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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
二章 勇人の激昂
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15 すれ違う思想

「あの時、制御室にいたのがおれじゃなくてモルディオだったらよかったんだ」

「総攻撃の間寝てた雑魚と比べてどうするんだ。もう過ぎたことだろ」

「あーあ、もういいよ。おれはその雑魚より弱かったんだろ」

 と言って、ハミルは投げやりな顔をした。


 セヴィスも慰めるつもりで言ったが、頭の中ではハミルよりモルディオの方が強いと思っている。

逆に、どうしてモルディオがあの三人組ごときに負けたのか不思議に思ったぐらいである。

その為、投げやりなハミルにかける言葉が思いつかなかった。


「そうだよ、おれは所詮称号を持つ候補生たちの片割れだ。最近はシェイムみたいな奴も増えたし、二年生のB級なんか一つもすごくないんだ。今年の一年なんか、一人もいねえじゃねえか。なのによ」


 一年生たちがいるギャラリーから、不穏な雰囲気が立ち込めてきた。

ハミルは今言ってはいけないことを言ってしまった。

セヴィスだけではなく、誰もがそう思っている。


「なのに何でおれは何も言われないんだ? もしおれが今の一年だったら、テレビで特集してもらえたんだろうなぁ」

「お前は、テレビに出る為に祓魔師になったのか?」

「そんなわけねえだろ! でも、誰だって自分を認めてほしいって思うだろ!?」

「認めてもらって何になる? そんなこと、モルディオですら思ってないんじゃないか」

「そうそう、お前やモルディオがいたからおれはただの残念な奴だったわけだ。何も知らねえ一般人にすら残念な奴だって、馬鹿にされるんだ」


 そんな話、今まで一度も聞いたことがない。

ハミルの被害妄想だろうか。

それとも、話さなかったのか。


「それなのに他の国のA級なんて、おれより弱そうな奴ばっかりだ! かと言って海外の美術館に行けるわけでもねえし。クレアラッツって、ほんと不公平だよな」

「……不公平?」


 セヴィスは思わず聞き返す。

今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。


「はっ、こんな不公平な街、もうごめんだぜ。こんな街なんかに生まれなかったら」 

「うるさい黙れ……っ!」


 ハミルの文句に耐えられなくなったセヴィスは、容赦なくハミルの頬を殴った。

あまりの勢いにハミルは尻餅をつく。


 しばらく、ハミルは目を見開いていた。

ハミルから腹いせにセヴィスを殴ったことは今まで何度もあったが、その逆は今まで一度もなかった。

セヴィスが激昂して暴力を振るうなど、後にも先にもほとんどない。


「てめえ……っ!」


 ハミルは濁声を漏らして立ち上がろうとするが、彼の胸倉をセヴィスは掴む。

その様子にもハミルは驚いて言葉を失った。


「クレアラッツは不公平な街じゃない。今言ったことを、ブレイズ鉱山の鉱夫たちにも言ってみろ」

「何だよ。お前だってクレアラッツ出身だろ」

「俺はクレアラッツ出身じゃない」

 と言って、セヴィスは掴んでいた手を離す。


 そして同時に、自分が口を滑らせたことに気づく。


「何だよそれ。そんなこと、一度も聞いたことねえよ!」

「この街に生まれたことを後悔する様な、そんな奴なんか、死んだ方がマシだ。俺は何もしないでお前が一人でやられる様の方が見たくないって言いたかっただけだ。大体、何でそんな話になったんだ」


 セヴィスは話題を戻す。

冷静さを欠いていた。

危うくルキアビッツの名前を口走るところだった。


「やられねえよ! 何でお前はそうやっていつもおれを下に見るんだ!」

「俺はお前を下に見たことなんてない。ただ魔力権も使わない奴なんて、祓魔師じゃなくてただの格闘家だって言ってるんだ」

「……は?」


 ハミルは眉をひそめて立ち上がる。

それは完全に怒りの表情だった。


「ただの格闘家が五十体の悪魔を全員防ぎきれるわけがないだろ。だから」

「うるせえよ!」


 ハミルは拳を握り締めて、罵声を上げた。


 だから、俺も戦う。

そう言いたかっただけなのに。

俺は人を励ますのがつくづく下手だ。

そう痛感した。


「おれがただの格闘家? ああ、そうだよ! でもそれが何だよ。何か文句あんのかよ!」

「文句なんかない。ただ、一人で……」

「一人で戦うな? お前はいっつも一人で戦ってるだろ! 何でも一人でやろうとしてるのはお前の方だろ!」

「喧嘩しないで!」


 二人の間に、ケイトが割り込む。


「あなたたちに本気で戦ってもらわないと、一年生の訓練にならないでしょう!」

「じゃあ本気で戦わせてくださいよ! こいつ相手に!」


 ハミルは大声でケイトに言う。


「一年生はあなたたちの見苦しい喧嘩なんか見たくないわ。協力して悪魔を倒しなさい」

「今の状況で協力なんかできるわけがない」


 見苦しい喧嘩。

確かにウィンズの時は見苦しかった。

だが少なくとも、セヴィスはハミルを嫌ったわけではない。

二人の価値観が違っていて、互いの言動が気に食わなかった。

ただそれだけのことだ。


「じゃあ二人でどっちが多く悪魔を倒せるか勝負すればいいわ。そうすれば真剣な戦いを見られるし、白黒つけられるでしょう」

「分かりました」


 ケイトの提案をあっさり承諾したハミルはステージの方に歩いていく。


「セヴィス、あなたの長所って本当に強さしかないわね。ハミルを怒らせたのはあなたよ。彼のことをもう少し考えたらどうなの?」

「俺はハミルを怒らせる気なんかなかった」

 と、セヴィスは文句を言う。


 悪いのはハミルだ。

そんな大人げのないことが頭を満たしていた。


「あれで励ましのつもりだったの? あなたのやり方っていつも間違っているわね」

「何でアンタがそれを」


 セヴィスは驚くあまり言葉を詰まらせた。

まさか、教官にロザリアと同じことを言われるなんて。


「あら何を驚いているの? ……まあいいわ。あなたがあのラインの前に移動できないハンデを考えれば、この勝負はあなたの負けよ。でも、彼の心理状態はとても戦いに行く祓魔師としては失格よ」

「……」


 セヴィスは黙って言われた場所へ向かう。


 ハミルに負ける。

シンクに会う前はよく喧嘩で負けたが、S級になってから考えたことがなかった。


「近距離の一年はハミルの討伐数を数えなさい! 遠距離の一年は見学だけでいいわ!」

 と言って、ケイトは檻の扉に向かう。


自分の二十メートル程前で、ハミルが武器を装着して構える。


「ハミル」


 セヴィスはハミルに聞こえるように声を上げた。

先程のハミルの罵声と比べたら到底小さい声ではあったが。


 一年生の話し声が聞こえたが、すぐに静まった。


「俺は負けても文句は言わない」


 驚いたのか、ハミルの肩が小さく上に動いた。


 そして顔だけをこちらに向けて、

「お前、やっぱり変わったよ」

 と言った。


 その場が静まっていたので、小さい声でも聞き取れた。


「じゃあ始めるわよ! 一分ごとに五体ずつ出すわ。練習用悪魔のレベルはB級よ。準備はいい?」


 ケイトが扉に手を掛ける。

それを聞いて、セヴィスは口を閉じて四本の赤いナイフと一本の青いナイフを取り出す。


「3、2、1!」


 扉が開いた。

同時にハミルが駆け出す。

セヴィスはハミルより少し遅れてワイヤーを回し始める。


「目標補足。排除開始」


 悪魔たちの目が一斉に光った。

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