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家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる  作者: あさじなぎ


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4 何にもない

 噂で聞いたことがある。っていうかいわゆる都市伝説ってやつだけど。

 ケータイでみたその手の話がのってる掲示板サイトでは、あやかしが実際にいて、ここ日本國の「闇」を支配しているって話だった。

 そんなのもちろん噂だし、あやかしなんているわけがない。

 そう思って流していた。

 私はじっと、伊織さんを見つめる。

 あやかし、妖怪、バケモノ。

 伊織さんはすって姿を消して、何もないところから突然現れて、銃を素手で壊していた。

 人間にそんな事、できるわけがない。

 だからきっと伊織さんの言っていることは本当なんだと思う。

 でも、あやかしだって言われて信じられるわけがない。

 私はカタカタと小さく震えながら、ぎゅっと持っているペットボトルを握りしめた。


「え、あ……」


 伊織さんはにっと笑って私を見たあと、申し訳なさそうな顔になり頭を下げながら言った。


「あんたの家、解体されるとかで荷物処分されたあとでした。申し訳ない」


 解体される……?

 借金とりたちは私が住んでいた家を手に入れたって事なのかな。お父さんたち大丈夫かな。

 そんな私の頭の中に、闇オークションにいた男の声が響く。


『親に売られた』


 って。

 その言葉を思い出したら心臓がぎゅっと痛くなる。

 悪い人が言っていたことだ。そんなの信じられない。

 でも……本当だったらどうしよう……

 私の周りで何が起きているんだろう。もうわけわかんないよ。

 お父さんたち、どこに行ったんだろう……

 不安で押しつぶされそうになっている私に、伊織さんはさらに畳み掛けてくる。

 

「それともうひとつ、あんたバイトしてましたよね。あんたのバイト先の人、あんたから電話があってバイト辞めますって言われたって言ってましたけど」


「え?」


 驚いて私は伊織さんの顔をじっと見つめる。私がバイト先に電話? しているわけがない。


「若い女の声だったって。俺たちが捕まえた中に若い女、いなかったんですよねー」


 言いながら、伊織さんは怪訝そうな顔になる。

 女の人が電話した?

 っていったい誰だろう。お母さん? いやそんなわけないわよね。いくらなんでも若い声には聞こえないと思うし……

 わけがわからず、私は首をかしげた。


「わ、私が電話かけられるわけ……」


「ですよねー。あんた、その電話の主に心当たりありますか?」


 伊織さんのするどい声が聞こえる。

 その声に私は思わずびくついてゆっくりと伊織さんの方を見る。

 すぐ目の前に伊織さんの顔があって、私は思わず身体をひいてしまう。

 真っ赤な瞳が細くなって私を見つめている。

 心当たり、ない。たぶん。

 私は不安な顔で首を横に振って言った。


「な、ないです。だって、私の周りの人とも限らない、ですよね」


「まあそうなんだよなぁ。とりあえず、あんたの家もないしバイトもない。あとあんた、借金ありますよね?」


 そう言われて私はハッとする。


「そ、そうです、借金! どうしよう……私、どうしたらいいですか? 借金返さないと私……」


 どうなるのかわかんないけど、もし返さなかったらまた、売られちゃう。そもそも私、借金のために売られるはずだったんだもん。でも売られなかったから、借金はそのままだ。

 そう思ったら身体が大きく震えた。心臓がバクバクいってすごく痛い。


「どうしよう、私見つかったらまた……!」


 そう訴えると、伊織さんは顔を歪ませる。

 そして頭に手をやって言った。


「えーと、俺はあんたには借りがある。保護しなきゃいけねえのに怪我、させちまいましたから」


 借り、ていわれて意味がわからなくって私は不安な気持ちのまま伊織さんを見る。

 伊織さんはすごく真面目な顔をして言った。


「本来、俺たちは保護対象の安全はぜってー守んなきゃいけないんですよ。なのに怪我させちまったし、それを俺たちは隠さねえといけない。だからあんたをここに連れ帰ったってのがあるんだけど」


「え、それってどういう」


「あんたが怪我したのがばれたら、報酬が減る、だからしばらくここにいてもらうことになるって事。だから大丈夫、売られるとかないですから」


 って、伊織さんは恥ずかしそうに答えた。

 あ、そういうことなんだ。

 なんとなく理解して、私は言った。

 

「つまり私、ここにいてもいい、ってことですか?」


 すると伊織さんは深く頷く。


「とりあえず俺の仕事手伝ってもらおうかと」


「仕事ってなんですか?」


 びくつきながら尋ねると、伊織さんは笑って手を顔の前で振る。


「俺、探偵やってんですよ。だからそれ手伝って」


「た、探偵……ですか?」


 探偵って言うと猫とか不倫調査とかのイメージ強いけど。

 

「私に不倫調査とか無理……」


「んなことさせないって」


 間髪入れずに言われてしまい、ちょっと恥ずかしくなる。

 そっか。そうだよね。

 伊織さんは頭に手をやって、うーん、て唸ってから言った。

 

「とりあえずそうだな……まあ雑用っつうか。それよりあんたから色々話聞かねえとだし。まず回復してからかな」


「あ……はい、わかりました」

 

 回復が先。確かにそうよね。頭痛いし、身体もなんだかふわふわするし。

 とりあえず衣食住は確保されたけど……私これからどうしよう。

 両親の行き先もわからないし、私かなり詰みじゃないかな。

 未来が見えないってこんなに不安なんだ。

 それが顔に出たのか、伊織さんの手が私の頭にそっと触れた。

 私なんかよりずっと大きな手だ。


「大丈夫、ここにいれば安全だからな」


「伊織さん……」


 そう言われるとちょっとだけ気持ち、落ち着く気がした。

 その時だった。いきなり障子が開いて、どこか見覚えのある女の子が入ってきた。


「あれ、伊織、葉月ちゃん、目を覚ましたの?」


 って言いながら伊織さんの隣にぺたん、と座る。

 足音も無くすっと。

 茶色の髪に、印象的な金色の瞳。なんか猫みたいに見える。

 ミニスカートに羽織りみたいな、赤っぽい派手な上着を羽織っている。

 彼女は私の方を見つめて手を振りながら言った。


「私は猫田桔梗。よろしくね。貴方の着替えとかしたのは私だから、安心してね?」


 ってふざけた口調で言う。

 

「あ……えーと、当麻葉月……です」


「ごめんねー、怪我させちゃって。この馬鹿がさっさと制圧しなかったからこんなことになったのよ、ねー、伊織」


 いたずらっ子みたいに笑って、桔梗さんが伊織さんを指差しながら言う。

 すると伊織さんは顔をしかめて言った。


「うるせーぞ、桔梗」


 あやかしの総大将って言っていた割にはなんか軽い扱われ方だなぁ。

 そう思いながら私はふたりのやり取りを見つめる。


「まさか伊織の家に連れて帰るなんて思わなかったわよー」


「うちが一番安全だからな」


「あはは、そうかしらー」


 桔梗さんがころころって笑う。

 すると伊織さんはすっと立ち上がって言った。


「俺はやることあるから行くわ。とりあえず桔梗、この子の世話は頼んだ」


 桔梗さんは振り返って、ひらひらっと手を振りながら言った。


「わかってるわよー」


 そして伊織さんは私の方を見てふっと笑い、


「とりあえずゆっくりしてな」


 って言って、背中を向けて障子を開けて部屋を出ていった。

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