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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
二章 勇人の激昂
12/65

12 魔力権の授業

 学園内で、チャイムが鳴った。四時間目が始まる。


「よし、始めるぞ」


 教室に担任の教官ジャック=バーレンが入ってきた。

円形に禿げた頭と黒いジャージを着たこの男は、悪魔防衛の担当教官である。

悪魔防衛の授業は主に戦闘訓練と二年生の二学期から入る魔力権を勉強する。

そのせいか、彼の手にはいつも木刀が握られている。


「起立」


 クラス会長兼生徒会長のモルディオが言う。

本来なら学年で一番強い者が会長を務めるのだが、このクラスだけは違っている。

そして一番後ろの席にいるセヴィスは既に寝る体制に入っている。

彼以外は、全員立っていた。

他の教官は既にそれを諦めているが、ジャックだけは彼を起こすのを諦めていない。


「気をつけ、礼」


 一斉に頭を下げた生徒たちが座る。

ジャックは頭を下げず、木刀を手に教室の奥へ向かう。

毎回のことなので、生徒たちはジャックに目も向けず教科書を開いている。


「おい、セヴィス」


 ジャックは地面に木刀を振り下ろす。

木と木がぶつかった音がして、セヴィスは顔だけを上げる。


「お前は毎回毎回堂々と寝やがって。三限までずっと寝ていたのか。こうやって怒られるのもいい加減恥ずかしいと思わないのか」

「思わない」

「お前のせいで授業の開始時間が遅れる」

「どうでもいい」

「……S級の問題児だなお前は」


 こうして、授業が始まる。

いつものことである。

ジャックの言うことは毎回微妙に変わるが、セヴィスの言うことは毎回同じだ。


「今日は前から言っていた、魔力権の種類と正式名称について勉強するぞ」

 と言って、ジャックはホワイトボードに表を書き始める。


 まず縦の端のマスには上から『火』『水』『風』『雷』『土』『無』と書き、そして上の横のマスには『攻撃系』『防御系』『補助系』と書いた。


「魔力権は七つの属性と、三つの系統に分かれる。この順番にはちゃんと意味があってな。じゃあモルディオ、答えろ」

「祓魔師の魔力権データで世界で最も多い属性順に並んでいます」

 と、モルディオがはっきりと答える。


「そうだ。だがこれは平均であって、地域によっては風属性の祓魔師がたくさんいるところもある。そして、これは悪魔のデータではない。悪魔は族によって属性の偏りが出てくる。これが一年で習った内容だ。知っていて当然のことだがな」


 ジャックは視線だけをセヴィスに向ける。

特に眠気もしなくなったセヴィスは、肘を机に付いて教室の上にある時計を眺めていた。


「ここからが新しい内容だ。魔力権は同じ属性でも、『攻撃系』『防御系』『補助系』と三種類ある。つまり、同じ火の魔力権でも三種類あるということだ。クレアラッツは防御系が多いな。    

 そしてそれらを区別する為に、美術館が公式に正式名称を付けたのだ」


 生徒たちは一生懸命にノートを取っている。

例年一番優秀なはずのS級は、堂々と時計を眺めている。

彼の様な存在がいるのは、例年の授業風景では考えられないことだった。

それだけセヴィスの授業態度は型破りだと噂されたこともある。


「違いを説明しよう。攻撃系は、自分と離れた場所に魔力権を発動できる。防御系は、自分の手から直接魔力権を使うことができる。威力は防御系の方が上だが、攻撃系の方が相手に当てやすい。そして補助系は直接相手に当てることはできないが、自分の攻撃を有利に進めることができる」


