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第1章 その1〜その10

 このお話は、私が書いた作品の中の奇想天外系3部作のひとつです。

 あまり深く考えずに、飲み物でも飲みながら気軽にお読み下さい( ̄m ̄o)プ

プロローグ 

 ●第1章 その1:わけわかんないんですけど?


牛来義竜ごらいよしたつ君は昔からスケベでロリコンなので、雪乃ゆきのちゃんは彼にもってこいのお嫁さんだと思います。」

『・・・( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)あのバカ、友人代表にするんじゃなかった。。』


 俺の結婚披露宴での出来事。中学時代からの腐れ縁でもある悪友の前迫が、案の定ひとこと多いコメントを言い放った。

あれほど余計なことは言うなと念を押したのにあの野郎。。

しかも会場が冗談半分にウケてくれたらまだしも、シ〜ンと聞き耳を立てているだけ。寒いにもほどがある。それにスケベは特に余計だ。まるで雪乃もエッチ好きな女だから、もってこいだと言ってるようなもんだ。


 当然のことながら、俺と雪乃は新郎新婦としてステージ席に腰を下ろしたままで注目を浴びている。ふたりとも和装で、俺は羽織袴だ。なかなか普段しない格好で式を迎えるのは気が引き締まる。

それなのに前迫のやつめ。。。


 俺の横から雪乃がコッソリ話しかけてきた。

「ヨシ君、やっぱりロリコンだったんだ?」

「や、やっぱりって何だよ!」

「だってアタシも童顔だし・・」

「関係ねぇよ。お前とは心で結ばれたんじゃねぇか!」

「(/−\)キャ・・恥ずかしい。」


 我ながらこの場でよくこんなこと言えたもんだw 雪乃は言葉ひとつひとつに敏感だからなぁ。

「でもヨシ君、アタシはスケベじゃないからね!それはヨシ君だけだからね!」

『ヘ( ̄ω ̄|||)ヘぎくッ!!やっぱ気にしてたか。。。しかも俺がスケベだと納得してるし。』


 場内に拍手が鳴った。前迫のスピーチが終わったのだった。

あの一文が気になって他のコメントは全く聞いていなかった。(^_^;)

あとで、ビデオチェックしてみないとな。


「以上、友人代表の前迫克己様でした。心温まるスピーチありがとうございます。続きましては・・・」

司会進行役が、心にもない台本通りのセリフを淡々と快調なペースで式を進めてゆく。


 と、そのとき、俺は突然めまいに襲われた。座っていたからなんとかテーブルに手をついて、倒れずに済んだものの、軽い頭痛も伴ってきた。

会場の照明もやけにまぶしい。耳鳴りもする。俺は耐え切れずに目をつぶった。するとなぜか自然にめまいも頭痛も耳鳴りも治まってきた。


『どうやら落ち着いたようだ。疲れが出たかな?でもまだ今夜の予定もぎっしりだしな。ε- (^、^; ふぅ』

そんなことを思いながらそっと目を開けた。


「続きましては、友人代表として前迫克己様のスピーチでございます。どうぞこちらへ。」

「[ ゜皿 ゜]なぬ!?なんで?またかよ?司会者ボケてんのか?しゃべりはうまいのに。」

俺はそう思って進行役に目をやった。

『ん?・・さっきの人と違う。。』

 それだけではない。驚いたことに前迫がそのまま出て来て、マイクの前でスピーチを始めようとしていた。

『なんでだ?あいつもうしゃべったじゃん!?』

それなのに何事もなかったように、会場すらざわめきも起こらず彼に注目している。


 と、次の瞬間、会場をよくよく見渡した俺は、この異様な環境に度肝を抜かれ、固まってしまった。

『招待客が・・変わっている。。会場も違う。。ど、どういうことだ?』

 友人、親戚関係と、職場の上司を入れても百人ほどしかいないはずの招待客が、ヨーロッパ調の宮殿のような大ホールの中に何百人もいるじゃないか!

 この驚愕な事実から多少我に返った俺は、すぐさまとなりの雪乃に話しかけた。

「雪乃、一体どうなってる・・・Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lえ?え?え?」

 俺は再び言葉を失った。

 和装だったはずの新婦が、ウェディングドレスに変わっていたことなど、たいしたことではなかった。

新婦自身が雪乃ではなかったのだ。

「君は・・初夏もとかさんでは・・?」

「え?アタシの化粧、誰かわからないほどケバすぎる?」

「いや、そうじゃなくて・・」

「で、何で『さんづけ』で呼ぶの?ヨッシー。」

「ヨッシーって誰だ?」

「ちょっとぉ、緊張するにも程があるわよ!前迫さんがスピーチしてくれてるじゃない!黙って聞きなさいよ!」

「は・・はい。。」

 何がなんだか混乱しまくりだ。何かの間違いか、あるいはドッキリカメラなのか。。

俺は少し様子を見てるしかなかった。


「友人として、牛来義竜君は・・いえ、今日から養子になられる熊野義竜君は、僕の生涯の親友と言って良いでしょう。彼は元々、年上の女性がタイプなので、初夏もとかさんのような、可憐で上品、そして物腰のあるような人にはメロメロだと思います。奥さんに甘えすぎないように注意して下さいね。」


『あんにゃろぉ〜!さっきは俺をロリ呼ばわりしたくせに!!口の減らないな奴だ。・・・てゆうか・・・俺が養子だって??』

 新婦の親戚関係側と思われる席を見てみると、そこには俺の職場の親会社である取締役、熊野源次郎がいた。

紛れもなく、初夏さんの父親だった。


 俺は一体どうしたらいいんだろう?俺の雪乃はどこに行ったんだ?

そして他の人たち。なんでこうなってるんだ?何が起きた?

会場のみんなにはわからないのか?俺をハメてるだけなのか?

夢なら覚めて欲しいとは正にこのことだ!


 俺は何度も目を閉じては開いての繰り返しを試みたものの、一向に状況は変わらなかった。

 なんでだ・・・確かに初夏さんとの縁談話には正直迷った。

だからってなぜこうなる?最終的に俺は雪乃に決めたんだ!

テレビドラマみたいな運命のいたずらなんて言葉じゃ済まないんだ!


