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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
三章 対想の地下
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18 憧れる後輩と疑う先輩

 二年生の午後からの授業に出る気がしないセヴィスは、学園の図書室に来ていた。

ここに来たのは久しぶりだった。

司書を務める祓魔師も、自分が来たことに驚いている。


 ここに来た理由は、グランフェザーのトランプとタロットが気になったからだ。

カードの意味を知れば何かが掴めるかもしれない。


 何故今更そう思い立ったのかは、自分でも分からない。

ハミルとの関係を悪くしてから、することがなかっただけなのかもしれない。


 この図書室に来てから十分が経っている。

だが、本が多すぎて目的のものは見つからない。


 セヴィスはある本棚の前でふと足を止めた。

その本棚には黄色の付箋が貼ってある本が、何冊も並んでいた。


「……?」


 気になって手に取ってみると、その付箋が貼ってある本は全て同じ事件を取り上げた本だった。

最初の一ページを読んだだけで、事件のことに少し詳しくなった。


 その事件は十年以上前のもので、『新生児誘拐事件』と呼ばれていたらしい。

生まれてから一年も経たないうちに、子供が無差別に黒スーツの集団に誘拐されたという。

その子供が今どうしているのかは、未だに分かっていないとのことだ。


 特に興味も沸かなかったセヴィスは、本を元の場所に戻した。


「え、交代?」


 司書の高い声が聞こえた。


「すみません、館長の命令なんです」


 続いて聞こえたのは、シェイムの声だ。


「そんなこと聞いてないわ。あなたは確かヴィーナ・リリーのS級、シェイム=ハーヴェルよね。この仕事が分かるの?」

「仕事内容は聞いています」

「ふーん……」


 セヴィスがカウンターの方を見ると、ちょうど司書が図書室を出て行くところだった。

その後、シェイムが代わりに座る。


「あっ」


 シェイムと目が合った。

今いる候補生は自分だけだったので、無理もない。


「一年生の戦闘訓練、終わったんですか?」

 と言って、シェイムは席を立って歩み寄る。


「追い出された」

 と、セヴィスは適当に答えた。


「追い出されたって……?」

「多分、俺とハミルが喧嘩したからだ」


 シェイムは小さく口を開いて驚いている。


「セヴィスさんとハミル先輩って、私の祖国でも結構有名な二人組でした。だから、ちょっと意外です」


 ハミルは『先輩』呼ばわりか。

どうやら『さん』は自分だけらしい。


「ところで、セヴィスさんはどうしてここに? 勉強ですか?」


 シェイムは喧嘩の理由を聞かない。

理由を気にしてはいるが、自分に気を使っているという感じだ。


「勉強なんかするわけないだろ。調べものだ」

「あ、探すの手伝います。どんな本ですか?」


 ここでタロットカードの話をすれば、シェイムがクロエの犬なのか見抜けるかもしれない。

シェイムの表情が変わる又は変な言動をすれば嘘だ。


 セヴィスはシェイムの表情を見るために、本棚に向けていた身体を彼女に向ける。


「人の運命を変えるタロットカードがある、って言ったら信じるか?」


 シェイムは戸惑うことなく、

「そんなものがあるんですか?」

 と答えた。


 嘘をつくのが上手いのか、本当に知らないのか。

セヴィスは後者のような気がしたが、彼女がクロエに呼び出された悪の可能性もあるので続ける。


「俺がこの前倒したグランフェザーっていう悪魔が持ってたんだ」

「グランフェザー?」


 シェイムは首を傾げる。

やはり、彼女は何も知らないのか。


「で、そのタロットの絵柄によって、その人の運命が変わるらしい。だから絵柄の意味を知ろうと思ったんだ。あと、そのグランフェザーが持ってたトランプも調べないとな」

 と言ってセヴィスは視線を本棚に戻す。


 シェイムの表情と言葉だけで心理状態を推し量ろうと思ったのが、そもそも間違いだった。


「……あの、私に手伝わせてください」


 突然、シェイムは真剣な表情で一歩近づいてきた。


「手伝うって、何を?」

「セヴィスさんの目的を達成する手伝いがしたいです。だから、もっと詳しく聞かせてください。お願いします」


 そう言って、シェイムは小さく頭を下げる。

ここまで来ると、逆に怪しい。


「俺はアンタを完全に信じてるわけじゃない。それに、クロエはこれ以上の情報を国家機密レベルで取り扱ってる。だから美術館の連中はほとんど知らないんだ」

「じゃあどうしてセヴィスさんがそれを知っているんですか?」


 偉そうに言っても、シェイムの頭には血が昇る気配がない。


「グランフェザーに直接会ったから。それだけだ」

「分かりました」


 案外あっさりと信じた。

それが不気味だ。


「私は、セヴィスさんは嘘をつかないと思っています」


 シェイムは自分の心を見透かしたかの様に言った。

最も自分は、シェイムに会う前から嘘をたくさんついているのだが。


「アンタはスパイか裏切り者じゃないのか」


 シェイムは黙りこんで、視線をカウンターの方に向ける。

カウンターのパソコンには、誰もいない館長室が映っている。


「……私は正直、クロエ館長を信頼していません」


 この言葉に、セヴィスは少し驚いた。

彼女のことはずっとクロエに呼び出された犬だと思っていたからだ。

それでも、どこか嘘くさい。


「クロエ館長は今まで二回私をこの国に誘いましたが、簡単に断れた一回目と違って、二回目はほとんど脅迫でした。私は仕方なくここに来た様なものなんです。私は裏切り者じゃありません。信じてください」

「アンタがクロエに言われたことを言わない限り、俺は信じない」

「それは言えません。ですが館長は何かを隠していると、私は確信しています。館長の嘘を暴く為に、私はこの国に来ました」

「それだけじゃ信じられないな」

「セヴィスさんの目的は、館長の嘘を暴くことじゃないんですか?」


 確かにそうだが、どうも認めたくない。

ハミルの件もあったせいか、セヴィスはシェイムにも苛々していた。


「違うんですか?」

「……うっとうしい」


 不満そうなシェイムの横を通り過ぎて、セヴィスは図書室を出る。


 もうタロットとかトランプとかどうでもいい。

こいつがいるだけで不快だ。

さっさと家に帰りたい。

だがその前に香水を買いに行かなければいけない。

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