雨の日の行列
雨の朝。傘の下にできた“並ばない列”が、町を変え始める。
通りを打つ雨音が、屋根の波板を叩いていた。
シャッターの下に、わずかな人の流れ。
その中で、川嶋の喫茶店だけが忙しく動いていた。
「朝に頼んで、昼に取りに来られるのは助かるね」
買い物袋を抱えた老婦人が笑う。
アミナが差し出した包みは、名前入りの小さな紙袋。
「今日は混んでないですね」
春木が言うと、川嶋がカウンターを拭きながら答えた。
「混んでるわよ。見えないだけ。
人が“並ばない”って、こういうことなんでしょ?」
外には列がない。
でも、店の中では確かなリズムが生まれていた。
厨房の音、端末の光、客の笑顔。
通りを抜けた河原が足を止めた。
「……静かなのに、活気があるな」
春木は傘を閉じ、軽く会釈した。
「“待たない通り”、ようやく形になってきました」
雨が弱まり、看板の文字が光を取り戻す。
その通りは、ゆっくりと息を吹き返していた。
【作者より】
雨の中の“並ばない行列”。
通りが静かに息を吹き返していく姿を書いていて、少し胸が熱くなりました。
▶ 「市役所のドア」につづく