 そう思いながらも、俺はこの披露宴をぶち壊すことなく、おとなしく穏便に様子をうかがった。

 明日には元に戻ってるかもしれないし。。。



   ●その2:冷静に考えてみないと。。


明日という日はなかなか来ない。

時間が早く過ぎればいいと考えるほど、脳内時間の経過は遅いものだ。


 俺と雪乃・・いや、俺と初夏もとかさんの披露宴が無事に終わった。

俺にとっては無事にとはとても言えないのだが、ヘタに騒ぎ出して病院に強制送還でもされたらたまらない。

ここは利口に振舞わないといけないんだ。

 ドアの出口に初夏さんとふたりで立って、笑みを浮かべながら招待客の退場をお辞儀しながら見送る俺。

雪乃とだったら心から笑えただろうに・・・


牛来ごらい君・・いや、新専務。ご結婚と昇進おめでとうございます。」

「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lほ・・本部長!!」

「専務の実力は前々からわかっておりました。これからは専務について行きますので、どうかよろしくお願いします。」

「そ・・そんなかしこまらないで下さい本部長。僕の方がずっと年下の若輩者じゃないですか。」

「め、めっそうもない。序列は会社で1番大事なことです。どうぞこの田川に何なりとご命令を。」

「(^_^;)は、はぁ。。」


 親会社の世渡り上手な52歳の田川本部長。

うちの子会社にたまに来ては、イヤミや小言をしゃべりまくって帰ってゆく嫌われ者。

それが手のひらを返したようにこの態度。少しずつ、今の状況がわかってきた。

俺は親会社の取締役の令嬢、初夏さんと結婚したことになっているために、一気に飛び級昇進したんだ。


 でもこれはあらかじめ予想できた事実。

3年連続で営業成績を前年比150%超に伸ばしたこの俺を、親会社の熊野取締役がとても気に入ってくれて、娘・初夏さんとの見合いを薦められた。

当然、話がまとまってゴールインすることにでもなれば、息子のいない取締役の婿養子として側近になること約束されたようなものだ。

しかし決定的に違うことは、俺はかつてこの見合いを丁重に断っていることだ。

 確かに俺は1ヶ月間、返事を保留し迷いに迷った。でも最終的に決断したのは2年間付き合っていた雪乃と結婚することだった。

だから初夏さんとは実際会ったことがない。取締役から彼女の写真を30枚以上、見せられまくっただけなのだ。


「ねぇヨッシー、これから2次会に顔出すんでしょ?」

「え?・・・今日はとても疲れたから・・キャンセルしようかな。」

「いいの?アタシも疲れてるけど、ヨッシーの友達の2次会よ?」

「あ、そうだったんだ。」

「ヨッシーが行くって決めたんじゃない。何言ってんのよ!」

「そ、そうだったか( ̄ー ̄; ・・悪いけど、早く休みたいからやっぱり断ろう。」

「ヨッシーがそう言うならあたしは構わないけど。」


 俺はすぐに前迫の携帯に連絡を入れた。

「Σ('◇'*エェッ!? 義竜よしたつ来ないのかよ?つまんねぇな。」

「悪いな。これで おあいこだろ。」

「何のことだ?」

「お前、俺のことスピーチでロリ呼ばわりしたじゃんか!」

「ロリなんて言ってねぇよ!年上好みって言ってやったじゃん!何聞いてんだよおめぇ!」

「あ・・そっか、ちょっと勘違いしてた。ごめん。」

「まったく、実際ロリなクセに俺がフォローしてやったのによ。」

「あは・・あははは(^_^;)」


 まずい・・まだ混乱してるぞ俺。。


 なんとか前迫には納得してもらって、初夏さんと部屋で落ち着くことができた。

だが、落ち着くったって・・・ほぼ初対面の女性と部屋にふたりっきりになって正直落ち着けるはずもない。

しかもよく考えてみれば、新婚初夜じゃないか。。


 部屋はホテル最上階のスペシャルスイートルームだった。

さすが取締役ご令嬢ならではのなせる業。

「ひえー!(◎0◎) すげぇ豪華な部屋だ。。王室にいるみたいだ。。

「外の夜景も素敵。眺めも最高だわ。」

「う、うん。。」

 煌びやかな街の灯りがはるか遠くまで伸びている。

今日は晴天の満月で、特に夜の街が生き生きしているように感じた。


 ん?満月・・・?

たしか雪乃と披露宴してたときも満月。。

「初夏さん、今日何日だっけ?」

「だから何で『さんづけ』なのよ?今までずっと呼び捨てだったじゃない。」

「ご、ごめん。つい・・」

「もしかしてヨッシー、養子になったからって、アタシに気を使ってるの?」

「いや、そんなわけじゃ・・」

「ならいいけど。。なんかアタシが旦那様を尻に敷いてるみたいに世間から思われるのヤダからね!」

「わ、わかった。今度からちゃんと呼び捨てにする。で今日は何日だっけ?」

「2月12日よ。これからアタシたちの結婚記念日になるのよ!ちゃんと覚えててね!」

「あ、あぁ・・」

「変なの。」


 2月12日・・・雪乃と結婚した日と全く同じだ。時間は狂っていない。

そしてもっと重要なことは、この初夏さんと・・いや、初夏と今まで過ごしていた俺が別にいるということだ。

お見合いを成立させた俺。初夏を呼び捨てにしていた俺。前迫たちのいる2次会に行く返事をしていた俺。

というよりも、今日結婚するまでの期間、ずっと初夏と付き合っていた俺。あるいは俺に化けた誰か?

何か得体の知れぬ凍りつくような緊張感が俺の背中に走った。


「ヨッシー、お風呂一緒に入ろう (o^-^o) ウフッ」

「ヘ( ̄ω ̄|||)ヘぎくッ!」

初夏がすごいセクシービームで俺を誘ってきた。彼女は俺よりたしか3つ年上な女性。

お色気度満点とはまさにこのことだ。

「ねぇ、はやくぅ〜♪」

「は、はいっ。」

ここは一緒に入るしかないよな。。。夫婦だもんな。。。


 一体、俺と初夏はここにたどり着くまで、どんな恋愛をして来たんだろう?

どんなデートをしたんだろう?どんな会話をしたんだろう?

そして、初夏と付き合ってきた『俺の知らない俺』って、本当にどこかにいるんだろうか?

それとも全く違った観点から考えたとして、この俺が記憶障害か何かの病気なんだろうか?

謎は考えれば考えるほど深まるばかりだった。


「ヨッシー、背中流してあげるね!」

「う、うん。(#^.^#)」

 少し照れくさいが、悪い気はしなかった。でも気がかりなのは風呂上りの後・・・

どうしよう。。。なんせ初夜だもんな。。。

一生思い出に残る大切な夜なのに。。。雪乃じゃないなんて。。。

困った。。。本当に困った。。。



   ●その3:初夜だってのに。。。


 同じバスルームにいながら、ろくに会話もなく体の洗いっこをしている自分がいた。

「ヨッシー、なんでそんな真剣な顔してるの?」

「え?いや、その・・少し緊張してるのかも。」

「どうして?初めて一緒にお風呂に入ったわけでもないじゃない?」


   そっか・・やっぱり初めてじゃなかったんだ。。


「そりゃそうかもしれんけど・・何てゆうか・・そ、そう、こんなすごい豪華な部屋と広いバスルームに入るのは初めてじゃないか?」

「環境の変化に弱いの?ヨッシーって。知らなかった。アタシはどこでも平気よ。」

「俺は貧乏性だからさ。;^_^A 」

「ふぅ〜ん。。そういうもんなんだ。」


  (;-_-) =3 フゥ・・ここは何とかごまかせたようだ。

 

 なんとか平穏に風呂から上がって、俺は大きなダブルベッドに腰を下ろした。

 さて・・もっと緊張するときがやって来るぞ。。ホント参ったな。。


「ヨッシー!ねぇヨッシー!」

浴室の入り口で、初夏がバスローブを巻いたまま突っ立っている。

「ん?どうしたんだ?」

「いつものしてよぉ〜!なんで1番大切な思い出の日に忘れるのよ〜!」

「へ・・?」やばい・・何なのかわかんねぇ。何だろいったい。。

 俺はゆっくり初夏のそばに歩いて行った。


 きっと風呂上りには必ずキスしてたとか・・?

