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卵搬士キャリルは落としません! ~ドラゴンの卵だって運びます!~

作者: 四十早
掲載日:2026/01/10

朝ご飯で玉子を落としました。

その勢いで書きました。すみません!


この子は、きっと落としません!

「今日は絶対に、落とさないんだから!」


キャリルは、背中の卵を抱えながら岩場を走っていた。

石食い鳥の巣からは、もう十分に距離を取っている。


(大丈夫)


自分に言い聞かせる。

歩幅も、呼吸も、乱れていない。

卵の温度も――まだ、保たれている。


あとは、森に入るだけ。


石食い鳥は岩場では速い。

だが、森には入れない。

重たい体と大きな翼では、枝に引っかかって進めなくなる。


森は、もうすぐそこだった。


(よし!)


足元は、ごつごつした岩場。

ところどころに、湿った苔が張りついている。


(私だって、成長してる)


卵ギルドの訓練場で、何度も歩いた。

滑りやすい岩、重心の移動、抱え直すタイミング。

全部、体に叩き込んだ。


――いける。


そう思った瞬間、視界の端で何かが動いた。


「あっ」


苔トカゲ。


岩場では不釣り合いな、鮮やかなオレンジ色の小さな魔物だ。

卵搬士のあいだでは言われている。

苔トカゲを踏むと、卵運が下がる。


(だめ)


反射的に、足を引いた。


次の一歩が、苔の上に乗る。


――滑った。


「っ……!」


体が前につんのめる。

とっさに、バランスを取ろうとして――


背中が、軽くなった。


(だめーーーーーー)


卵が、宙に放り出される。


手を伸ばす。

届かない。


ゴツン。


岩に当たった。


「ああああああああああああああああああああああ!!」


声が、岩場に響き渡った。


◇◆◇◆◇◆


その瞬間、背後で空気が震えた。


――タマギャアアアアアア!!


石食い鳥の咆哮。


(まずい……居場所が、わかった)


羽ばたきの音が、急速に近づく。

岩を蹴る、重たい足音。


逃げるしかない。


キャリルは転がった卵を抱き上げ、走った。

殻は割れていない。

だが、胸に当てた感触が――おかしい。


グシャン。


卵の内側で、はっきりと何かが壊れる音がした。


「……っ」


立ち止まる暇はない。


森は、すぐそこだ。


キャリルは枝をかき分けて森へ飛び込み、

背後で――羽音が、止まった。


石食い鳥は、入ってこない。


◇◆◇◆◇◆


安全になって、ようやく分かってしまう。


キャリルは、震える手で卵を抱き直した。

温度が、少しだけ――低い。


「……ごめん」


割れてはいない。

けれど、卵はもう、元には戻らない。


◇◆◇◆◇◆


卵ギルドの報告窓口は、今日も静かだった。


帳簿をめくっていた、いつもの受付嬢が、キャリルを見る。


「……キャリルさん」


視線が、背中に卵がないことに気づく。


「また、落としたんですか」


責めるでもなく、淡々と。


「……はい」


キャリルは帽子を取り、頭を下げた。


「クエスト番号、二一七。

 石食い鳥の卵……輸送中に落下。

 殻は無事ですが、内部損傷です」


受付嬢は赤い印の札を取り出す。


「今回は、どこで?」


「岩場です。苔……」


「苔トカゲ?」


「……はい」


一瞬、手が止まる。


「……避けたんですね」


「……はい」


短い沈黙。


「判断としては、間違ってません」


その一言が、胸に刺さった。


「卵税は免除。

 報酬は支払われません。

 次の受注は――一週間後からです」


キャリルは、うなずく。


一つ運べば残るはずだった、八百ゴールド。

それは、消えた。


「……訓練場、空いてますか」


「空いてます。

 一回、五十ゴールドです」


「……お願いします」


受付嬢は、いつもの声で言った。


「無理、しないでくださいね」


◇◆◇◆◇◆


卵は、落とさない。

落とさなければ、生きられる。


でも――

落としたからといって、終わりじゃない。


キャリルは、背中を伸ばした。

次は、落とさない。


そう、決めるしかなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

卵は落ちましたが、キャリルは前を向いています。

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