もう一歩だけ(アミナ)
伝わらない言葉の隙間で、生まれる理解。
異国の少女が見つけた“音”のアイデア。
夜の喫茶は、静かだった。
アミナは閉店後、片づけを終えると、小さなノートを開いた。
「トリオキ……リザーブ……」
赤いペンで丸をつける。
そこへ春木が入ってきた。
「今日も遅くまでありがとう」
アミナは笑って首を振る。
「いいえ。今日、音を考えた」
「音?」
「ゆっくりの人が、すぐ分かる音。
でも、早い人は邪魔に思わない音。できる?」
春木は少し考え、目を細めた。
「……できるかもしれない。小さく、短く、優しい音で」
翌日。
常連の老夫婦が、画面に指を触れる。
ピロン――。
柔らかい音が店内に広がった。
「分かりやすいねぇ」
川嶋が、少し照れたように笑った。
「この音、アミナが考えたのよ」
春木は横で頷いた。
「言葉が違っても、“分かる”は作れるんです」
その瞬間、喫茶に流れた空気は、まるで春のように穏やかだった。
【作者より】
アミナが見つけた“音”は、言葉を越えた優しさでした。
次回からは、雨の通りとともに、町が変わり始めます。
▶ 「雨の日の行列」につづく