 それともドライヤーで髪を乾かしてあげてたとか?

 わからないけどとにかくやってみよう。。。


 俺は初夏に近づくと、その柔らかそうな唇に軽いキスをした。

「髪、乾かしてあげようか?」

「ちがーう!!今日のヨッシー変すぎるぅ〜!」

「ち、違いましたか。。( ̄Д ̄;;」

「もぉーっ!いくら環境が違うからってひどいわ!いつもベッドまでお姫様だっこしてくれるじゃない!!」

「あ・・あぁ〜はいはい。そうでしたそうでしたー。ごめんな初夏。俺、極度の環境オンチなんだよ。(^_^;)」

「こんなに緊張してるヨッシー見るの初めて。」

「貧乏性の俺に免じて許してな。」


 俺は初夏の機嫌を取りながら、彼女のご希望に沿ったお姫様だっこをしながらベッドまで運んだ。

「ありがとヨッシー。疲れてるのにごめんね。」


    そう思うならこんなことさせるなよ。。( ̄ー ̄;


 彼女はそのままベッドに横たわった。気持ち良さそうに目をつぶっている。

披露宴で酒も飲んでるし、酔いもまわっているのだろう。数分たっても初夏はピクリとも動かない。


 しめた!このまま熟睡してくれれば安心だ。


 俺は初夏と背中合わせにベッドに入り、静かに眠りに入ろうとした。

が、そんな単純に事が済むわけがない。初夏はしっかり起きていた。

「ねぇ〜ヨッシーどうして来てくれないのぉ?なんでよぉ?」

「え?え?その・・もう寝ちゃったかと思って。。」

「そんなわけないでしょぉ!待ってるんじゃない!」

「な、何を?」

「女の口からそんなこと言わせるの?ヨッシーって。」

「つまりその。。」

「エッチして!ってアタシに言わせたいの?恥ずかしくて言えるわけないでしょ!」


    言ってるじゃん。。。(~_~;)


「ヨッシーってSだったの?アタシをはずかしめたいの?」

「そんなことあるわけないだろ。何もそこまで考えなくても。」

「じゃ黙ってすぐに来てくれたらいいのに。。(゜Å)ホロリ」

「ごめん。ちょっと初夏が何かしゃべってくるまで待とうと思ってたんだ。」

「やっぱりアタシに恥ずかしい言葉言わせたかったんでしょ?」

「だから違うって。エッチって言葉に抵抗あるんなら『抱いて』って言ってくれたらいいのに。」

「同じよそんなの!もぅ意地悪なんだからぁ!」


 どんなに初夏と言葉の応酬をしても、すんなりこのまま寝入るわけにはいかなかった。

今の俺には未知の存在である熊野初夏を、どうしてもこれから抱かなければならない運命にあるようだ。


 雪乃・・ごめん。。これって浮気になるのかな?

でもしょうがないんだ。勘弁してくれ。


 もしこの世界が現実ならば、雪乃は今どこにいるんだろう?

 何か未知の力によって、他の披露宴と摩り替わったとしたら・・

 雪乃もまた別な男と結婚してるのだろうか?

 この世界、俺が初夏を選んだということは、逆に言えば雪乃を捨てたということになる。

そんなことは全く考えられない話だ。俺が雪乃と別れたなんて。。

明日になっても今の現実が変わってなかったら、雪乃の家に行って確かめてみよう。


 複雑な心境を心に抱いたまま、俺は初夏と体を重ねていた。



   ●その4:悪くないかもしんない


 何か胸のあたりが苦しくて目が覚めた。

俺はベッドに横になったまま、ボーっと窓の外を見ていた。

すでに明るくなっている。もう朝を迎えたようだ。 


 そうだ・・昨日までの出来事は夢かもしれない。

俺のとなりには、きっと雪乃が寝ているんだ。初夏もとかなんかじゃない。


 そう思いたかった。思わずにはいれなかった。

 だがそんな希望はすぐに打ち砕かれた。

 どうやら見た感じ、部屋はスペシャルスイートのままで昨夜と同じ。

新婦が雪乃だったら、こんな豪華な部屋は予約していない。

 窓に向かって横向きに寝ていた俺は、 自分の背後をそっと振り向いてみた。


 ・・・( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)こ・・これは。。。


 そこにいたのは残念ながら、予想通り初夏だった。

しかも俺の胸の上に両足を乗っけたままで、真横に大の字で寝ている彼女がいた。


 こんなに寝相が悪い女だったんか( ̄ー ̄; ヒヤリ

 どうりで胸が重たかったはずだ。。。


「あ・・おはようヨッシー(_ _)(-.-)(~O~)ファ…」

「あぁ、おはよう初夏。」

「???ヨッシーなんでそっち向きで寝てるの?」

「君がそっち向きになってるんだよ。(^_^;)」

「・・・あらいやだ。アタシったら。。疲れてたせいね。」


  それが理由になるのかよっ( ̄ー ̄;


「あのさ、俺今日、ちょっと用事があるんだよね。2、3時間くらいで戻って来るから待っててくれる?」

「Σ('◇'*エェッ!? 何言ってるのよ昨日から変なことばかり!!」

「ん??」

「午前中のうちに成田行かなきゃなんないでしょ!」

「あ・・・・」


 そうだった。。。バカだな俺って。。。

 新婚旅行に出かけることくらい予測できなかったとは。。。


「一体、何の用事?なんで急におかしなことばかり言うのよ!」

「ご、ごめん。。いや・・急がないからあとでいいよ。うん。」

「もぉ〜!びっくりすること言わないでよね!」

「ははは・・・;^_^A 」


 このまま事情のわからないまま旅行に旅立つのか・・・

今更、ジタバタしてもしょうがないのかな。。。

ここは割り切って、旅行を満喫して来るかな。。どうやらの海外旅行のようだし。

細かいことは帰国してから調べよう。考えるだけなら旅行先でもできるし。


「初夏、向こうは暖かいところなんだよね?」

「え?ヨッシー行き先が暖かいか寒いところかも知らないの?」

「だって、海外になんて行ったことないから。」

「じゃあ仮にハワイも暖かい場所だってこと知らないの?」

「そ、そりゃ知ってるけど。。」


 そっか・・ハワイに行くんだ。よし納得!


