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家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる  作者: あさじなぎ


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27 飲み会へ

 キチジョウジの繁華街にはたくさんの居酒屋さんがある。

 伊織さんの事務所から少し歩いた場所にある、ちょっと薄暗いお店。

 天岩戸あまのいわとっていう変わった名前のその居酒屋に、私は連れてこられていた。

 個室がたくさんあって、室内はまるで洞窟みたいに壁がごつごつとしていて、足元にだけ橙色の照明が灯っている。

 席は掘りごたつになっていて、室内は大人が五人入っても余裕の広さがあった。

 その一室に集まった、村雨探偵事務所の面々。

 私以外は皆、お酒が入ったグラスを片手に持っていた。

 赤地に白い猫の柄が入った上着を着た桔梗さんが、大きくグラスを上にかかげて言った。


「はいはーい、ではー、葉月ちゃんの明るい未来にかんぱーい!」


 桔梗さんの言葉の後に真琴さんたちの声が続く。


「カンパーイ!」


 そしてぶつかるグラスの音。

 

「か、かんぱい」


 私だけがジンジャーエールが入ったグラスを遠慮がちに皆のグラスにぶつけて、それを口につける。

 なんだか初めてくるお店ってすごくドキドキする。しかもお酒のお店なんて初めてだから余計に。

 私の目の前に座っているのは真琴さん。斜め前に祐飛さん。私の隣に桔梗さんで、私の角を挟んで九〇度の所に伊織さん。

 室内に入った瞬間、自然と一番奥の席に伊織さんが座って、それに倣うように皆が座ったのがちょっと面白かった。

 出口に一番近くに座っているのが桔梗さん。これってきっと意味があるんだろうけど、私にはその位置関係の意味はわかんなかった。

 ぐい、って一気に麦酒を飲み干した桔梗さんは、すぐにお品書きを開く。

 

「ねえねえ次何飲むー?」


「俺は八海山だな」


「僕は梅酒の氷割ー」


「俺はまだいい」


 って、伊織さんから順番に飲む物を言っていく。

 祐飛さん以外、飲むの早くないかな。

 そう思っていると扉が開いて料理が運ばれてきた。


「お待たせいたしました、こちら揚げ出し豆腐、お刺身の盛り合わせ、肉じゃが……」


 と、お店の人が座卓に料理を並べていく。

 一気に料理が来た。


「うわぁ……」


 私は並んだ料理を見て、思わず声を上げる。

 隣に座る桔梗さんが、お刺身に箸を伸ばして、


「お魚おさかなー」


 って歌ってる。

 ふと桔梗さんの方を見ると、頭から三角の耳が生えていた。

 

