表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯火  作者: 暦海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/15

衝撃

「……今日も、誰も来ないか」



 時は戻り、16歳のある冬の日。

 朧な月が仄かに照らす寒空の下、独り呟きを洩らす。そんな私がいるのは、例の廃れた船の上――ここでお客さんを待ち構え、あの廃れた船室へと移動し事に及ぶという流れで。


 ただ……ここ二週間というもの、お客さんどころかほとんど人の通る気配もなく。まあ、こういう仕事であるからして、あまり人通りの多い所は選びたくないので致し方な……いや、そもそも仕事と呼んで良いのかも定かでないけど。



 ……思えば、いつからだろう。体を売ることに――顔も名前も知らない男性(ひと)と交わることに、さしたる抵抗もなくなっていたのは。楽しくもないけど、嫌なわけでもない。言ってみれば、虚無――ただ淡々と、生きていくため事を熟すだけ。そして、これからも――



 ――いや……このままだと、そのこれからがあるかどうかも定かでないか。さしあたり、どうにか生きていける程度のお金はある。……それでも、この状態が続けばいつかは――


「……いや、別に良いんじゃない?」


 黙考の最中(さなか)、ふとそんな言葉が洩れる。そうだ、今更だけど……別に、死んでも良くない? そもそも、こんな希望も何もない惨めな人生――どうして、無理に生命(いのち)を繋ぐ必要なんてあるのだろう。それこそ、今この瞬間(とき)にでも――



「――なあ、ちょっと良いか?」


「…………へっ?」



 卒然、凛とした低い声が届きハッと顔を上げる。すると、そこにいたのはハッと息を呑むほどに綺麗な男性。少しクセっ毛のある艷やかな黒髪に、雪のように白い肌――そして、吸い込まれるほどに深い碧を宿した瞳。恐らくは、歳のほど20前後……それでいて、何処か(かげ)のあるような――



「――俺はエリス、あんたは?」

「……へっ? あ、えっと……私はソフィ、です……」


 すると、不意に届いた問いに呆然とする私。いや、本来なら何ら驚く質問(こと)じゃない。ないのだろうけど……私としては、結構な衝撃で。だって……名前を聞かれたことなんて、もういつ以来というほどご無沙汰だっ――


 ……いや、それはともあれ――


「……えっと、エリスさん。こうして、私に話し掛けてるってことは……その、そういうことですよね?」


 そう、期待を込め尋ねてみる。正直、こんな綺麗な人がどうして私なんかに……『そういう相手』なんて、他に簡単に見つかりそう……と言うか相手から言い寄ってくるだろうとか、そんな根本的な疑問はあるのだけど今は措こう。とにかく、今は大切なお客さんを逃さぬよう――


 ただ、それにしても……うん、我ながらほんと呆れ果てる。ついさっき死んでも良いなんて言いながら、希望が見えた途端これなんだか――



「――ああ。……だが、その前に――」


「…………へっ?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