「アタシ、象にも乗るの楽しみにしてるんだぁ。」

「へ?象?・・・ハワイに象なんているのか?」

「ハワイのこと言ってるんじゃないでしょ!!これから行くところよ!」

「イ・・インド?」

「もぉ 全然面白くないジョークやめて!」

「あはは・・ごめんごめん。」


    一体どこ行くんだよ。。。( ̄Д ̄;;


「プーケットのホテルってね、地震で改装されてからすっごく豪華になったんですって!楽しみだわ。」

「(・。・) ほ、ほーっ。。。」


    タイだったのか。。。ε- (^、^; ふぅ あぶねぇあぶねぇ


 こうして俺は山積の問題を後回しにして、とりあえず新婚旅行優先に成田から出立したのである。



   ●その5:遊べるうちは平和だし


 プーケットに到着してすぐにチェックインした。

初夏もとかの言っていた通り、すごくゴージャスなホテルだった。

外の風景も、目の前はまばゆいばかりの輝く海。

そしてホテル敷地内にも青々とした広大なプール。

テレビで観た大地震の爪あとなど、みじんも見る影もなく見事に復興していた。


 俺たちは長旅の疲れを取るために、この日は外出せず、プールサイドのパラソルの下で日向ぼっこをしながらトロピカルジュースを飲んでいた。

横にはフルーツの盛り合わせも一緒に添えられて。

「ずーっとこうしてのんびりしていたいよね?ヨッシー。」

「そうだね。暖かくて気持ちいいし、悩みなんて忘れそうだ。」

「悩み?ヨッシー何か悩んでるんだ?」

「いや・・悩みがあったとしても、忘れちゃいそうなくらいここは良い所だねって言いたいのさ。」

「なんかはぐらかされたって感じね。ヨッシーがアタシに言えないことがあるくらいわかるわよ。」

「え?」

「だってお互いのことあまり知らないままスピード結婚しちゃったじゃない。」

「そ、そうだたのか・・じゃなくてそうだよな・・」

「パパの言う通りにしただけだもん。ヨッシーもまだアタシのこと全部は知らないわけだし。」

「なんか知ってはいけないことでもあるのか?」

「そういう意味じゃなくて、アタシの性格とか、生活スタイルとか。」


   たしかに全く知りませんが。。。( ̄ー ̄;


「でも愛情って、これから徐々に高めていけると思うの。」

「最初は俺に全然愛情なんてなかったんじゃないの?」

「だってあたしたち、お見合いだったでしょ。よっぽど顔が良くて一目惚れでもしない限り無理じゃない!」

「はっきり言うね(^_^;)」

「ごめんね。でも今こうして言えるのは、ヨッシーを信じていくと決めたからよ。」

「じゃ俺を好きになってくれたってことか?」

「嫌いじゃないよ。」


   ((ノ_ω_)ノバタ・・・なんだその言い方って。。


「だってアタシ、パパ大好きなんだもん。ファザコンっていうのかしら?パパなら心から信頼できるし、何でも言うこと聞けるの。だから、パパの選んだお婿さんは絶対安心できると思ったのよ。」


  ・・・こりゃすげぇお嬢様だな。。。俺は初夏と取締役の操り人形になるかもしれないな。


「じゃ初夏、お前のパパが俺じゃなくて別な男を指名してたとしたら、1度も付き合わなくてもそいつと結婚したってことか?」

「それはないわ。相性ってものがあるし、付き合って様子は見るわよ。」

「それ聞いてなんかホッとしたようなw」

「だからヨッシーとだって、ちゃんとお付き合いしたし、エッチもしたでしょ? (o^-^o) ウフッ」

「(#^.^#)そ、そうだったな。」

 こうした複雑な心境に駆られながらも、俺は椅子にもたれながらゆっくりとフルーツを食べていた。


「ヨッシー、そのTシャツの柄カッコいいね。似合ってるよ。」

「そ、そうか?」

「うん。」

 俺はこのTシャツを買った覚えはなかった。俺のトランクに入ってたから勝手に着ただけなのだ。

てっきり初夏が買ってくれたと思っていたが、きっと『俺の知らない俺』が揃えたものなのだろう。

趣味的には俺好みな衣類ばかりだったし、元々自宅にあったものも入っていた。


「ねぇ、まだ明るいから象に乗りに行こうよ!」

初夏が突然言い出した。もう疲れなんてすっかり取れてるようで、表情が意気揚々としている。

とても俺より3つ年上とは思えなかった。

ま、姉さんタイプよりこの方が俺にとってもいいんだけどな。。。


「いいよ。行ってみようか。初夏ってそんなに象が好きだったのか?」

「動物はみんな好きよ。それに象に乗れるなんて日本じゃ無理でしょ!」


 1時間後、俺たちは象乗りを楽しんでいだ。

象の背中の上はかなり高いから、かなりスリルがあった。象が歩いて木の間を掻い潜ると、生い茂っ小枝や木の葉が体に当たって初夏はキャーキャー騒いでいた。

こんな無邪気な彼女を見ていると、このまま雪乃のことが薄らいでゆく気がした。

 そして、これまでの一連の出来事の経過は、俺の記憶障害ということで自分に納得させようとしたくなる。

もう、ややこしいことは考えたくないし、ここで精一杯楽しみたい。

せっかくの新婚旅行、初めての海外旅行なのだから。


 このあと、俺たちは、飼育係立会いのもとで虎と記念撮影をしたりしてホテルに戻った。

虎にも動じない初夏に、俺は彼女の意外性を見た。


「お腹空いちゃったね。ヨッシー。何か食べようか?」

「今食べたらディナーが入らなくなるぞ。」

「軽く食べるだけよ。今ね、タイじゃ日本食ブームなんだよ。知ってた?軽くおそばでも食べましょうよ。ヘルシーでしょ?」

「果たして本当に日本と同じ味のそばが出てくるのか疑問だけどな。興味あるから食べてみるか。」

「 (o^-^o) ウフッ。アタシたちってやっぱり気が合うわよね?」

「結婚したあとにそんなこと言うなよ。」

「あは。そうでしたw変よね。」


 早速、ホテル内の日本食レストランでそばを注文したが、出来上がって来たとき小皿に一緒に添えられてきた緑色のものに驚いた。

「あれ?これってわさびじゃん。」

「そうよ。タイでは日本のわさびが大ウケしてて、どんな料理にもたっぷり入れちゃうのよ。」

「(・。・) ほー。よく知ってるなそんなこと。」

「この前、めざましテレビで見ちゃっただけなんだけどねw」

「なんだ。初夏は世界どこでもすっげぇ物知りなのかと思ったよ。」

「えへ。ネタばらしするの早すぎちゃった。アタシ正直だから。」

「さ、伸びないうちに食おうや。」

「うん。」

 俺たちはあれやこれやと雑談しながらそばをすすり始めた。

「き・・きたーーーーっ!鼻にツーンと。。」

「うっ・・あたしも・・(゜ーÅ)ホロリ でも刺激的でいいわぁ。」


 とてもいいムードで俺たちは過ごしている。誰から見ても仲むつまじい新婚カップルに見えるだろう。

もう過去の記憶なんてどうでも良くなってきた。これからを初夏とどう生きるか考えればいいんだ。

帰国したら専務として、本社出勤になるわけだし、当然給料もあがるだろう。

申し分ない身分だし、不満なんて何もない。

このまま進んで行けばいいのさ。。。このまま。。。



   ●その6:これが逆玉ってやつか


 俺と初夏は帰国に途についていた。彼女は機内で少し機嫌が悪い。

お恥ずかしながらその理由とは、夜の夫婦生活のせいだった。

さすがに女性は勘が鋭い。手抜きをするとすぐバレる。


「ヨッシー、集中してないでしょ?気が別なところにあるみたいよ?」

「(゜゜;)/ギク!・・そ、そんなことはないんだけどな。」

 と言ったものの、実際はそんなことはあった。

 実際に交際期間も全くない女性を、心から愛せるわけがない。それにやっぱり初夏を抱いている最中でも雪乃の顔が重なってしまう。

集中できるわけがない。

「ヨッシー、誰か他に好きな人がいたんじゃないの?」

「いないよ別に。だから初夏と結婚したんだろ。」

「ふぅ〜ん。それならいいんだけど。」


 やばい・・初夏に印象を悪くしたら取締役にも睨まれる。なんとかしないと・・・

俺はこの疑いから必死に挽回しようと試る。


 義務的じゃダメなんだ。時間をかけてゆっくりと。。慌てずあせらず。。。


 俺は彼女の耳元にキスをして、軽く息も吹きかけた。

「キャハハo(>▽<o)(o>▽<)oキャハハ!!ちょっとちょっとぉ!ダメだって!」

いきなり初夏が笑い出した。

「(゜ヘ゜)ありゃ?」

「もぅ〜!アタシは耳が苦手って最初に言ってたじゃない!くすぐったいだけなんだからぁ!」


   そうだったのか・・・( ̄Д ̄;;


