表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯火  作者: 暦海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

苦痛

「…………ひどい」


 

 滔々と語られるエリスの話を聞き終えた後、ポツリと洩れた一言。……そんなの、ひどい。ひどすぎる。エリスは、本当に……本当に、頑張っていた。そして、それは自分のためだけでなく、ご両親のためにも。

 ……なのに、その両親からは理不尽極まりない仕打ちを受け、更には犯罪者……それも、その中でも罪の重い殺人犯の子どもとして、不遇なんて言葉じゃ収まらないほど過酷な扱いを受け……それで、あんな方法でしか生計を立てる術もなくて――


 ――ふと、思い出す。……そっか、あの時の……お墓の前で謝罪をしていたのは、両親が殺した被害者に対してで……でも、それだっておかしい。謝らなきゃならないのは――いや、謝っても取り返しなんてつかないけど――それでも、頭を下げなきゃならないのはエリスじゃなくその両親。なのに、なんで彼があんなにも苦痛に苛まれなければならないのか。私にとっては何も知らないその両親(ひと)達に、今これ以上もない憎悪が――



「――もはや、何もかもがどうでもいい……いつ死んでも良いと思っていた、そんな時だった――あの波止場で凍えそうに身を震わせ、それでも一人客を待ち続けるあんたを見かけたのは」


「…………へっ?」



 そんな黒い感情が渦巻く最中(さなか)、不意に微笑み告げるエリス。……えっと、私? いつ? まあ、あの時はだいたい波止場(あそこ)にいたので驚くことでもないけど……ともあれ、凍える寒さの中ということは、とりあえず冬であることは間違いなく――


「……なんで、だろうな。未だに、自分でも理由は分からない。……それでも、思った……いや、感じた。きっと、俺にとって必要な女性(ひと)なんだって」

「……っ!! …………エリス」


 刹那、衝撃が走る。……初めて、だった。誰かに、そんなことを言われたのは。それも、他ならぬエリスにそんなことを――必要なんて、私なんかには勿体ない言葉を掛けてもらえるなんて……もしかして、夢? ……うん、それならそれでいい。


 だけど、幸い……本当に幸い、これが現実なのだとしたら、今更ながら分かった気がする。わざわざ自分の部屋に連れてきて、報酬も渡した上で指一本すらも触れてこなかった理由が。


 ――彼は、体の繋がりなんて求めていなかった。彼が求めたのは、心――きっと、同じ苦痛(いたみ)を抱えているであろう私に心の繋がりを求めたのだと、今なら分かる気がする。……そして、私もきっと――



「……っ!!」


 卒然、思考が止まる。と言うのも、不意に彼の柔らかな手が私の頭に優しく――



「……だから、ありがとな。そして、今までよく……本当によく頑張った、ソフィ」

「……っ!! ……エリ、ス……」


 すると、ふっと降りてくるエリスの声。それは陽だまりのように暖かで、全てを包みこんでくれる優しい声。

 

 ……そう、本当は気付いていた。自分が、ずっと苦しかったことに。苦しいから、辛いから、何も感じないようにしていた。そうしないと、壊れてしまいそうだったから。そして、それはきっとエリスも同じで――


 ……でも、気付いてくれた。私の奥に――心の奥深くに閉ざした苦痛(いたみ)に気付いて、和らげてくれた。もう、大丈夫――そう言ってくれるように、優しく――


「…………う、ゔっ……」


 気付けば、声が……嗚咽が洩れる。……うん、もう駄目。もう――



「――うぁあああああああああああああああっ!!!!」



 堰き止めていた苦痛(いたみ)が、感情(おもい)が涙となって溢れ出る。そんな私を、ぎゅっと抱き締め包み込むエリス。そんな彼を、私もぎゅっと抱き締め返す。

 静謐な部屋に鋭く響く、けたたましい私の慟哭(さけび)――それを、いっそう強く抱き締めながら、彼はただ黙って聞いてくれていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