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小さな違和感
昼下がりのカフェ。混雑の中で春木悠真が見つけたのは、たった一つの「不便」だった。
「すみません、まだですか?」
客の声に、店員が慌ててうなずく。
レジのベル、食器の音、オーダーの紙が飛ぶ。
窓際の席で、春木悠真は冷めたコーヒーを見つめていた。
「この光景、昔から変わらないな……」
彼はノートを開き、鉛筆を走らせた。
「待つ」「焦る」「謝る」。
その3つの言葉を線で結んで、ぽつりとつぶやく。
「“待つ”って、本当は必要ない時間なんじゃないか。」
注文を受けるよりも前に、準備ができていたら――。
客が“並ばずに済む”仕組みがあったら――。
頭の中でひらめきが形になる。
ノートの隅に書いた。
『誰も並ばない飲食体験』。
その瞬間、騒がしい店内の音が、ふっと遠のいた気がした。
【作者より】
読んでくださってありがとうございます。
春木悠真が感じた“小さな違和感”は、この物語のすべての始まりです。
次回は、深夜の部屋で彼が最初の一歩を踏み出します。
▶ 「一人称の夜」につづく