「なんか違う人としてるみたい。ヨッシーの顔のお面つけてる別人じゃないの?」

「ごめん。。すっかり忘れてたよ。」

「今までこんなことしなかったのに、なんで急に変なことしようとするのよ!」

「つい、舞い上がっちゃってね。ホントごめん。改めて最初からちゃんと・・」

「もう今夜はする気なくなっちゃったわよ。ヽ(`⌒´)ノムキィ」


  まずかったなマジで。。(⌒-⌒; でも初夏にハッキリ言われてしまった。

  『別人じゃないの?』か・・・ある意味そうだよな。

  俺は雪乃と結婚した男だ。初夏と結婚した俺は、俺ではないんだ。


 こうしたこともあって、帰りの機内ではふくれっつらのままの初夏であった。

だが、日本に間もなく着陸する時間になると、少しは機嫌もおさまってきたようだ。

「ヨッシー、今日から新居よね。新築の家の木の香りってすごくいいわよね。」

「う、うん。そうだね。」


 (!o!)オオ! 俺たちはそんなすげぇ家に住むんだ。。こりゃ楽しみだな。


「家財道具は式前に注文済みだから、もう家の中に届いてるはずだわ。」

「え?じゃあこれからセッティングとかするのかい?」

「レイアウトはあたしが先に決めといて、業者にやってもらうよう手配してあるの。旅行から帰って来て疲れてるのに、アタシたちがそんなことすることないでしょ!」

「さすが初夏だな。」

「そんなにバカじゃないのよ。アタシは。」


 さすが行動派のお嬢様だ。テキパキしてる。

頼もしい存在にもなるかもしれないが、恐怖な存在にもなり得るな。。。


 成田からタクシーで新居に着くと、そこは熊野取締役の豪邸の敷地内に建てられていた。

「パパからずっと監視されてるみたいな気がするねw(@^▽^@)ノあはは」

 と、笑いながら言う初夏。でも俺は笑えなかった。


   養子だもんな。しょうがないか。。。



   ●その7:努力はちゃんと認めるから


 俺たちはふたりとも疲れきっていた。旅行疲れだから贅沢な疲労感なのだが、新居の寝室に入るや否や、爆睡状態に陥り朝まで寝入っていた。

もちろんこんな体のヘロヘロ状態に夜の夫婦生活などない。

4人位は寝れそうな幅の広いモダンなダブルベッドの中に、俺も初夏も溶け込むように沈んでいった。


 8時間は寝ただろうか?翌朝、俺はボーっとした目覚めかけの状態でベッドから起き上がった。

初夏はとなりにいなかったが、俺はさほど気にならなかった。

それよりも部屋の中を隅々まで見渡したり、窓の外を眺めたりして、この状況がまだ現実なのかを確かめたかった。

でもその結果はすぐに出た。まざに現実、決して夢ではない。

 これが夢だとしても、あの披露宴から新婚旅行、そして帰国して一夜明けても夢が覚めないなんてあり得ない。

夢とは限られた一夜の睡眠時間内に見るもの。だがすでに、披露宴から今日で1週間が経過した。

初夏の話だと、俺は帰国した2日後から本社に出勤するとのことだ。

 それってもう明日のことじゃないか!(^□^;A


 部屋の外からかすかな音がした。

俺は部屋を出て短い渡り廊下を歩いて行くと、左側にダイニングがあって、そこで初夏がバタバタと動いていた。

「メシの準備か?初夏。」

「あ、おはよぉヨッシー。そうよ。今ちょうどできたとこ。アタシ頑張っちゃったもんね!」

「別に頑張らなくてもいいのに。朝は軽く食えたらいいんだ俺は。」

「Σ('◇'*エェッ!?だってヨッシーが朝は和食じゃなきゃダメだって言ってたじゃない!」

「(・ ̄・)...ン?たしかに俺は和食派だけど、朝メシなんてそんなに気合入れて作らなくても・・」

 そう言って俺は食卓の上を眺めた。

「(?_?)へ?頑張っちゃったって言ったわりに・・これといって何も作ってないじゃん;^_^A 」

「ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!! ショックぅ〜!ヨッシーにダメだしされたぁ(・T_T)ううう。。」

「だ、だってさ(^_^;) テーブルに納豆と味噌汁と漬物しかないじゃん。」

「それだけじゃ不満なの?」

「いや、そうじゃなくて、これくらいのことで頑張ったとは。。。」

「(・T_T)ううう。。ひどぉい・・ヨッシーのために納豆だってこねくり回したのにぃ・・」

「タレ入れてかき回すだけじゃん。」

「それだけじゃないわ。ちゃんとからしも入れました!」

「いや、だからそうじゃなくてさ・・初夏は納豆嫌いなのか?食ったことないの?」

「ないわよ!こんな気持ち悪いの・・でもこうやって我慢してかき回したんだからね!・・うっ、くさいっ!」

 初夏は両腕をピンと伸ばして、その先に納豆を入れた小鉢と箸を持って、目をそむけながら再びかき回し始めた。

「もういいよ初夏。俺が自分でするから。(^□^;」

「いいわよ。アタシにまだ頑張りが足りないんでしょ?これくらいの試練なんて・・うっ。。」


    試練って言えることか?これって。。。(⌒-⌒;


 結局、大騒動した朝食が終わった。

ごはんは炊飯器がうまく炊いてくれたから良かったが、味噌汁は永谷園のあさげ。漬物は既製品のたくあんを切っただけだった。

それでも初夏に言わせれば「このお味噌汁は生みそだっから、チューブからきれいに残さず全部出すのって大変だったのよ!」とか、

「たくあんを同じ厚さに揃えて切るのって、すごく難しい技よね!我ながら高度な技術だったわ。」などど苦労話を訴えていた。

そのわりには、たくあんがほとんど繋がっていたのはなぜだろうか?( ̄ー ̄;


