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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
二章 勇人の激昂
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16 退廃した自信

 ハミルは狭い入り口から出てくる悪魔を拳で攻撃する。

メーターが少し減った。

あのメーターが0になる程の傷みを受ければ、その悪魔は死んだということになる。

だがセヴィスの場所からでは、メーターはうっすらとしか見えない。


 最初ハミルが攻撃している悪魔のメーターが減った頃に、止めを自分が刺すということを考えていたが、ハミルが悪魔と直線上にいるのでそれはできない。

ハミルが相手できるのは多くて三体。

そして残りは必ず自分に流れてくる。

まずその残りを倒してからハミルの邪魔をする。

それが一番妥当だ。


 あんな口を叩いておきながら、邪魔をする。

だが、セヴィスの戦法は精々堂々の真逆の位置にある、卑怯なものだ。


「一体!」


 何人もの一年生が声を上げた。

前では悪魔が一人倒れている。

そして、ハミルが攻撃しなかった四体全てが自分の方に向かってきた。


 四体も来るとは、当てが外れた。

でも相手は全部近距離型だ。

ならば、ウィンズが考案したあの技を使う時がきた。


 その技を使う為、セヴィスはナイフを投げようとする。

だが、何かが自分の腕を止めた。

この違和感は何だろう。

その隙に悪魔の一人が槍を突き出す。


「っ!」


とっさに後ろに飛んで避けると、前から走ってきたハミルがその悪魔の背中を殴る。

衝撃に耐え切れなかった悪魔が地面に倒れる。


「お前それでもS級かよっ!」


 そう言って、ハミルは別の悪魔に攻撃を始める。


「情けねえな! これがクレアラッツのS級か!」


 セヴィスが呆然としているうちに、ハミルは五体の悪魔を倒してしまった。

次の悪魔が起動し始めるまでまだ少し時間がある。


『お前それでもS級かよ!』


 ハミルの言葉が、何度も頭の中で繰り返し響く。

その頭に、ハミルは追い討ちをかける。


「この国のS級ってこんな弱かったのかよ。そうだよな。普通に考えてお前がクレアラッツのS級なんてありえねえよ。お前さ、昔からおれとの喧嘩に勝ったことなかったよな! じゃあ今までのトーナメントは何だったんだ? お前と同じ顔したドッペルゲンガーだったのか?」

「違う」

「お前が否定したって、お前が今おれに負けてるのは事実だ。はっ何でも一人でやろうとするからおれに負けるんだ。自業自得だろ」

「違う!」


 ハミルの後ろで新たな悪魔が起動する。

その五体のうち二体が弓を持ち、三人が拳銃を持っている。

遠距離型の悪魔だ。


 すぐにハミルが前に走って行く。

悪魔たちが一斉攻撃を開始する。

その標的は、無謀に突っ込んでくるハミルではなく自分だった。


 練習用悪魔は、その場にいる人間の中で弱い人間から狙っていく。

先程四体来た時は考えもしなかったが、違和感の原因はここにもあった。


 自分はコンピュータにもハミルより弱いと見なされていたのだ。

B級のハミルよりもS級の自分が弱いという認めたくない現実を、コンピュータにまで突きつけられた。

そのことに、無性に腹が立った。


 四本のナイフをほとんどやけくそになって投げる。

そのうち、一本だけが銃を持つ悪魔に命中した。

それ以外はワイヤーが最大限まで伸びると地面に落ちた。

その後すぐに、外した三本のナイフが戻る。


「あの人でも外すことってあるんだー」


 聞こえてくる一年の黄色い声が、耳障りだった。


「……くそったれ!」


 戻ってきた三本のナイフを、既に捕らえた一人の悪魔に向けて同時に投げる。

ほとんど動けない悪魔に、蜘蛛の足の様な攻撃が襲う。


 他の悪魔の攻撃を、地面に片手をついて軽業の様に避ける。

やっと本調子に戻ってきたのか、ただ自分がやけになっているだけなのか。


 着地すると、悪魔と繋がった赤いナイフのワイヤーをがむしゃらに頭上で振り回す。

これがウィンズ考案の技だ。


 セヴィスを中心に凄まじい勢いで回転する悪魔の身体が、他の三体に直撃した。

倒れる前に、悪魔たちを再び打撃が襲う。

そして倒れた悪魔たちに向けて電撃を帯びた青ナイフをぶつけた。

彼らのメーターはかなり減った。

その後赤いナイフを抜いて、青いナイフを最後の一体に向け投げる。

それを他の三体に向けて振り回す。


 全員のメーターが0になった。

これで勝負は五分五分だ。


 そう思った時、セヴィスは青いナイフから聞こえる変な音に気がついた。

気になって振り回すのを止める。

しかし、それが後に悪い展開に繋がるとは思いもしなかった。


「っ!」


 ブチっ、と鈍い音を立てて、ワイヤーが切れた。

六十キログラム以上ある悪魔を振り回し続けていた為、先端には多大な遠心力が働いていたのだ。

そして、その悪魔の身体は一直線上にいるハミルに向かっていく。


「……ぅっ!」


 あまりの衝撃に、ハミルからはほとんど声が出なかった。

衝突した悪魔の下敷きになって、ハミルが倒れる。


「おまえ……」


 幸い、大きな怪我はしていないようだ。

だが、覚悟はしていた。

今のハミルが自分を許すわけがない、と。


「何だよ今の。お前が考えたんじゃないんだろ? どっちにしても……おれに対する、嫌がらせなんだろ?」


 ハミルの言葉を聞いて、違和感の正体が判明した。

自分は戦法をウィンズの頭に頼っている。

そうだ、自分はいつも一人で戦っているわけではない。

だからいくら恨んでも、ウィンズを殺すことなんかできるわけがなかった。

そして、この技を使うことは、一人で戦っていないことを示したものだったのだ。


「中止よ!」


 ケイトは甲高い声をあげて練習用悪魔の電源を落とす。


「教官、おれはまだ、戦えます!」


 両手両足を地面につけたまま、ハミルが嗄れた声で叫ぶ。

それに対し、ケイトは呆れた表情で首を横に振る。


「セヴィス、ハミルを医務室に連れて行きなさい。あなたたちの戦闘は、『戦闘中に感情に呑まれてしまった』悪い例として使わせてもらうわ」

「おれは大丈夫です! まだ戦えるんです!」

「見苦しいわ。正直、あなたは期待外れだった」


 ケイトの冷たい瞳が、ハミルだけではなく自分の方にも突き刺さった。


「一年生、降りてきなさい! 訓練をするわよ!」


 もう彼女の視界には、自分たちは入っていない。

程なくして、ハミルから嗚咽が聞こえてきた。


「すまなかった。大丈夫か?」

 と言って、セヴィスはハミルの肩を支える。

だが、ハミルはその腕を振り払った。


「ちがう」

「何が違うんだ?」

「おれの友達のセヴィスは、謝らなかった。本気にならなかった。おれを殴らなかった。おれを気にかけなかった。なあ、誰なんだよお前」

「誰って」

「お前がセヴィスなら、何がお前を変えたんだよ。ロザリアちゃんか?」


 地面に涙の粒を残して、ハミルは立ち上がる。


「おれは、今のお前……嫌いだ」


 そう言って、ハミルは先にジムを出て行った。

身体は痛むはずなのに、それすらも感じさせなかった。

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