合意形成の壁
一歩進めば、必ず抵抗がある。
春木は“便利”よりも“納得”を選ぶ。
「クレームが出たら即中止。混乱は御法度だ」
理事長・河原の声が響く。
商店街の理事会室。重たい空気の中、春木は深呼吸して立ち上がった。
「今日の目的は“売上”ではありません。
“混乱を起こさない仕組み”を試すことです」
「商売人の台詞じゃないな」
「ええ。でも、町を続けるための商売です」
昼、導入初日。
アミナはカウンターの中で笑顔を保ち続けていた。
「ここ、押すだけ、ね?」
常連の老夫婦が恐る恐る指を伸ばす。
ピッ――小さな音。
川嶋の手元の端末が光る。
「……できた?」
老夫婦が嬉しそうにうなずいた。
「“押すだけ”で通じるなら、悪くないじゃない」
川嶋がつぶやく。
春木は小さく拳を握った。
夕方、報告会。
「混乱なし。操作率七割です」
「ほう……」
河原は腕を組んだまま言った。
「“便利”だけでは駄目だぞ。皆が“納得”してこそ残る」
「それをつくります。今日からが本当のテストです」
【作者より】
“便利”より“納得”。
春木が選んだ道は、遠回りだけど確かな道です。
▶ 「失敗の朝」につづく