「み、耳……」


 私が思わず引きつった声で言うと、伊織さんが苦笑交じりに言った。


「だからこの店選ぶんだよ。酒入ると耳やら尻尾やら出てくるからな。個室なら店員以外には見られねーし、薄暗いからあんまり気にもされねーし」


「僕は耳出しっぱなしでも驚かれないけどねー。コスプレって思われてるし」


 妙に明るい声で言ったのは真琴さんだった。

 そういえば真琴さん、三角形の耳、いつも出しっぱなしな気がする。

 すると祐飛さんが、とり箸で肉じゃがをとりながら静かに言った。


「お前、少しは気にしろ」


「なんだよー。祐飛なんて羽根まき散らして消えるくせにー」


「俺は人前でそんな軽はずみなことはしないからな」


「きゃはは! まこちゃん、耳出しっぱなし痛すぎー!」


 そう、桔梗さんが真琴さんを指差して笑う。

 これは桔梗さん、酔っぱらってるのかな。

 この飲み会、終わるころに皆どれだけ人の姿をしていられるんだろう。

 そう思うと不安なような楽しみなような、って感じだった。


 だいぶお酒が進んできたころ、私はずっと疑問に思っていたことを伊織さんに尋ねた。


「あの、伊織さん」


「んー、なぁにー?」


 にこにこと笑って伊織さんは私の方を向く。


「あの、最初に会ったとき、ナイトヴァルトって名乗っていましたよね」


 ずっと不思議に思っていたんだ。

 あやかしの集まりなのになんで横文字なのかなって。

 伊織さんは頷いて、唐揚げを箸でつまんで言った。


「あぁ、そうだけど」


「それってドイツ語なんですよね。夜の森っていう。なんでドイツ語なんですか?」


「かっこいいから」


 間髪入れずに言って、伊織さんは四杯目のお酒をぐい、って飲んだ。

 かっこいいから。

 私はウーロン茶が入ったグラスを手に持ったまま、目を瞬かせて伊織さんを見つめる。


「そ、そ、そんな理由?」

 

 もっとこう、なにか深い意味があるかと思ったのに。

 すると伊織さんは、グラスを片手に顔をしかめて言った。


「だって、政府のやつらわけわかんねえだっせー名前提案してきたんだぜ? 『あやかし探偵団』とか『妖力調査団』とかさー」


「そ、それはかっこ悪い……」


 私が苦笑して言うと、伊織さんはうんうん、て頷く。


「だろ? だから、当時いろんな人に話聞いて、これだって思った名前にしたんだよ。夜の森、ナイトヴァルト。かっこいいだろ?」


 そう、伊織さんはドヤって顔で言う。

 私も何度も頷いて答えた。

 

「確かにさっきの名前よりはずっといいと思います」


「そうねー、最初聞いたときは横文字だし意味も分かんなくって、伊織ってば何考えてるのかなって思ったけど、今にぴったりよねー」


 と言って、桔梗さんが何杯目かもわからないお酒をグイッて飲んだ。

 これ、たぶんそうとう酔ってるよね。

 私はだしまき卵をとって、口に運んだ。

 こういう卵たべるの初めてかも。卵焼きって甘いイメージあったけどこういうのもあるんだなぁ。

 ひとり感心していると、おもむろに桔梗さんが私の首に巻きついてきた。


「葉月ちゃーん」


「ひゃぁ!」


 びっくりして声が出て、私は身をちぢこませてしまう。

 まるで猫が甘えるように、桔梗さんは私に頬ずりして甘えるような声で言った。


「女の子がいるのうれしー。女の子って柔らかくって可愛いよねー」


「は、はぁ……」


 どう答えていいかわかんなくって、私はどぎまぎしながら答える。

 桔梗さん、なんだか甘い匂いがする。

 これは何の匂いだろう。伊織さんみたいなお香の匂いなのかな。それとも香水なのかな。私にはよくわかんなかった。

 すると真琴さんが頬杖ついてニコニコしながら言った。

 

「葉月ちゃん、ここでの生活慣れたー?」


「あ、はい。なんとか。ちょっと人が多いですけど」


 苦笑して言うと、真琴さんがうんうん、て頷く。


「トーキョーって人、多いからねー」


「だからー、私たちみたいな派手な格好の人がいても目立たないんじゃないのー」


 私に抱き着いたまま、桔梗さんが真琴さんの方へと顔を向けて言った。

 確かにそうかも。

 伊織さんは白髪。真琴さんは金髪だし、桔梗さんだって明るめの茶色い髪だ。

 でもここトーキョーじゃあもっと派手な髪色の人はいるし、派手な服を着ている人もたくさんいる。だから伊織さんたちの格好、さほど目立たないのよね。

 私が住んでいた地方都市ならすごく目立ったと思うもの。

 

「皆さん、本来の姿があるんですよね。髪色とかって変えられないんですか?」


「そこまではできないのよねー。化けるにも元の姿の影響受けちゃうのー」


 そんな桔梗さんの言葉を聞いて、私は伊織さんの方を見やる。

 真っ白な髪。真っ白な肌。ってことは伊織さんの本当の姿って、白いんだろうな。

 ぬらりひょんって、ネットで調べたらおじいさんの姿って出てきたけど、伊織さん、おじいさんには見えないし。

 伊織さんの本当の姿ってどんなんだろう。


 

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