1 闇オークション
平惺の時代。携帯電話が普及してだいぶ経った。
私たち十代の若者が入り浸るネット掲示板で人気なのは都市伝説だ。
その中でもよく見かける話。この日本國には闇の執行官、て呼ばれる政府の組織があるらしい。
彼らは人間じゃないから、人間が法の網をかいくぐってやる犯罪を取り締まり闇に葬ると言われてる。
そんな噂話。
人間じゃないならなんだろう。
化け物? あやかし?
そんなのいるわけないじゃない。
だけど……今、私はその存在を信じたかった。
私、当麻葉月。十八歳。どこにでもいる高校生だ。なのに今、人生のなかで一番最悪な状況におかれていた。
周りには私と同じくらいの女の子たちがソファーに座らされて、震えながら舞台から聞こえる声を聞いている。
どうしてこうなっちゃったんだろう……
怖くて身体がぶるり、て震えた。
辺りは薄暗くて、非常口を表す緑色の電灯だけが心もとなく光っている。そして私たちを見張る黒い羽織に仮面で顔を隠した男たち。すごく異様な雰囲気だ。
私たちは全員、白地に雪の柄が入った和モダンな、袖がひろがったワンピースを着せられている。
それに皆、声が出せないように口を塞がれていて何にも喋れない。それに手や足には枷が嵌められていて、歩くことはできても走るまではできない。
ただ、ソファーに座らされてすすり泣いて、自分たちの番を待つだけだった。
『……千出ました! その上はいませんか?』
そんな声が聞こえてきて、すすり泣く声が続く。
不安な気持ちで私は舞台袖に置かれたブラウン管のテレビを見つめた。
テレビは六個くらい並んでいて、客席や舞台の上を映し出している。映像はあんまりきれいじゃない。
舞台の上にはたぶん二十歳前後の黒い髪の女の子が、手錠と足枷をされて床にへたり込んでいる。
彼女には千の価値がついたらしい。たぶん一千万円、てことよね。
そう思ったらものすごく怖くなってきた。
これは人身売買の闇オークションだ。
なんで私みたいな何のとりえもない高校生がオークションにかけられてるのよ?
『じゃあね、葉月。楽しい大学生活送ろうねー』
『うん、奈美、好きな人とうまくいくといいねー』
って、友だちの奈美と別れて家には行ったら、家族がいないもぬけの殻の家が待っていた。
そこに現れた借金取りによって、訳が分からないままここに連れてこられた。
最悪が過ぎる状況でしょう、これ。これ以上の不幸なんてこの世に存在しないと思う。
映像は暗くて客席の様子はよくわからない。舞台の大きさからしてけっこう広いと思う。
舞台の上には顔の半分を隠した黒い羽織にスラックスを穿いた姿の人がいて、ワイヤレスのヘッドマイクをつけて喋っている。
袖から新しい女の子が舞台上へと連れて行かれる。たぶんあれで六人目。皆同じしろいワンピースを着せられているんだけど、胸に数字が書かれている。
あの子は六。私は八。
ってことは、この次の次が私の番?
そう思ったらすごく怖くて身体が震えてくる。
マイクをつけた仮面の男が女性を手で示して言った。
『ナンバーシックス、親を失いひとりけなげに奨学金を受けて大学に通う才女です! まだ清らかな身体です。百からどうぞ!』
清らかって何よ? そう言う意味よね。想像するとすごく気持ち悪い。
カタカタ震えて見ていると、仮面の男が視線を巡らせる。
『千百でました! ……はい、千二百! 次はいませんか?』
なんでこんな人身売買が許されてるのよ?
ありえないでしょ?
怒りに震えるけど、私にはなすすべもない。
次の子が連れて行かれていく。私、この次だ。どうしよう。
私を連れ去った人たちは借金取りだって言っていた。
借金を残して夜逃げしたから、私を売って借金返済に充てるつもりらしい。
マジで意味わかんないんだけど。お父さんたちが借金していたなんて聞いたことがない。
なのになんでこんなことになっているんだろう。
あー、みじめな人生だったなぁ。そう思ったら涙が出てきた。
そんな私に、黒いスーツに顔の半分を隠した仮面の男が近づいてくる。
「八番、いくぞ」
と、がっと私の腕を掴む。
抵抗しても無駄だよね。私は力なくその男に従う。
私をつれて舞台を歩きながらその男は言った。
「お前、親に売られたんだろ? ここにはそういうやつばっかり集められるからな」
と、下卑た笑いを浮かべる。
なにそれ、どういうこと? 私、借金のカタに売られたって事?
ない、そんなことあるわけないじゃない。絶対おかしいよ。何か裏があるはずだ。
言いかえしたいけど口をふさがれているからなんにも言えなくて、私は男に引きずられながらぶの真ん中に連れてこられた。
そして腕を離されてその場にペタン、と座り込む。
手も足も冷たくて感覚がない。
客席を見回すと、けっこう人がいるみたいだった。
スーツよりも和装っぽい服の人が多いかも。お金ある人は和モダンみたいな服、着たがるんだよね。
みんな仮面を被っているから顔まではわかんない。
私、この人たちに買われるんだ。
あーあ……短い人生だったな。売られたら私、どうなるんだろう。
私の頭の中に、両親と妹、それに卒業旅行に一緒に行った友だちの顔がよぎる。
奈美、きっと心配しているよなぁ……
そう思うと、自然と涙が溢れ出た。そんな私の想いなんて無視して、司会の声が響く。
『ナンバーエイト! 高校を卒業したばかりです。まだ清らかな身体で、この子も髪を染めたことのない綺麗な黒髪をしています。百からでお願いします』
なにその宣伝文句。
他に何かないの?
私は客席を見ながら扉が開いて救出が来ないかなと妄想する。
掲示板で読んだ都市伝説。正義の味方が颯爽と現れて助けてくれるとかないかなぁ……
やだ、絶望過ぎて幻まで見えてきそう。
なんかマイクのスタッフが値段を言っているけどよく聞こえない。
その時だった。
バチン。と電気が落ちた。




