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『姫騎士』だけど性別♂です!  作者: 神月大和
第一章 姫騎士クリスティーナ

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本日2回目の投稿です!

 当然、ラスティアの街へは素通りできた。領主の娘の権力とは絶大ということだ。クリスは馬車に乗せられたまま、ラスティア領主の屋敷敷地内まで連行された。――逃げ出す暇などあり得なかった。


「こちらですわ。あちらが本館ですが、わたくしが住んでおりますのは別館となりますの。そこでたいへん申し訳ない言い分ではありますが、今回わたくしを助けていただいたお礼は、別館にて、そしてわたくしからと言うことでお渡ししたいと思いますの。ああ、ご安心くださいませ。領主ではなくとも、わたくしの力は十分に領主相当はございますので、便宜や謝礼などは、十分なものが得られると思いますわ」

「別にそのようなものが欲しくてアネッサ様方を助けたわけではありません。お気遣いなど無用です」

「そう言っていただけると救われますわ」


 アネッサの境遇にはむろん疑問を抱いたが、貴族の内情に好んで関わろうとも思えない。クリスはそれ以上踏込みはしなかった。

 そうして、その様子にアネッサが眩しいものを見るかのように瞳を細めていることには、気が付かなかったのだ。


 アネッサの示した館は、別館とは言え、十分なお屋敷であった。ここにアネッサは、メイドであり護衛筆頭でもあるシャーリー、クリスが共に助けた女騎士達、他にも何名かのメイド達――と共に暮らしているのだと言った。


 クリスは、今日はもう日が落ちるために、そのまま別館への逗留を薦められた。それを承諾すると同時に、湯を勧められた。だが、譲れないことがある。


「それではお手伝いを」

「いいえ、それには及びません。……いえ、控えていただけると助かります。ボクの躰には、あまり人には見せたくないものが……」


 クリスは態と憂いを覗かせる様子でそう言った。


 ――裸を見られたらイッパツで男ってバレちゃうよ!


 その相手がシャーリーであれば目も当てられない。


「失礼いたしました。それではアネッサ様、クリス様のお手伝いは控えるようにいたしますが、よろしいでしょうか」

「そうですわね、それならば仕方がありません」


 女性(ひと)には――特にシャーリーには見せたくないモノがぶら下がっているクリスはホッと胸を撫で下ろした。

 アネッサが密かに口角を上げていることになど、まったく気が付きもしないで。



   ◇◇◇



「ふぅ……」


 とクリスは息を吐いた。

 白くしなやかな肢体。ポニーテール解かれた金髪は水気を含んでしっとりとし、湯にあたって上気した肌は艶めかしい。紫水晶(アメジスト)の瞳は、うっとりと緩んで、これでは裸を見てもそうそう男であるとは信じられまい。だが、彼が男であるという証はむしろ並みよりも立派にぶら下がっている。


 ただ、それでもその躰は、骨格と言い肉付きと言い、まだ十五歳でありつつも、少年と言うよりは少女のものと言われた方が納得出来るものだった。

 クリスが受けていた修業とは、そうしたものであった。


〈エルピス〉『姫騎士』。


〈エルピス〉とは、個々人に秘められた〝可能性〟である。

 その可能性を十全に輝かせるためには、それに相応しい〝行い〟をする必要があった。


 つまり〈エルピス〉が、自身に秘められた〝可能性〟が『姫騎士』であるのなら、「姫騎士」らしく可憐に高潔に。

 見た目や仕草を整え、「姫騎士」に相応しい〝行い〟を為す。そうすることでクリスの『姫騎士』という〝可能性〟は輝きを増し、『姫騎士』に相応しい〝強さ〟を与えてくれるのである。


 だからこそクリスは女性的な体つきになるように、そして、剣技も所作も可憐に高潔に。〝師匠〟によってそうした方向へと鍛えられた。


 ――本当は男らしくなりたかったんだけどなぁ……。


 もしも男らしく――男らしさと野蛮は別物だが――、クリスが粗野な振る舞いをするようになっていれば、『姫騎士』は輝かず、クリスに今のような強さをもたらしてはくれなかっただろう。


 そして〈エルピス〉の憎いところとして、クリスは『姫騎士』になるための修行が、根本的なところで嫌ではなかった。〈エルピス〉とはその人の〝可能性〟であり、と同時に、その人の〝本質〟でもあるのであった。


 ちゃぷり、と湯を掬って指の間から零す。

 その動作も、赤らんだ頬、潤んだ瞳、もはや自然と色っぽく、且つ凛を含んで「姫騎士」然としたものとなっていた。

 そこに――


「凄いですわね、もはや完全に女の子ですわ」

「――え?」


 クリスは我が目と耳を疑った。何故ならば、その声の主こそが貴族令嬢であり、夫となる男に以外には肌を見せることを許されず、クリスが実は男であることがバレれば、粛清されるしかない女性。

アネッサその人が、風呂場に、一糸まとわぬ姿で立っていたからであった。


 彼女は、全裸であった。

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