困惑
「……ここ、なの……?」
「……不満か?」
「ああいや、そうじゃなくて! その、初めてで……こんな、綺麗なところ……」
「……別に、綺麗でもねえよ」
それから、およそ30分後。
茫然と呟く私の問いに、少し躊躇う様子で尋ね返す美青年。いやいや、不満なんてあるはずなくて! お世辞でも何でもなく、こんな綺麗なところは初めてでびっくりして……まあ、びっくりしたのはそれだけが理由じゃないんだけど。
ともあれ、私達がいるのは少し古びた木造アパートの二階奥に在する一室――もう10年以上も住んでいるらしい、一人暮らしのエリスの部屋で。
『――ああ。……だが、その前に移動しないか? つっても、別に大した場所でもねえけど……たぶん、此処よりはましだろ』
そういうことですよね――30分ほど前、船の上にてそう問うた私に、少し顔を背け答えるエリス。そして、繰り返しになるけど到着した先が彼の部屋で。
ところで……道中、そこそこ気まずくなるかと思ったけど――存外、そうでもなく。私も――そして、恐らく彼も、お世辞にもコミュ力に長けてるとは言えないだろうけど……それでも、不思議と会話は心地良かった。
そして、その会話で最も驚いたのが――彼は、もう30手前だということ。つまりは、私より一回り以上も歳上で……うん、全然見えないや。……まあ、それはともあれ――
「……それじゃ、さっそく――」
「――その前に、腹減ってね?」
「…………へっ?」
「……あの、エリス。これは、その……」
「……悪いな、大した食事は出せな――」
「いやそうじゃなくて! そうじゃなくて……その……ただ、申し訳ないなって。エリスは、お客さんだし……そうでなくても……その……」
「……ああ、そんなことか。別に気にすんなよ。客側が勝手に出す分には自由だろ?」
「……まあ、そう言われれば」
それから、数分経て。
そんなやり取りを交わしつつ、円卓にて向かい合う私達。そんな二人の前には色の良い羊肉、ほんのり湯気の漂うスープ、イチジク、黒パン、そして芳醇な香り漂う飲み物が。控えめに言っても、私にとっては十分に大した食事で――
……でも……なんで? なんで、そこまでしてくれるの? 私なんかのために、どうして――
「……ご馳走さまでした。その……ほんとに美味しかった」
「……そっか、それなら良かった」
それから、十数分経て。
そう伝えると、仄かに微笑を浮かべ答えるエリス。もちろん、お世辞でなく本当に――本心から、美味しかったと思っている。でも、それはきっと食事そのものだけが理由ではなく――
それから、暫し経過――とうとう、その時間がやって来て……うん、ここまでしてもらったんだ。せめて、返せるものは……最低限、お代以上のものはお返ししないと。そんな決意を固め、二人ゆっくりと毛布を纏い――
「………………あれ?」




