商店街の影
シャッターの降りた通りに、春木が持ち込んだのは、派手な計画ではなく「手描きの地図」だった。
古びた商店街のアーチの下を、風が抜けた。
「空き店舗、また増えたな……」
坂本がつぶやく。
「ここでやってみませんか。」
春木の声は静かだが、真っすぐだった。
理事会の会議室。
重たい空気。理事長の河原が腕を組む。
「アプリだのシステムだの、年寄りには分からん」
春木はカバンから1枚の紙を取り出した。
それは通りの地図。手描きの矢印と、店の名前が並ぶ。
「観光客よりも、“暮らしている人”のために作りたいんです。
朝に注文して、夕方に受け取る。お年寄りが荷物を持たなくて済むように。」
河原は黙ったまま、地図を見つめている。
「……派手さはないが、筋は通ってる。」
奥から声がした。
「私は、試してもいいと思うよ。」
喫茶・川嶋の店主、川嶋千代だった。
「うちでやってみなさい。ただし、すぐにやめるかもしれないけどね。」
春木は頭を下げた。
「ありがとうございます。絶対に無駄にはしません。」
通りの空気が、少しだけ動いた。
その夜、春木の胸には確かに“希望の灯”がともっていた。
【作者より】
商店街という小さな社会に足を踏み入れた春木。
ここから、本当の挑戦が始まります。
▶ 「老舗のカウンター」につづく




