナイフが握られている。
「勿論ただでとは言いません。私もセヴィスさんに協力するつもりです。それでいいですか」
「生憎、俺は美術館の連中とは違ってクロエとアンタを敵だと思ってる」
「じゃあ言います。館長がこの街を滅ぼすのは、明日です」
シェイムは至って普通の表情で言った。
「明日って」
「私たちが極秘任務を遂行する日です」
つまり、クロエは自分たちがいない間にこの街を滅ぼすつもりなのだ。
セヴィスはシェイムの言葉を信じようか迷っているうちに、自然とナイフをしまっていた。
「クロエ館長は気づいていました。私以外に館長の秘密を暴こうとしている、館長にとっての敵は二人。セヴィスさんと、モルディオ先輩です」
「モルディオ?」
モルディオといえば、自分を勝手にライバル視し、ウィンズに心酔している自称優等生だ。
学力と戦闘能力の総合成績は学園一位の、一応生徒会長。
偉そうで嫌味ばかり言っているにも関わらず、トーナメント前に気絶したあのモルディオだ。
「はい。モルディオ先輩は、私やセヴィスさんよりも先に気づいていました」
ウィンズなら納得した。
だが、モルディオだとどうも納得できない。
「そして、館長が極秘任務で殺そうとしているのは、私の友達です」
「友達って悪魔か?」
「人間です。これでもまだ、私を疑いますか」
本当のことを言うと、セヴィスはシェイムを疑っている。
しかし、それよりも強くクロエとナインを疑っている。
そのせいか、少しずつシェイムを信じようという気になっていた。
だが、信じたくないという気持ちもある。
シェイムが人間的に嫌いだからだ。
それに、まだ気になることがある。
「この場所はどうやって知った」
と、セヴィスは尋ねる。
「美術館や学園では、私たちの会話は全て筒抜けます。本来は防犯用の盗聴器を、館長は悪用しています。そして、館長は私を仲間だと思っています」
シェイムは見当外れなことを言い出した。
「俺は今そんなことを聞いてるんじゃない」
「ここなら館長に聞こえないので、全部話します。館長は私を利用するためにこの街に呼びました」
今シェイムの言っていることは、真実なのだろうか。
先程から違うことばかり言われたせいで、頭の中が混乱しそうだった。
「友達を人質にされて、私は断ることができませんでした」
「人質にされてるのに、俺に話していいのか?」
「館長は無線で友達を捕らえている悪魔と連絡を取っています。私がその無線を偽物とすり替えました。監禁場所だけあって、それ以外に連絡手段がないと館長が言っていました」
クロエは案外鈍い、とセヴィスは思った。
同時に、何か裏があるのではないかと疑った。
「私は自分の力を悪用されるのは嫌だったので、館長の悪事を暴くと決めました。館長の味方のふりをするのは大変でしたが、おかげでたくさんのことを知ることができました」
本当に彼女のことを信じていいのだろうか。
シェイムの話を聞きながら、セヴィスは迷っていた。
「館長は極秘任務で、お二人に悪魔を全員殺せと命令しましたよね。それは、私に足止めさせる為です。館長は言っていました。セヴィスさんはルキアビッツ抹消作戦に気づくと」
「アンタはそれを俺に話していいのか? もしそうならクロエも甘いな」
「いいえ、館長は工夫していました。一年生の戦闘訓練を利用して、私がセヴィスさんに接触しないようにしていたんです。ただ、追い出されたのは予想外だったらしくて、館長は館長室を離れました。当然その間は、館長は盗聴器を聞くことができません。だから私はその隙をついて、図書室に行きました。防犯カメラで居場所は分かっていたので」
この話が本当なら、ハミルとの喧嘩は利用されたということだ。
歯がゆいような、これでよかったのか、よく分からない気分になった。




