1
「クリス様っ!」
紫水晶の瞳の金髪ポニーテールの姫騎士(男装)の胸に、見るからに貴族と分かる少女が跳び込んだ。豊かな金髪に空色の瞳をした少女 クリスのはじめてを奪いもした伯爵令嬢アネッサであった。
彼女お付きのメイド百合好きダークエルフのシャーリーは鼻から尊さを垂れ流してイイ笑顔で燃え尽きている。
――いつもの事であった。
「今回は依頼を受けて下さりありがとうございますわ」
腕の中から視線を上げた彼女は喜色満面――だが、
「……ですが、話には聞いておりましたが、これがクリス様のパーティーメンバーですのね。……浮気者」
ポソッとクリスだけに聞こえる声で。
――いいや、百合好きダークエルフの耳には聞こえていた。
耳から砂糖が吐血していた。
「クリスの姐御、依頼主とは知り合いだったのかよ」
女傑族のカーラがムッとして。三尾の狐人であるハクラも面白くなさそうに。だが、アネッサが貴族であることに弁えてはいたようだ。冒険者相手ならば喰ってかかっていたに違いない。
「ええ、以前危ないところを助けていただき、それから懇意にさせていただいておりまのす。ですが、クリス様はあまり訪ねて来て下さらず、どうやら、釣り上げた魚には餌をやらないタイプであったらしいですわ」
「ふぅーん、この前あたしは酒を奢ってもらったなぁ」
「オレは肉を貰ったぞ! ふふん!」
「――へぇ?」
「い、いえ、それはパーティーの打ち上げでして……」
ジト眼のアネッサにクリスはタジタジだ。
「尊い……」
手を合わせてイイ貌で昇天しかけているシャーリーは放っておこう。
「それで、今回は目的地までの護衛を依頼したいということで……」
「そうですわ。この眼にまつわる依頼ですが――」そこでアネッサは憂悶の色を浮かべた。しかし、すぐに眸を輝かせると、「目的地までは、付きっきりの護衛をお願いいたしますわ。ええ、それは、夜も――」
と言うのである。
「あ、あははははは……」
――どうしよう。
クリスの正体は、二人のパーティーメンバーにはまだバレてはいなかった。が、この度でどうなることやら。
超積極的な伯爵令嬢の護衛の旅が、今始まったのだった。
◇◇◇
「ハァああッ!」
「GOBUUUUッ⁉」
緑色の小型の亜人モンスターゴブリンなど鎧袖一触。ラスティア伯爵家長女アネッサ一行の護衛を任された『プリンセスオーダー』は、時折襲ってくるモンスターを容易く蹴散らして順調に旅路を続けていた。
――前の時はハイオークが群れで襲って来ていたけれど、やっぱりそれはおかしいことだったんだよね。……アネッサ様を消そうとする奴らの仕業……。
そう思うとクリスは思わず拳を握り締めてしまう。
ヒトとして〝真実〟を覗かれてしまうことは、それはそれは恐ろしいことに違いない。が、そもそも覗かれて困るような悪事をする者が悪いのだし、それでアネッサを殺そうとすることは絶対に許せない。
――まあ、ボクもアネッサ様には覗かれてしまって、男ってことがバレちゃったんだけれど、……それで……、うぅ。
あの時のことを思い出して赤面してしまう。あれから時間の在る時は彼女の許を訪れて、順調に関係をはぐくんではいるのだが――クリスくんは、ヤることはヤる男であった――、やはり魅惑的な彼女との情事を思い出すと、まるではじめてのように身悶えてしまう。そうして、アネッサはそれをこっそりと覗いてはぁはぁと身悶えることが趣味となってきており、更には、それに気が付いてイチャイチャしだす二人を見るのが、シャーリーの致死量になっているのでもあった。
「嗚呼、相変わらずお姉様は素晴らしいですわ」
護衛の女騎士の一人がうっとりとしていた。
彼女は以前クリスに助けられた女騎士であって、金髪縦ロールの、あからさまにあからさまな女騎士でもあった。
「お姉様とは……、ボクの方が年下ではありませんか?」
「そうですが、心のお姉様ということですわ。駄目でしょうか、お姉様」
「良いだろ、姐御~、だって、あたしだって姐御よりも年上だろ?」
「そうそう、オレも~」
「まあ、そうですが……」――ハァ。
という溜息をクリスは押し殺す。
――どうしてパーティーメンバーの二人も、ボクの味方じゃないんだろうな?
世知辛い世の中だ。
他にもあった。
「仕方がないと思うッすよ~、だって、確かに見た目は年下なんすけど、なんて言うか、雰囲気がお姉様なんすよね。……あぁ、これでクリスティーナさんが男の人だったらなぁ、だって、あの時の雄姿は完璧に惚れてしまう王子様でしたもん。でも『姫騎士』。――いや~、姫でも凄いんすけどね、当然」
彼女も以前クリスが助けた女騎士の一人であった。赤髪のショートカットで、ケラケラと笑うムードメーカーらしい。
「こら、今は護衛中なのだから軽口は止せ。そうなるのも仕方がないとは思うのだが……」
そう、険しくさせていた瞳を緩めるのは、伸ばした黒髪が艶やかな女騎士である。彼女もあの場で助けた一人であった。生真面目そうな印象は受けるのだが、同僚の女騎士に注意はしても、クリス達にはとやかく言わないでいた。それは以前助けられていることもあり、クリス達が冒険者であって、尚且つ危なげなくモンスター達を屠って間違いなく護衛の役を務めきっているからだろう。
義理堅く、結果重視のようにも思われた。
すると彼女はニヤリと口端を吊り上げる。
「そうだな、次はお前が前に出てモンスターを倒して来てもらうか、『プリンセスオーダー』の面々は手出し無用。当然、こいつが危なかったら助けてもらいたいとは思うが――その場合はこいつに自腹で支払わせよう」
「うぇえッ! そんな殺生なぁ」
「おっ、あれ、モンスターが近づいて来ているぞ。ほらほら、行け」
「くっそぉお、この、鬼、悪魔、行き遅れ~っ!」
「あっ、ですわ」
と金髪縦ロールが上品に口元を押さえた。
ピキリ、と黒髪の女騎士のこめかみに青筋が浮いた。
「モンスターが、一匹増えたようだな……」
キチリ、と剣の柄を握り締めていた。
キレてはいるらしいが、流石に此処で襲い掛かったりはしないようだ。が、あの赤髪の彼女は、戻ってくればもう一戦待っているに違いない。
クリスはソッと心の中で手を合わせておくのだった。
ブックマーク、感想、評価、いいね、たいへん励みとなります!
少しでもオッと思っていただければ、是非是非ポチッと、よろしくお願いいたします!




