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灯火  作者: 暦海


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4/15

そう言われてしまえば

「……これで、良いのかな」



 翌日、昼下がりにて。

 ぼんやり辺りを眺めながら、一人ポツリと呟く。そんな私がいるのは、六畳ほどの一室――図々しくも昨夜から居座っている、エリスの部屋だ。


 ただでさえ迷惑を掛けているし、私としては事が済めば速やかに去るつもりだったのだけど……行く宛がないならここにいれば良いと、なんとエリスの方から提案してくれて。(いた)く申し訳ない気持ちはあったけど……この上もなく有り難い彼の言葉に、今こうして甘えてしまっているわけで。なのに――





『………………あれ?』


 

 久方振りの、暖かな夜のこと。

 そう、呆然と声を洩らす私。と言うのも――決意を固め待ち構えるも、一向に手を出してくる気配がなく……えっと、これはいったい――


 ……もしかして、自分から脱いだ方が良いのかな? 経験上、自分から脱がせたい男性(ひと)も一定数いるようなので着たままなのだけど……まあ、そういうことなら――


『…………ん?』


 一人そんな結論に至り、自身の衣服(ふく)に手を掛けようとして――ふと、ピタリと止まる。……いや、なんでって――



『…………すぅ、すぅ』



 ……いや、寝ちゃってるんですけどこの人。



 ともあれ、結局何もしていない――どころか、指一本触れられてもいないわけで。当然ながら、これで報酬を受け取るわけにはいかない。なので、昨夜前払いでくれた代金を返そうとしたのだが――



『――いや、なんでだよ。俺が勝手に寝ただけで、別にあんたが職務を放棄したわけじゃないだろ』


 ピシャリとそう言って、断固として受け取りを拒むエリス。……まあ、そう言われてしまえば返せる口実なんてないんだけど。


 ともあれ……うん、改めて振り返るとほんと何もしてない。流石に、こんな私でも心が痛……いや、でもこうして置いてくれてるくらいだし、また幾らでも機会はあるだろう。昨日は……うん、きっと思ったより睡魔が強かったのだろう。




 ……ところで、それはそれとして――



「……随分、綺麗だよね」


 そう、一人そんなことを口にする。昨夜、初めて目にした時から思ってはいたけど……失礼ながら、この古びたアパートの部屋には似つかわしくないほどに綺麗な装飾が施されていて。


 尤も、『そういう目』など持ち合わせていないので詳しいことは分からないけど……カーテンからカーペット、お皿や燭台、寝具から陶瓶――そして、そこに生けられている色とりどりの花々に至り、その全てがなかなかに高価なものではないだろうか。趣味……にしたって、この出費を別の――例えば食費なんかに当てれば、もっと充実した暮らしができ――


 ……いや、()そう。どんな生活をしようとも、当然ながら彼の自由――余計な詮索など、野暮という他ないだろうし。





「……あの、エリス。やっぱり、これ――」

「いや、別に良いって。それより、飯にしようぜ。今日は――」



 それから、二週間ほど経て。

 少し肌寒くも穏やかな朝、そう言って差し出す私を留めつつ答えるエリス。そんな私の手には数多の紙幣――例によって、昨夜前払いで渡してくれた代金が。


 そして、例によって彼は私に指一歩触れず、次第に眠りへと落ち――出会ってから二週間、その間も何度か彼から『申し出』があったのだけど、いつもこのパターン……つまりは、報酬だけをもらった上で私は何もしていないわけで。せめて、服を脱ぐくらいすべきだったか……いや、別に相手から求められてもいないのにそれもおかしいか。



 …………求められてもいない、か。





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