 俺が食べ終わると、初夏が自分の食事を始めようとしていた。

「あれ?初夏それなんだよ?何食おうとしてるんだ?」

「トーストとベーコンエッグじゃない。見てわからない?」

「そうじゃなくて、何でお前だけなの?」

「だってヨッシーは和食って言ったからでしょ!アタシの家は昔から朝はパン食なのよ。」

「でも卵料理もあるじゃん。」

「だってウチはいつもそうなんだもん。目玉焼きやオムレツ、スクランブルやサニーサイドアップ・・」

「最初に言ってくれよぉ。俺にだって作って欲しかったのに。」

「和食と洋食を混ぜても平気な人だってわかってたらそうしますぅ!!」

 初夏は完全にふくれっ面だった。


 参ったねこりゃ。。。( ̄Д ̄;; なんとかご機嫌とるか。。。


「なぁ初夏、そのコーンスープと俺のあさげと交換しないか?」

「だってヨッシーごはん終わっちゃったじゃない。」

「明日の朝からの話だよ。」

「や〜だ!納豆もいりません。」

「おいしいのに。。匂いで判断するのって邪道だぞ。トーストに納豆をサンドする人だっているんだぞ。」

「Σ(ノ°▽°)ノハウッ!信じらんない・・」

「じゃあさ、俺も明日からパン食でいいわ。一緒に食べようや。」

「ダァメ!新婚旅行から帰る前に、せっかくウチのお手伝いさんにヨッシー用の食料を買い出ししてもらったのに。」

「俺用かい・・(^_^;) 一緒のもの食おうや。。」

「あと納豆30個食べ終わったらね。」

「(ノ _ _)ノコケッ!!」


 どうも生活リズムがつかめそうにない。

雪乃とだったら・・もし雪乃と生活してたら・・・


 そのとき突然めまいに襲われた。すぐさま俺はリビングのソファにもたれかかって天井を見上げて目をつぶった。

その瞬間、目をつぶってるはずの俺の前に、雪乃の顔がチラついた。

『ゆ、雪乃・・お前、本物なのか?』

それと同時にまわりの光景もうっすら見えた。どうやらアパートの一室のような感じだ。

部屋の棚には写真の入った小さなスタンドが置いてある。俺は意識もうろうとした感覚のまま、写真に注目した。

よく見るとそこには自分・・つまり俺と雪乃の結婚式での記念写真があったのだ。しかも俺は、この撮影時の記憶はちゃんと覚えている。


 どういうことだ。。。


 そして雪乃が俺を心配そうに見つめている。

俺は何か話そうとしたが、頭痛に襲われつい目を伏せてしまった。

 数分経ち、少し楽になったころ、俺の目の前には初夏がいた。

「ヨッシー大丈夫?ねぇ大丈夫?」

「あ、あぁ。。ちょっとめまいがしただけさ。」

「仕事は明日からなんだから、今日はゆっくり休んでね。さっきはごめんね。明日からは一緒にベーコンエッグ食べましょうね!」

「う、うん。。」


 体は完全に回復していた。でも俺のいる場所は雪乃のところではなくて、初夏の父親が建ててくれた新居。

 やっぱりこっちの世界が現実なのか。。。でも。。もしかすると。。考え方によっては違うかもしれない。。

 もし、さっき雪乃がいた世界が本物だとしたら、向こうで雪乃はひとりぼっちなんだろうか?

 それとも、向こうには向こうの俺が存在しているんだろうか?

 それともやはり、俺の幻覚。。妄想。。精神的障害。。。?


 明日、仕事の合間に時間ができたらとりあえず雪乃の家に行ってみよう。それしかない。。。



   ●その8:出世してもつまんないね


 初出勤の俺は、本社で新専務として熱烈な歓迎を受けた。

逆玉で飛び級出世したのは嬉しいが、初めて会う社員にいきなりチヤホヤされるのはいかにもわざとらしい。

所詮、心と行動はうらはらだ。ウチの本社の社長はワンマンで有名だから、社員全員、常にご機嫌を損ねないようにしているとは聞いていた。

俺も社長の義理の息子になったわけだから、同じように接してくるのは当然とも言える。

それに、社長が俺に期待を込めて紹介してくれたこともかなり影響があったようだ。


「諸君も知っての通り、彼はウチの娘・初夏と結婚したばかりの熊野義竜専務だ。最初に言っておくが、私は親類だからと言ってひいきしない。今回の彼の専務就任は、あくまでも彼の業績がずば抜けていたから私が本社勤務に抜擢したのだ。」

 一同、シーンと静まりかえっている。心に不満はあっても口を返す者など一人もいるはずはなかった。

 披露宴のときに話しかけてきた田川本部長も、俺に対してキモイ微笑みを浮かべながら無言のご機嫌を取っている。

 

 社長の話は更に続いた。

「しかしながら、とかく人間とは人を恨んだり妬むものだ。この熊野義竜新専務が時期取締役社長になるのではと考えてる者も多いと思う。」


    そこまで言うのはまだ早いんじゃないか。。。?(⌒-⌒;


「しかし、私にはそんな考えは全くないので、諸君はこれからも余計な噂など気にせずに、平常心で仕事に専念してもらいたい。」


    (・ ̄・)...ン?どういうことだ?

    そりゃ今はまだ早いが、時期に俺が跡継ぎになるから養子になったんじゃないのか?


「以上!ではそれぞれの部所に戻って仕事を開始するように!」

そう言ってすぐ、社長は自室に入って行った。

 俺はそのあと、田川本部長に連れられて、専務室に案内された。

「へぇ、僕にも自室があるんですね。」

「今回から新たにできたんですよ。熊野専務。」と、田川本部長。

「それは社長が決めたことですか?」

「もちろんですとも。」

「だったら・・これって、身内のえこひいきにならないかなぁ?」

「仕事で結果を出せばいいこことですから。」

「まぁそうなんだろうけど。。」


 たしかにそうだ。ここは実力の世界だ。俺が役職にふさわしい仕事をすればそれでいいんだ!