 早口で何を言っているのか聞き取れない。

この男、教師に向いてないなとセヴィスは今まで何度も思った。


「まず、火属性から説明しよう。攻撃系の正式名称は『陽炎』。皆も知っていると思うが、美術館長クロエの魔力権だ。映像で見た方が早いな」

 と言って、ジャックは専用の機械を使ってホワイトボードに映像を映し出す。


 映像には、クロエのトーナメントの様子が映っている。

しかも、去年の決勝戦だった。

無論、セヴィスはほとんど映っていなかったが。


「防御系は『フレイム・スピリッツ』」


 別の映像が映し出されて、C級の男が手から炎を出す。

セヴィスはシンクの魔力権だと気づく。

いつの間にか、説明を聞かず映像だけに見入っていた。


「補助系は『鬼火』だが、クレアラッツにはこれを持っている祓魔師はいないな。

 次に、水だ。水の攻撃系は『氷柱』。防御系は『アクア・ブラスター』。これはチェルシーと同じだな。補助系は『治療』だ。持ち主は少ないが、このクラスにはランドがいるぞ」


 映像は魔力権が発動してから五秒程で別の映像に切り替わる。

この教師はこの時間で全ての魔力権を解説するつもりらしい。

しかも名前を挙げるのは、クラスにいる上位の生徒とクロエの様な高い地位の人間だけだ。


「風の攻撃系は『衝撃波』。これは持っている候補生も多いな。防御系は『ウィンディ・ストリーム』。最近有名なシェイムのやつだ。で、補助系は『浮遊』だ」


 シェイムの魔力権というから映像を真面目に見てみたのに、竜巻で何がどうなっているのか分からなかった。

分かったのは、竜巻が起こせるということだけだ。


「雷の攻撃系は『稲妻』。これもクレアラッツに使用者がいないから資料はなし。それで、防御系は」


 ジャックの話に合わせて映像が切り替わる。


すると、

「なにこれ」

 モルディオが失笑した。


他の生徒たちも言葉を失っている。


「えー、『ライトニング・ボルテックス』だ。これを持っているのは……ん? どうした? 皆」

 と言って、ジャックが始めて映像に目を向ける。


 そこに映っていたのは、青白い電気を帯びて渦巻くワイヤーと、それによって無残に飛ばされる候補生だった。


 ジャックもまた、言葉を失う。

斜め前に座るハミルはなぜか黙って俯いている。

セヴィス自身もよく覚えている。

これは、去年の候補生トーナメントの初戦だ。


「先生、これって、トーナメントですよね?」


 別の生徒が尋ねる。


「い、いや、これは、多分違う。じっ実戦の映像だな」


 ジャックは笑いながら誤魔化す。

しかし、ワイヤーの中心にはしっかりと紫の髪が映っている。


「うわ、あの時は砂埃でよく見えなかったけど、セビってこんな惨いことしてたんだ」


 チェルシーが呆れた表情で言う。


 血を流した候補生が立ち上がる。

まだ一回しか背中をついていないらしい。

ジャックは映像が早く切り替わるのを待つが、これだけが妙に長い。


「ぼ、防御系は、属性の特性を利用して、だな、攻撃系を凌ぐ戦法に応用できるのだ。た、例えば、油を撒いて火の防御系を使えば、威力が期待できるし……」


 ジャックは戸惑っている。

そこでジャックが何を言いたいのか分かったらしく、モルディオが机の上で肘をついて指を絡める。


「手にワイヤーを持てば電気を帯びた鞭として使える。教官が言いたいのはセヴィスの戦法に代表されることですよね」

「……とっ、とにかく、防御系という名前がついているが攻撃に使えないわけじゃない!」


 ジャックは焦って防御系の説明をする。

その後、映像は終わった。

スクリーンには黒い画面しか映っていない。


「あれ、もう終わりか。まあ土から下は珍しいからな。じゃあ口で言うぞ。

 土の攻撃系は『地震』。防御系は『グランド・アドプレッシャー』だな、ハミル」

 と言ってジャックはハミルに呆れた表情を向ける。


 ハミルはさらに俯いた。


「ハミルの魔力権初めて知った!」


 ハミルの隣に座る男子が言う。

ハミルはなぜか黙り込んでいた。

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