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INNOCENT STEAL -After HEAVEN-  作者: 豹牙
一章 期待の信星
10/65

10 水と油と氷

「誰が敬うかクソ眼鏡」

 と言って、セヴィスは振り回していたナイフを横向きに投げる。


ワイヤーが大きく弧を描いて、避けられないウィンズの腰に巻きついた。


「貴様、まさか『Blast Of Spider』を僕で試す気か!」

「今日は無性にアンタに苛々する」


 さらに強い力でワイヤーを引っ張る。

ウィンズの顔がさらに怒りに歪む。


「今まで散々銃で撃たれたこと、忘れたなんて言わせないからな」 

「何を今更。あれはゴミ以下の家畜をゴミに昇格させる為の調教だ」

「気持ち悪いことを言うな。反吐が出る」

「その通りだろう! 貴様はゴミ以下だ!」


 電撃を浴びせたいところだが、ウィンズは無効化の魔力権を持つので効かない。

面白くないな、とセヴィスは思った。


「理由ぐらい教えてくれたって」

「そうか、肩の傷跡が疼くか。そうかそうか! さすが馬鹿弟だな! はーはっはっはっ!」

「もういい黙ってろ」


 ワイヤーに両手で握って力を籠めて、腕を大きく回す。


「おい! 止めろっ!」


 ウィンズは叫ぶが、もう遅い。

彼の身体は宙に浮き、そのまま防護壁に当たる。

正しく計算され、絶対に壊れないとウィンズが確信していた防護壁は、セヴィスによって破壊された。

長年の怒りは壁に人型を残して、ウィンズの身体ごと家を突き破った。


「情けないな」


 人型の穴から外に出ると、防護壁のクッションの上に倒れるウィンズの姿があった。

そして僅かな時間に人々が集まってきた。


 家が学園の通学路の途中にあるせいか、候補生たちも集まってきた。


「大丈夫ですか?」


 金髪の生徒がウィンズの肩を揺さぶる。

声と後ろ姿でモルディオだと分かった。

よりによって嫌な奴が来たな、とセヴィスは思う。


「……くそ」


 右側が割れた眼鏡を再び押し上げると、ウィンズは起き上がる。

どうやら、防護壁があったせいか無傷だったらしい。

あの衝撃で無傷だったことがセヴィスにとっては驚きだった。


「ゴキブリ並みの生命力だな……」

 と、セヴィスは呟く。


「うるさいよ、電気ウナギ」


 すぐにモルディオが言い返す。

どうしてウィンズではなくこいつが言い返すのだろう。

そう考えていると、モルディオは何かに気づいてポケットから携帯電話を取り出す。

彼の携帯電話から微かにバイブの音が聞こえた。


「館長か……なんか憂鬱だね」


 モルディオは面倒そうに携帯電話を耳にあてる。

彼の言い草からして電話の相手はクロエだろう。

だが、この騒ぎではモルディオが何を言っているか聞き取れなかった。


「何で僕に伝えるのかな。直接ウナギに伝えればいいじゃん」


 しばらくして、電話を切ったモルディオは本音を口に出した。

その言葉を聞いて、セヴィスは携帯電話を部屋に置いてきたことに気づいた。


「『モルディオか? 今からセヴィスと二人だけで館長室に来い』……だって」

 と、モルディオはクロエの喋り方を真似て言う。


「何で俺とお前なんだ」


 セヴィスは何のためらいもなく舌打ちした。


「僕だって分からないよ。それにしても館長とウナギって最低の組み合わせだね。早く館長が変わればいいのに」

「言われなくても、僕はこの天才的な頭脳で館長になるからな! はーはっはっはっ!」


 突然会話に入ってきたと思ったら、ウィンズは高笑いしながら家に戻っていく。


「うおっ!?」


 途中で瓦礫に躓いたが、見なかったことにした。


「くそ。修理しないといけない。馬鹿弟、帰ったら処刑だぞ」


 最後のウィンズの独り言は、ほとんど頭に残らなかった。


***


 その十五分後、セヴィスはモルディオと共に美術館の五階に来た。

絢爛豪華な廊下をまっすぐ歩いていくと、三メートルを越した巨大な茶色の扉があった。

ここがクロエのいる館長室である。


 モルディオは先に扉に右手を掛けて、左手で扉を二回ノックした。


「誰だ」


 扉の向こうから聞こえたクロエの声に、モルディオは一度ため息をついて言う。


「モルディオ=アスカです。セヴィス=ラスケティアも連れてきました」


 モルディオが言いにくそうにしているということは、名前をフルネームで言うのが館長室に入る礼儀なのだろう。

エルクロス学園に一年半在学しているセヴィスは、今始めてこのルールを知った。


「入れ」

「失礼します」


 モルディオが扉を開ける。

城の応接室の様な部屋の中心にある事務机に、クロエは座っていた。

そして、その隣にはエルクロス学園の制服を着た女がいる。


 女は肩より少し上の短髪で、深い青色の髪の上には赤いリボンが着いている。

そのリボンは清楚な女の印象とは違い汚く、先端に着いている十字架のアクセサリーが不気味さを引き立てていた。

見慣れない顔だが、一年生だろうとセヴィスは思った。


「他でもない、お前たちを呼び出したことには理由がある」


 クロエは真剣な眼差しを二人に向ける。


「何ですか? まさかセヴィスと一緒に悪魔討伐とか……」

「そのまさかだ」

「え」


 冷たいクロエの声を聞いて、モルディオはあからさまに嫌な顔をした。


「美術館の祓魔師じゃ駄目なのか?」

 と、セヴィスは尋ねる。


「駄目だ。お前たちじゃないと出来ないことなのだ。ハミルやチェルシーがいたらおそらくこの任務は完遂できないだろう」

「冗談じゃないですよ。僕とこいつは意見が全然合いません。水と油です」

「だから、お前たちなのだ。意見が割れるから、迷うこともない。最近の美術館の輩は、上からの指示に従っているだけだからすぐに迷う。だが、お前たちはほとんど迷わずに行動する。今回の任務はそれが必要なのだ」


 モルディオは腹を立てているのか、腕を組んでいる。


「あの、私が一人で行きます」


 隣から女が口を挟む。予想よりも高い声だった。


「いや、相手は大勢だ。お前一人だと危険だ。こちらは少人数で済まさないといけない。極秘任務だからな」

「相手は大勢? しかも極秘って」


 モルディオの表情が強張った。

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