「ヨッシー、どう?ここのムードにもう慣れた?」

「あれ?初夏も来てたんだ。」

「今来たばっかりよ。田川さんもういいわよ。どうもありがとう。」

「はい。では私はこれで。。」

 おべんちゃらのうまそうな本部長が足早に去って行った。


「俺に何か用か?」

「ううん。ちょっと様子が見たくて。部屋もできたことだし。」

「あ、もしかして?」

「そうよ。あたしがパパに頼んだの。専務室作ってあげてね!って。」

「やっぱりなぁ。さすが愛娘の言うことは何でも聞いてくれるもんだなw」

「 (o^-^o) ウフッ」

「ところで初夏、さっき社長に紹介してもらったんだけどさ。」

「うん?なに?何かあったの?」

「いきなり跡継ぎのこと言うからびっくりしたよ。」

「Σ('◇'*エェッ!?パパがヨッシーを次の社長にするって言ったの?」

「いや、その逆さ。そんなつもりは全然ないんだって。俺だって別に社長にすぐなりたいってわけでもないのにさ。」

「当たり前じゃないの!何言ってるの?ヨッシーがすぐでもあとでも社長になるわけないじゃない。」

「(゜ヘ゜)へ?」

「だってウチには弟だっているし。」

「はぁ?弟?」

「披露宴の記念撮影のときにいたでしょ?中国支店から来てくれたのよ。」

「そうだったのか・・・」

「ん?ヨッシー、もしかしてがっかりしてるの?」

「(゜゜;)/ギク!いや・・そんなことはないけどさ・・じゃ俺は養子になる必要がなかったんじゃないのか?」

「何でよ?」

「だって実の息子がいるなら跡継ぎは最初から弟に決まってるようなもんじゃん。」

「何言ってるのよ!跡継ぎはアタシよヨッシー。」

「(・_・)エッ......?」

「だってアタシ、副社長だもぉん。(#^.^#)えへ。」

「Σ(ノ°▽°)ノハウッ!それ全く知らなかった。。。じ、じゃあ俺はそういう意味での養子だったのか。。。」

「そうよ。最初に言ったはずだと思ってたんだけど?ウチは男女関係なく、第1子が跡継ぎなの。」

「その次が俺ってわけか?」

「いいえ。その次が弟。ヨッシーは副社長か専務止まりね。」

「あっさり言うね(⌒-⌒;」

「でも安心して。あたしたちの子供ができたら、アタシの弟より後継順位が上になるから。」

「あ、そう。( ̄ー ̄; 」


 人間、欲ってのがつきまとうものだ。今の現状において、俺の気持ちの中で、将来社長になれるんじゃないかという、かすかな期待もあったことは確かだ。

でもそれが見事に崩れ落ちた。世の中そんなに甘くはないよな。


 さてと・・・これから雪乃の家に行く時間が作れるだろうか。。。



   ●その9:やっぱそう思うよな


 午前中の俺の仕事は、とりあえず本社の各セクションを見学して回ることだった。

一応、俺は働いている社員たちほどんどの上司になるわけで、どこへ行っても一礼される。

なかなかこういうのも気分がいいものだ。

初夏もとかと結婚した特典でもあるんだろうけど、さっき朝礼で社長も言ってたように

俺が自分の実力で業績を伸ばした要素もかなり大きいと思う。


 でも雪乃と結婚した自分が本物だとすると、この話は断ったはずだから、

俺はただの現場で働く子会社の主任のひとりにすぎなかっただろう。

複雑な思いがまだ俺の脳裏を左右している。

 かつて雪乃にもこの話をしたことがある。取締役の娘さんとの縁談話を薦められていることを。

あのときの俺はバカだった。雪乃と別れるつもりなんて更々ないから軽くしゃべってしまった。

でもそれが元で、雪乃を思い悩ませることにもなったのは確かだ。

いつか、雪乃がこんなこと言ったことがある。

「ヨシ君はアタシよりもそっちの娘さんと結婚した方がきっと幸せになれるんだよね。。」


 このとき俺ははっきりと自覚したんだ。バカな俺のせいで雪乃を随分苦しめていたことを。

そして誓った。初夏との縁談は断る!。雪乃と結婚すると!

そう決めた。そう決心したんだ。そうしたはずだったんだ。。。

それなのに。。。それが何でこんなことに。。。


「専務、もうお昼の時間ですが、社員食堂に行かれますか?お部屋に運ばせることもできますが?」

田川本部長が気持ち悪いくらいに俺に気を使ってくる。

   

   こういう二枚舌の男には注意しないと、うまく利用され兼ねないからな。。


 俺は社員食堂で天津飯Aセットを選んだ。なぜか田川本部長も俺と同じメニューをチョイスして俺と差し向かえの席に座ろうとしている。

「本部長、僕に気を使わなくてもいいですよ。自由なところに行って食べて下さい。」

「いえいえ、私は別に・・午後からも専務に社内を案内する予定ですし。」


   全くウザいオヤジったらありゃしない。(;-_-) =3 フゥ


「悪いけど、昼からちょっと出かける用事があるんですよ。早めに戻りますけどね。」

「あ、そうでしたか。それなら私も片付けたい仕事があるのでそっちを先にさせていただきます。」

「そうして下さい。」

 俺がそう言うと、今までかしこまった本部長の態度が一変、近くの女子社員を捕まえて

「この定食、私のデスクの上まで運んどいてくれ。冷めないうちに早く頼むよ。」

こういい残すと彼は、俺に一礼してから足早に食堂を出て行った。


    あれじゃ嫌われるはずだよな。。(-_-;)


 事実、たった今食事運び係に任命された女性社員は、部長の後姿にあっかんべーをしていた。

それを見ているのもまた笑えるものだ。俺がそんなことされたらたまったもんじゃないが。


 食事をしている間は、誰も近づいて来なかった。人の上に立つと孤独になるってのはこのことなのか。

たかが、ランチタイムのときだけでそう感じてしまう俺は、意外と寂しがりやなんだろうか?

初夏はもう帰ったのかな?一緒にメシくらい食べても良さそうなのに。


 食事後トイレでしゃがんでいると、男性社員が数人、小声でしゃべりながら入って来た。

「だから社長が今朝言ったことって矛盾だらけなんだよ。思いっきり身内びいきしてるし。」

「うん。時期社長は新専務じゃないにしても、娘の初夏さんて噂だからな。」

「じゃなんで、社長はあんなこと言ったんだ?」

「とりあえず、社員の目を専務に向けさせといて、飛び級出世は実力であることに念を押したかったんだと思うよ。」

「まぁ、たしかに専務の業績はデータで見たから、すごいやり手なのはわかるが。」

「とにかく社員から身内びいきだと思われるのを避けたかったのさ。」

「避けられないと思うけどな。」

「だから新専務が必要だったのさ。親類になったとは言え、専務は血は繋がってない。飛び級出世させて、他の社員には『頑張れば誰でもここまで出世できる!』と思わせておく。」

「うんうん。」

「それが重要だったのさ。でも所詮そこまで。新専務が社長にまで上り詰めることはない。ただの養子にすぎないんだから。」

「でもある意味、俺としては専務に社長になってもらいたいような気もするけどね。そうなれば、赤の他人でも頂点に立てるんだって目標ができるじゃん。」

「そう思う人もいるかもしれんが、不満や妬みを持つ人間の方が多いと思うね。」

「つまり足の引っ張り合いになると?」

「そうなれば会社自体が衰退するからな。特に日本人・・いやアジア人ってそういうもんさ。」

「どういうこと?」

「アメリカンドリームってよく言うだろ。向こうでは、成功した人はものすごく讃えられるけど、日本では出る杭は打たれるだけなのさ。だから実力が出せないうちに潰されるのさ。」

「お前はこれからどうやっていくんだ?」

「俺は常に2番手、3番手でいいさ。1番にはならない。」

「じゃ専務の座までは目標にするんだな?」

「まあね。」


   とんでもない会話を聞いてしまった。。。( ̄ー ̄; ヒヤリ

   けっこう、したたかなライバルが多そうだ。油断はできないな。

   それよりも雪乃に会うのが先決なのに、気が散るよな全く。。。

   早く会社を出よう。。。



   ●その10:俺の知ってる事実と違うなんて


 午後から俺はやっと自由になり、すぐさま雪乃の家にタクシーで向かった。

内心ドキドキだ。とにかく会って話さなきゃと思い巡っていたものの、いざ雪乃を目の前にしたら何をどうしゃべればいいのか見当もつかない。

俺の妄想でなかったとしたら、雪乃は俺と結婚したこと覚えているのだろうか?

