市役所のドア
小さな成功を社会に広げるために、春木は行政の扉を叩く。
産業観光課のドアをノックすると、明るい声が返ってきた。
「お、春木くん。例の通り、話題になってるよ」
担当職員の小野寺が笑う。
「ありがとうございます。実は相談がありまして」
春木は資料を差し出した。
紙の上には、“通り全体をつなぐ取り置きネットワーク”の図。
「災害時にも使える仕組みにしたいんです。
停電や通信障害でも、紙に切り替えられるように」
小野寺は驚いたようにうなずく。
「ITって言葉を使わずに、ちゃんと町の人が分かる仕組みだ。
これ、行政の実証プロジェクトに提案してみないか?」
春木は少し迷ってから頷いた。
「お願いします。……ただ、条件があります」
「条件?」
「この仕組みは、人を置き換えないこと。
効率じゃなく、“余裕”を増やすためのものにしたいんです」
小野寺は静かに笑った。
「分かった。そんな提案、聞いたの初めてだよ」
市役所の窓の外では、夕暮れの光が通りを照らしていた。
小さなプロジェクトが、町の外へ歩き出した瞬間だった。
【作者より】
行政と町をつなぐという現実的な壁。
それでも、春木の信念はぶれません。
▶「競合の足音」につづく




