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灯火  作者: 暦海


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10/15

……どうか、あと少しだけ――

「……ありがとう、ございました」



 それから、半年ほど経て。

 軽く頭を下げそう告げるも、こちらを振り向くこともなく去っていく恰幅の良い男性。そんな彼の衣服(ふく)は何とも華やか、そして腕や首には何とも派手なアクセサリーの数々。常連、というほどではないけど何度か来てくれているあの男性で。……うん、びっくりするほど何も変わっていない。一方、私はところどころに(ほつ)れの見える粗末な身形(みなり)――こちらも、あの時と何も変わっていないけど……ただ、違うのは今は私自らの意思でこの身形(みなり)を選んでいるということ。まあ、行為の最中は全て脱いでいるわけだけど……それでも、エリスにもらった服でここに来たくはなかったから。


 ……ところで、どうしてだろう。もう、すっかり慣れたはずの作業のはずなのに……今、こんなにも胸が痛むのは。



 ……ただ、それはともあれ――



「……そろそろ、良いよね?」


 そう、誰に問うでもなく呟く。この半年、なるべく頻繁にここに来ていた。もちろん、相当に時間は限られているけれど……それでも、可能な限りここ来ていた。


 だけど……うん、そろそろ良いよね? エリスからもらった分――尤も、彼からすれば正当な報酬として渡したという認識なのだろうけど――ともあれ、これまで彼からもらった分も含め、贅沢しなければしばらくは生きていけるくらいのお金は溜まったはず。もちろん、これだけならいつかは尽きるだろうけど――でも、この貯蓄で繋いでる間にどうにか仕事に就けばいい。何でも……本当に何でも良いから、とにかく真っ当な仕事に。あの時はまだ子どもだったけど、今はもう17――身寄りのない孤児(みなしご)でも、今なら何処か雇ってくれるところもあるかも……ううん、絶対にあるはず。


 そういうわけで、軽い足取りで帰路を進んでいく。珍しく、鼻歌なんて口ずさんだりして。でも、ご機嫌になるのも仕方がない。だって、これでもうエリスは――



「………………え」


 そんな、抑えようのない昂揚に胸を震わせていた最中(さなか)だった――卒然、希望から絶望の淵に突き落とされたのは。





「……ちょっと、待っ……」



 すっかり冷えた路上にて、力なくそう口にするも返答はない。まあ、それもそのはず……声を掛けるべき対象――私からあらかた紙幣を奪っていった掏摸(すり)犯は、もうとうに私の視界にいないのだから。……いや、仮にいたところで返答などあるはずもないだろうけど。……馬鹿だなぁ、ほんと。なんで、用心しなかったんだろ。こんなこと、この辺りでは日常茶飯事――普段なら、意識せずとも警戒を怠らなかったはずなのに。……まあ、理由は明白だけど。


 ともあれ、そんな馬鹿な私はというと……まあ、みっともなくうつ伏せで倒れているわけで。……うん、冷たいなぁ。


 でも……うん、もう動けないや。目の前で、呆気なく希望が潰えた――そういう、精神的な理由もあるかもしれないけど……そもそも、もう限界みたい……身体(こっち)が。


 ……でも、別に意外でもないか。そもそも、一年前まで――エリスと出逢う前のあの三年を鑑みれば、むしろ健康でいられる方が奇跡……あの瞬間(とき)望まずとも、いつ息絶えてもおかしくない状況で。

 ただ、そうは言っても……意地悪だなぁ、神様も。なにも、こんなタイミングでなくても――


「…………ん」


 すると、不意に背中にひやりとした感触が。まあ、確認せずとも分かるけど……朧な私の視界に映るは、真っ白な不香の花。ひょっとして、私の最期に花を添えてくれているのかな。……うん、悪くないね。



 …………だけど。



 ……だけど、少しだけ……どうか、あと少しだけ――





 

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