または雪乃自身も俺と同じような体験をしたのだろうか?披露宴会場で一瞬にして場面が変わったような。。。


 でももし、このことが俺の妄想や精神障害のせいで全て幻の世界だったとしたら、雪乃は迷わず俺を不審者として警察に通報するかもしれない。

そう考えると心臓の鼓動が彼女の家に近づくにしたがって高鳴っていくのだ。

 雪乃は元々、自宅でピアノ教室を開いて、近所の幼児や小学生を教えているから、午後からはたいていは家にいる。

ちょうど今なら生徒たちもまだ幼稚園や学校が終わってないから話せるとは思うが。。。


 タクシーが雪乃の自宅前に到着した。

「1680円っす。」

「えと。。1万円からお釣りありますか?」

「あー・・大きいのしかないんすか?」

「すいません。小銭の持ち合わせがなくて・・。」

「(;-_-) =3 フゥ じゃ仕方ないっすね。」

 ドライバーは面倒くさそうにつり銭を用意する。

「あの・・領収書も下さい。」

「あーはいはい。。領収書ねー。」

 このドライバーは随分態度がふてぶてしかったが、今の俺には注意する心の余裕もなかった。でも、そのわりにはきちんと領収書の請求はしたから、俺もけっこうちゃっかり者かもしれないなw


 玄関のチャイムを押す指が少し震えた。奥から女性の声が聞こえてきた。

「はーい。すぐ行きますー。」


    (゜゜;)/ギク!雪乃の声だ。。。


 玄関のドアのロックが解除されて雪乃の顔が出てきた。

「( ̄□ ̄;)!!ヨ・・ヨシ君っ!!」

 雪乃はあまりの驚きに目が丸く見開いている。

「どうしたの?うちに来るなんて。。」

「いや・・その、どうしても話したいことがあって。。」

「ヨシ君はもう結婚したじゃない。アタシとはもう終わったんだから誰かにこんなとこ見られたら大変だよ。」

「え・・・?」


   やっぱりそうなのか。。。雪乃だけは俺の状態がわかるもんだとかすかな期待もしてたのに。。

   俺の精神は夢と現実の区別がつかなくなってるのか?それとも俺は多重人格者なのか?


「玄関の外は人目に付くわ。とりあえずあがって。生徒はまだ来てないから大丈夫よ。」

「うん。悪いな雪乃。」

「・・・・」


 俺はリビングに通された。雪乃は熱いコーヒーを入れてくれた。

「ヨシ君はお砂糖1杯だけだったよね。。」

「うん・・」

「それで・・話したいことって何?」

「あぁ・・それがちょっと・・説明が難しくて。。」

「???」

「ご令嬢のお嫁さんとケンカでもしたの?」

「いやそうじゃなくてさ。。俺、バカみたいなこと言うかもしれないけど聞いてくれるか?」

 雪乃の表情が一瞬堅くなった。数秒の後、彼女の口が開いた。

「・・・ヨシ君がそんなこと言うってことはよっぽど何か理由のあってのことだから真剣に聞くよ。」

「あ、ありがとう雪乃。それを聞いて少し落ち着いたよ。」

 さすが雪乃だ。俺の性格、俺の口調から察する事の重要さをちゃんとわかっている。

こんな素晴らしい彼女と俺はなぜ結婚していないのか?確かにしたはずなのに。。。


「あのさ、俺・・お前と結婚したんだよ。」

「は?」

「披露宴もしたんだ。途中までな。」

「夢でってこと?」

「いや・・どう考えてもリアルなんだ。記念撮影や式までの段取り、打ち合わせ、全て覚えている。」

「でもそれは・・初夏さんとしたことでしょ?」

「いや、雪乃とだよ。お前は覚えてないのか?」

「何が?」

「俺がお前にプロポーズしてから結婚披露宴までの道のりだよ。」

「Σ('◇'*エェッ!?ちょっちょっ・・ちょっと待ってよ。」

「やっぱり俺、おかしいこと言ってるか?」

「ていうか・・アタシ。。アタシ、ヨシ君からプロポーズされたのは確かよ。」

「良かった。それも違ってたらどこまでが事実かわからなくなることだった。」

「最後まで聞いてヨシ君。でもね、アタシ・・そのプロポーズお断りしたのよ。覚えてない?」

「( ̄□ ̄;)!!な、なんだって?」

「ヨシ君、そのこと全然覚えてないの?アタシだって何日も悩んだのよ。正直もう思い出したくないほどの苦しみだったわ。」

「そんなバカな・・・なんで断った?俺がいけないことでもしたのか?」

「違うよ。大好きだったよ。ヨシ君のこと。」

「じゃなんで・・・」

「もう過去の苦しんだこと思い出させないで。。お願い。」

「そう言わないで頼む!俺は記憶障害かもしれないんだ。理由がわからなけりゃ何のために雪乃に会いに来たかわからないんだ。」

「・・・・・ヨシ君は本社の社長のお気に入りだったじゃない。そして初夏さんと縁談話があった。。」

「そうだ。俺が雪乃に話してしまったんだ。。」

「アタシ思ったの。ヨシ君の将来のためにはアタシなんかより初夏さんと結婚した方がいいって。」

「そんなの、俺が決めることじゃないか!」

「でもね、このご時世、出世のチャンスなんて早々あるもんじゃないのよ。アタシひとりのせいでヨシ君の人生が左右されるなんて耐えられなかったのよ。」

「何てことを・・・お人よし過ぎるよお前って。大昔の時代の女みたいな考え方じゃんか!」

「古風かもしれないけどね。。それがアタシの性格なの。。損な性格ね。。」

「じゃあ、俺と披露宴した覚えはないと?」

「うん。。悪いけどそんな覚えないよ。」

「じ、じゃあもうひとつ・・・昨日のことだけど。。」

「ええ、昨日がどうしたの?」

「俺、朝なんか偏頭痛みたいなのがあって、ソファに横になった瞬間、雪乃が目の前に出て来たんだ。」

「・・・・・」

「部屋の様子は・・こんなリビングじゃなくてもっと狭い部屋だったんだけど。。お前の方は何か変化はなかったか?」

「変化って?」

「例えば、目をつぶったときに俺が一瞬現れたとか。。。」

「ごめんなさい。ないわ。」

「そっか・・・これじゃ謎が全部解けたわけじゃないな。。。」


       (゜〇゜;)ハッ・・・!!


「ん?雪乃どした?」

「え?いえ・・なんでもないわ。。生徒がそろそろ来る時間かなぁって。」

「また会いに来てもいいかな?」

「ダメよ。ヨシ君はもうここに来ちゃいけないわ。アタシが身を引いた意味がなくなっちゃうじゃない!ヨシ君はもっと上の世界で頑張らなくちゃ!」

「納得できる理由さえ見つかれば、どんな環境にでも順応でみる自信はあるんだけどさ。。」

「。。。。」

「もし俺が、精神障害か記憶障害で会社をクビになったら・・そのときは・・そのときはここに戻って来るよ。。」

「アタシに彼氏ができてたらどうするの?」

「Σ( ̄□ ̄;・・・そこまで考えてなかった。。。」

「ヨシ君は、今の現実だけを見つめて生きて行けばいいのよ。アタシのことなんか忘れて。アタシだって今はいい思い出のひとつとして考えるようにしてるの。」

「そっか。。。邪魔したな。そろそろ会社に戻るよ。」

「アタシ・・今でもヨシ君に迷惑かけちゃってるのかもね。。ごめんね。」

「そんなことないさ。勝手に来てごめん。コーヒーおいしかったよ。ありがとう。」


 こうして俺は、かつての恋人・瀬尾雪乃の家を後にした。

帰りのタクシーの中で、ふと最後の雪乃の言葉が耳に残った。


 今でも俺に迷惑かけてるって?・・・どんな意味で言ったんだろう?


            第2章へ続く

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