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『姫騎士』だけど性別♂です!  作者: 神月大和
第一章 姫騎士クリスティーナ

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 姫騎士クリスティーナは、十二歳になる時に受けた〈開錠の儀〉で、スキル『姫騎士』に目覚めた。彼女――否、彼、そう、彼女はクリスであった。


 クリスはそれに絶望し、その後孤児院でも色々と――そう、色々とあってそのまま町も飛び出した。冒険者を希望してはいたものの、まだまだ未熟な少年の時分であった。


 町を飛び出したは良いものの、早速とばかりにモンスターに襲われ、モンスターにも女だと勘違いされた彼は、ゴブリンに犯されそうになった。その時からゴブリンやオークと言った系統のモンスターを見た際は、必ず殺すようにしている――そこであわやと言う際に〝師匠〟に助けられ、そのまま彼に師事した。


 正式に冒険者となれるのは、この世界で成人と認められる十五歳からである。十五歳になるまでに死に物狂いで修業を積み、ようやく及第点を貰えて師匠の元から外へと出て来た矢先のこと。

まさか冒険者登録をする前にハイオークの群れになど出くわし、それどころか襲われていた貴族令嬢一行を助け出すことになろうとは。


 物語好きな者達であれば、「テンプレ!」と叫んでいたに違いない。そして彼自身もそう思い、これで冒険者活動の後押しになって、あわよくばこの可憐な貴族令嬢とお近づきになれるのではないのか。そう思うくらいには、見た目は紛うことなき姫騎士である彼も、思春期真っ只中の十五歳の少年であった。


 だが、未来のクリスは今の楽観的な彼を全力で殴っていただろう。そして、「逃げるんだ! そこはすでにドラゴンの口の中だ! お前は女難の星の下に生まれて来たんだから!」と叫んでいたに違いない。


「ふふっ、クリス様は今までその〝師匠〟と言われる方の下で必死に鍛錬を積まれてこられたのですね。尊敬いたしますわ」

「ありがとうございます、アネッサ様」


 見るからに高級と分かる馬車の中で、姫騎士クリスティーナこと少年クリスは、助けた貴族令嬢アネッサに隣に座られ、身を寄せられつつ内心の動揺を押し殺していた。


「……あの、アネッサ様?」

「はい、なんでしょうか、クリス様」


 コテン、と首を傾げる彼女はたいそう可愛らしく、透き通った緑の瞳がこちらを愉しげに覗き込んでいた。馬車の中にはクリスとアネッサとシャーリー。可憐な女性達の薫りで、クリスは正直クラクラともしていた。


「……近くないですか?」


 クリスはしっとりと自分に身を寄せて来ているアネッサに問いかけた。


 ――その、その大きくて柔らかな膨らみが、ボクの腕にしっかりと当たってるんだけど……と言うか、おっぱいって、こんなにも柔らかいんだ……。って、駄目駄目、今のボクは姫騎士なんだから! 硬くなっちゃ駄目。……えーっと、こういう時は、ひっめっきしー、ひっめっきしー。


〝師匠〟から学んだひっひっふーのリズムでクリスは呼吸を整えようとした。


 アネッサは、クリスの二つ上の十七歳だと言っていたが、年不相応な果実の持ち主であった。

 別段クリスは、〝師匠〟から自分がスキル『姫騎士』を持った少年であることを内緒にするようには言われていなかった。むしろガンガン言っていけとすら言われていた。が、


 ()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()だって言っても、こんな姫騎士の格好をしているのに、本当は男だって、恥ずかしくって言えない!


 ただでさえそうなのだ。

 それに、今の状況では、尚更明かしたくとも明かせまい。


 何せ、貞淑を保たなくてはならない貴族令嬢が、まるで「当てているのですわ」と言わんばかりにその豊満なおっぱいを押し付けているのである。クリスが男だとバレれば、処されてしまうに違いない。


 ――冒険者になる前に処刑されるとか、本当にゴメンなんだけど! ……ああ、馬車に乗るべきじゃあなかったなぁ……はぁ。


 と溜息を吐きそうになってしまうクリスである。が、そのようなクリスの心情など知らないのだろう、アネッサはにっこりと嗤っていた。


「問題はありませんわ。だって、女の子同士ですもの」

「…………」


 そうだろうね、君の中では。

 クリスはそう思うが、言えやしない。


「ソウデスネ」


 とクリスは硬い声で言った。

 そして、ちょっと腰を引いていた。命の危機を感じる場面ではあったが、男の娘である彼はしっかりと反応してしまってもいたのである。


 と、お嬢様のこともとてもとても気にはなったが、クリスにはそれと同等に気になる、困惑していることがあった。


「……はぁ、はぁっ。て、てぇてぇっ。凛として美しく格好良い姫騎士なのに、お嬢様に押されて困惑されている様子が……。はぁっ、はぁっ。……こ、このままお嬢様が押し倒してはくれないでしょうか……。うぅッ、あっ、鼻から忠誠心が……」

「あの……」

「あちらを見てはなりませんわ、クリス様。シャーリーは病気ですの」

「病気」

「はい、不治の病で、恐らくは二度ほど死んでこないと治らないと思いますわ」

「二度ほど、死んでくる……」

「はいですわ」

「はぁっ、はぁっ、辛辣なお嬢様に戸惑われる姫騎士……は、捗ってしまいますねっ!」


 クリスは向かいの座席ではぁはぁしているダークエルフのことは、考えることは止めることにした。

 病気ならば、シカタガナイ。


「まあ、気持ちが悪いものではありますが、シャーリー自体は悪い方ではありませんし、彼女のポリシーとして、百合は遠きに在りて愛でるものらしく、そして彼女自身にはそうした性癖はなく、ただ眺めて愛でることこそが尊いのだとか」

「ト・フィロティモ!」


 確かに病気であった。

 クリスは確かに触れてはならぬものだと理解した。

 そしてシャーリーは言うのである。


「後、百合に挟まれる男など死ねばいいと思います。いいえ、死など生温い、生まれてきたことを後悔するくらいに苛んで――万回殺すべきです!」

「…………あ、あはは」


 もしもその百合の花の片割れが、挟まれるどころかただの男と知ったのならば?


 ――絶対にバレちゃいけない!


 クリスは背中に、姫騎士にあるまじき汗をびっしりとかいていた。クリスに身を寄せるアネッサはアネッサで、その薫りをくんかくんかと堪能もしていた。


 ――嗚呼、下腹部が熱くなる薫りですわ。相性の良い方の薫りは好ましく感じられるそうですね……。


「……はぁ、はぁ……」

「どうかされましたか、アネッサ様」

「いいえ、ナンデモありませんわ。オホホ、すぅーっ、はぁーっ」

「そうですか」

「はぁはぁ」

「すはすは」


 クリスは、野獣共のいる馬車の中で、何故か売りに出される子牛の気持ちを味わっていた。

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